セラチア院内感染、改善策提出
セラチア院内感染、調査報告書からみた教訓の続報。まず、中日新聞、伊賀点滴事件、悲しみ癒えぬ遺族 「二度としないで」 2008年8月30日より、谷本整形が提出した主な改善策の部分を引用する。
【谷本整形が提出した主な改善策】点滴液は院長の指示で清潔な区域で準備し、作り置きは禁止する▽医療器具は原則使い捨て器具を使う▽手ふきタオルは使わずペーパータオルかエアータオルを使う▽基準の濃度の消毒液を使う▽医療安全管理対策委員会を院内に設置し、毎月1回定例会を開く▽看護主任などを新設し、職員の報告・連絡・相談体制を確立する▽医療安全管理のための研修を全職員参加で毎年7月と12月に実施する。
続いて、記者会見の状況。伊賀タウン情報You、事件・事故 : 点滴作り置き「指示していない」 谷本院長が記者会見より。
弁護士2人とともに会見に臨んだ谷本院長は冒頭、「深刻な被害が発生し、医療に対する信頼を失墜させたことを深く反省している」と改めて謝罪した。
会見の内容は以下の通り(抜粋)。
―点滴液の作り置きについて
谷本院長 自ら指示したことはなく、黙認したこともない。作り置きした点滴のパックを見たこともない。業務がスムーズにいくよう看護師が考えていたのではないかと思うが、誰のどのような指示で行われていたかは聞いていない。
―点滴治療は適正だったか
谷本院長 点滴は患者のニーズと納得によって行っている。なかには診察して点滴を処方する、という順序が逆になっていたケースもあった。診療をせず点滴をしていたケースが無いとは言えない。
―薄い消毒液の使用、タオルの共用について
谷本院長 危機管理意識の希薄さはあったと思う。タオルは共用しないようペーパータオルに代え、消毒液はディスポーザブル(使い切り)のものを使うようにし、セラチア菌の繁殖につながった事実を排除したい。
―診療再開について
谷本院長 亡くなった患者さんもおり、責任の重さから廃業も考えたが、もう一度この問題を真摯に受け止め改善することで、地域医療の一員としてやっていきたい。私の思いとして、診療再開を考えている。
記者会見の状況について、毎日新聞、伊賀の点滴死亡:谷本整形、作り置き指示は否定−−改善報告書を提出 /三重より。
◆会見一問一答
◇「利益優先ではない」
谷本広道院長の記者会見の主なやりとりは次の通り。
−−点滴薬剤の作り置きを知らなかったのか。
認知していない。
−−作り置きの指示をしたことは。
ない。
−−(点滴は)看護師に任せていたのか。
結果としてはそうなると思う。
−−診察せず、点滴だけして帰る患者もいたのか。
分からないが、ないとは言えない。
−−点滴を多用する治療法は、間違っていたのではないか。
点滴行為すべてが間違っていたわけではないが、間違った部分も多いのではないかと思う。
−−金もうけ主義ではないのか。
反省しているが、利益優先ではない。
−−ずさんな衛生管理については。
タオルを複数人で使用していた事実は認知している。消毒液(を薄めていたこと)については認識していなかった。
−−被害者に対しては。
患者及び家族のところに直接行って謝罪している。
−−(患者との)信頼関係はどう築くのか。
社会に対しては、一つ一つ改善していくことがせめてもの責任の取り方ではないかと考えている。
−−診療再開を考えているのか。
はい。
−−それはいつ。
保健所と相談しながら考えていきたい。
−−自分に医師の資格はあると思うか。
はい。
〔伊賀版〕
毎日新聞 2008年8月30日 地方版
本事件は、医療安全意識の低さ、感染予防対策に対する無知が招いたものである。谷本整形外科が出した改善報告書の内容には目新しい点はない。標準的感染予防対策を行っていれば、防ぐことができた事件である。
医療安全対策をとることは、患者の安全のためだけでなく、医療機関自体を守ることにも通じる。事件の舞台となった谷本整形外科は、約3ヶ月間、診療を休止せざるをえなかった。被害者に対する補償問題も解決していない。社会的信用も失墜したままである。記者会見の状況をみると、針のむしろに座っているような心境だったと推測する。
医療事故の多発が、医療不信を起こしている一因である。大野病院産科医逮捕事件のような、医療の不確実性に起因するものもある。しかし、本事件のような医療レベルの低さによるものも決して少なくない。関係する医療団体は自浄作用を働かせる必要がある。しかし、残念なことに、谷本整形外科が所属している伊賀医師会や三重県医師会のホームページを見ても、本事件に関する記載が全くない。
医療者と患者・住民の溝をいかに埋めるか、お互いに知恵を出さないと、医療崩壊を防ぐことはできない。不心得者の一部開業医が起こした事件と考えるのではなく、医療団体の存在意義が問われているという立場で、積極的に医療レベル向上に取り組む必要がある。*1