回復期リハビリテーション病棟と有料老人ホーム

 厚労省第2回 医療構造改革に係る都道府県会議配付資料(平成19年4月17日)事務次官講演資料紹介を続ける。今回のテーマは、回復期リハビリテーション病棟退院先としての有料老人ホームの位置づけである。


 CBニュースリハビリ成果主義、在宅復帰率などで(2007年12月3日)という記事の中で、在宅復帰率については、次のような記載がされている。

 「在宅復帰率」を判断する上で重要となる「居宅等」について、保険局の原徳壽医療課長は「自宅のほか有料老人ホームなどの居宅系施設を含んでいい。しかし、老健はリハビリを重視した中間施設なのでこれを含めるのはいかがなものか。回復期でリハをして老健でもリハをするのはつながりとしてスムーズでなく、老健を渡り歩くのは本来の姿ではない」と述べ、在宅復帰を強調している。
 厚労省が別添で示した参考資料によると、退院後の行き先が自宅と有料老人ホームを合わせて75.1%であるため、在宅復帰率を70〜75%に設定することが予想される。
 「居宅等」の具体的な範囲は、各施設の目的を考えながら今後検討していくという。


 「居宅等」の範囲から、老健など介護施設が除かれ、有料老人ホームが含まれることは、厚労省の既定路線である。厚労省事務次官講演で用いられたスライドを引用する。各国の高齢者の居住状況(定員の比率)、全高齢者における介護施設・高齢者住宅等の定員数の割合を示す。


 日本(2005)は、介護施設3施設(特養、老健、介護療養病棟)+グループホームあわせて3.5%となっている。一方、シルバーハウジング、高齢者向け優良賃貸住宅、優良老人ホーム及び軽費老人ホーム軽費老人ホームは2004年)は0.9%となっている。あわせて、4.4%である。
 一方、スウェーデン(2005)は合計6.5%、デンマーク(2006)10.7%、英国(2001)11.7%、米国(2000)6.2%である。青地の部分が介護施設であり、各国で大差がない。一方、高齢者用住宅等の比率は日本が圧倒的に少ない。


 社会保険旬報のNo.2336(2007.12.11)とNo.2337(2007.12.21)に、「診療報酬改定と後期高齢者医療制度」という記事が掲載された。さる10月25日に、都内で開かれた医療経済フォーラム・ジャパン主催の公開シンポジウムをまとめたものである。私のブログ記事診療報酬改定と後期高齢者医療制度でも紹介した。厚労省保険局医療課長の原徳壽氏の発言を再度引用する。

 人口比でみて、125万床というベッド数は、世界のどの国と比べても多い。人口千人あたり、日本は14.1(精神病床含む)。一般病床に限ると10〜11。ドイツ10.2、フランス7.5、イギリス3.9、アメリカ3.2。「病院」の定義もいろいろあるが、「病気をもった人々を医師や看護師が常駐している施設で治療する」ところと考える。


 平成17年患者調査によると、60歳あたりから年齢が10歳増えると入院率は2倍になる。90歳以上になると、10万人あたり1.2万人入院している。人口ピラミッドでみると、65歳以上人口のヤマ場は2025年に迎える。入院受療率と人口ピラミッドの変化を掛け合わせると、2035年までは入院需要が増え、180万床程度必要となる。


 病院という医師や看護師を必要とするところで、あまり医療の必要度がない人を診るのは非常に高価につく。病院という形態でのサービスの提供は控えるようにしなければ適正化は進まない。そのため、療養病床を少し減らそうということになった。


 都道府県別高齢者数の増加状況を示した図である。


 「高齢者人口は、今後20年間は、首都圏を始めとする都市部を中心に増加し、高齢者への介護サービス量の増加が見込まれるとともに、高齢者の「住まい」の問題等への対応が不可欠になる。」と記載されている。
 2005年度と2025年度における高齢者数を比較している。一番左は東京都である。2005年に約230万人程度だった高齢者が2025年には300万以上と約70万人増加する。大阪、神奈川、愛知、北海道、埼玉、兵庫、千葉、福岡の順となっている。図の右側に並んでいる都道府県は今後高齢化率は進行するが、高齢者数はさほど増えない。
 今後20年間、団塊の世代の高齢化の影響をまともに受けるのは、都市部である。


 住宅政策との連携のイメージは次のように示されている。

 集合住宅の中に、バリアフリー化した住居があり、ヘルパーステーションやグループホームなどの介護施設、配食サービスなどのNPO法人、そして、訪問看護ステーションや在宅療養支援診療所などの医療施設が密接な連携をとるというイメージである。商業施設も郊外型の自家用車を必要とするものではなく、住まいに密着した商店を意識している。


 一方、厚労省は、医療費抑制の視点から、療養病床の再編成を進めている。図を示す。

 次のような説明が記載されている。
 1)療養病床は全部廃止されるのではなく、医療サービスの必要性の高い方を対象とした医療療養病床は存続します。
 2)介護療養病床の廃止は平成23年度末であり、その間に老健施設等への転換を進めます。
 3)療養病床の再編成を踏まえ、地域のサービスニーズに応じたケア体制の整備を計画的に進めます。


 医療療養病床、介護療養病床あわせて38万床を合計15万床まで削減する案が出されている。しかし、介護難民を心配する地方自治体の反発もあり、療養病床削減計画は進んでいない。また、そもそも介護療養病床13万床は介護保険3施設に含まれており、高齢者用「住まい」総数には影響しない。医療療養病床削減数分の10万床分が増えるだけである。
 2005年には、65歳以上高齢者人口は2,567万人だった。2025年には高齢者人口は3,667万人に増加すると推測されている。20年で約1,000万人増える。しかも後期高齢者人口が総人口の9%から20%となる。高齢者用「住まい」比率が現在と同様の4.4%だと仮定しても、161万人分必要となる。今後さらに約50万人分増やすことになる。スウェーデンや米国なみの6.5%にすると、238万人分となりさらに約122万人分の確保が求められる。


 本来なら、高齢者用住宅増設は公的費用で整備されるべきである。しかし、国も地方自治体も道路建設には熱心でも住宅は民間資本任せとなっている。労働者は生涯賃金のかなりの部分を費やし、持ち家を購入しなければならない。


 介護施設も増やされない中、民間資本で建設される有料老人ホームが退院先の有力な選択肢として浮上してきている。介護事業者にとっても有望なビジネスチャンスとばかり、建設ラッシュが起こっている。コムスン事件でも、一番先に買い手がついたのは居住施設事業だった。
 回復期リハビリテーション病棟の自宅退院率をあげるためには、退院先として有料老人ホームなどの居住施設を確保することが手っ取り早い手段となる。医療保健福祉複合体化を果たしている事業体は、積極的に居住施設整備を進めるだろう。重度要介護者でも、回復期リハビリテーション病棟→居住施設→介護施設ないし医療療養病棟という流れを作ると、みかけ上の自宅退院率は増加する。


 回復期リハビリテーション病棟の自宅退院率設定において介護施設を除外した理由を深読みすると、医療機関や民間事業者の手を借りて医療費や介護費が安価に済む居住施設を増やしたいという思惑があるからではないかと推測せざるをえない。