障害者施設等病棟の4つの顔


 障害者施設等病棟はいくつもの顔を持つ。文献報告も少なく、ネットで検索してもその姿は茫洋としてつかめない。私は、その特性から大きく4つに分かれると推測している。

1)肢体不自由児(者)施設
2)療養病棟的特性
3)一般病棟的特性
4)リハビリテーション病棟的特性


 中医協診療報酬基本問題小委員会(第107回)(2007年11月7日)の入院医療の評価の在り方について資料(診−2−2)11〜13ページに障害者施設等アンケート調査結果がある。


 平成19年7月23日〜8月10日の期間に、合計680施設にアンケートを行い、57.4%の回答率だった。

 患者構成は、肢体不自由児(者)施設等15,154名、その他の施設13,666名となった。平均年齢肢体不自由児(者)施設等39.5歳、その他の施設74,1歳、平均入院期間肢体不自由児(者)施設等5,269日、その他の施設579日だった。

 疾患別構成をみると、肢体不自由児(者)施設等では、脳性麻痺が45.9%と最多だったのに対し、医療法人立の病棟では、脳梗塞38.4%、脳出血12.8%となった。疾患回答なしがそれぞれ29.6%、28.9%となった。

 患者の退院の見通しは、肢体不自由児(者)施設等では、退院(転院・転棟)の見通しは無いが81.1%だったのに対し、医療法人立では90日以内に退院できる見通し20.4%、今後受け皿が整備されれば退院できる31.6%となった。

 平成19年に障害者施設等入院基本料を算定している病床に入院している患者が平成18年度にどのような算定をしているかという調査では、療養病棟2,486名、一般病棟988名、障害者施設等30,062名となった。


 以上の調査結果より、厚労省は次のような結論を導きだしている。

# 課題
(1) 障害者施設等入院基本料の対象患者は、本来であれば手厚い医療が必要である障害者や難病患者等を想定していたところ。しかし肢体不自由児(者)施設等以外の医療機関では、脳梗塞等に伴う障害を持つ患者の割合が高く、医療ニーズの低い患者が多い場合もあると推測される。
(2) 療養病床に対して医療区分を導入したことに伴い、平成18年度以降療養病棟から障害者施設等入院基本料を算定する病棟への転換が進んでいるが、当該入院患者の多数は慢性期の療養の対象と考えられる。


# 論点
 障害の程度だけではなく、医療の内容から本来対象とすべき疾患を明確にする等、現在の基準の在り方を見直してはどうか。


 データを解釈する限り、約2万床前後は肢体不自由児(者)施設と推計される。その多くは、2000年度診療報酬改訂後に算定した病棟だろう。
 また、厚労省は、障害者施設等病棟の急増は、療養病棟からの移行と結論づけている。在院日数、年齢、主病、以前算定した入院基本料などのデータをみる限り妥当な判断と思われる。
 しかし、地域に存在する障害者施設等病棟の現状をみると、一般病棟からの移行も少なからず見受けられる。


 障害者施設等病棟では、特殊疾患入院施設管理加算、入院期間に応じた加算が算定できる。入院基本料(10:1)1,269点+特殊疾患管理加算350点=1,619点が基本的診療点数となる。入院期間14日以内で312点、30日以内で167点の加算がつく。さらに、各種加算、出来高払いの診療報酬が加わる。
 高齢者が多いなどの理由で在院日数が長期化しがちな一般病院の場合、障害者施設等病棟にした方が経営的メリットがある。また、障害者施設等病棟が在院日数のカウントからはずれるため、病院全体の在院日数短縮にも貢献する。このことに気づいた病院経営者が、一般病棟から障害者施設等病棟への移行を進めたと推測する。


 障害者施設等病棟でリハビリテーション医療を積極的に行っている病院も見受けられる。

 医学中央雑誌で障害者施設等病棟について検索したところ、リハビリテーション関係では4件の会議録だけがヒットした。しかも、その会議録も2病院からしか報告されていない。結果について記す。

 池永らは、障害者施設等病棟に入院した110名、平均年齢65.4歳の患者に対しリハビリテーションを施行した。発症から入院まで平均170日、平均入院期間113日だった。入院時BI38.6点、退院時BI59.6点、改善率0.19/日、在宅復帰率65.4%、BI50点以下の在宅復帰率40%という結果だった。以上の結果より、回復期リハビリテーション病棟の入院基準から外れる患者でもリハビリテーション適応があると判断される場合、また在宅復帰を希望される場合などに有用な病棟なる可能性がある、と考察を述べている。*1 *2

 石原らは、40歳未満の外傷性脳損傷患者15名のべ18件の報告をしている。発症から入院までの期間平均917.3日、退院ケースで入院期間平均262.4日だった。退院した14件中自宅9件、更生施設2件、転院3件だった。若年性の外傷性脳損傷では、親族の、長く十分な機能訓練を続けさせたいとい思いも強く、また実際に長期にわたり、機能、社会性の回復を認めた例もあると述べ、十分なリハビリテーションを行うことの重要性を示唆している。*3
 また、石原らは、脳血管疾患等の発症から180日を越えて入院した患者49名の報告もしている。平均年齢58.1歳、高次脳機能障害合併例は44例89.8%だった。発症から入院まで平均285.6日、入院期間は平均150.3日だった。回復期リハビリテーション病棟を経たのは37名75.5%だった。退院先は、自宅24名49.0%だった。脳血管疾患の維持期に入院リハビリテーションを行うことで約半数の自宅復帰が可能であり、リハビリテーションのあり方について検討する必要性を示唆している。*4


 日本で最も地域連携クリティカルパスが進んでいるといわれている熊本では、治療上の問題から回復期リハビリテーション病棟に入れない重症の障害者(人工呼吸器装着している高位脊髄損傷者など)のリハビリテーションのために、障害者施設等病棟を使用していると講演で聞いたことがある。また、病棟の半分を脊髄損傷、残りの半分を脳血管疾患患者で埋め、障害者施設等病棟でリハビリテーション医療を行っている病院もある。


 回復期リハビリテーション病棟では、発症から入院までの期間、在院期間、そして、対象疾患に制限がある。また、リハビリテーション料以外は全て包括である。したがって、発症から時間がたちすぎている、長期にリハビリテーションを行う必要がある、対象疾患からはずれている、そして、重症であるため包括診療報酬では持ち出し分が多い患者を対象として、障害者施設等病棟を利用している場合があると推測する。いわば、制度の谷間に落ちたリハビリテーション適応者を対象とした場合、障害者施設等病棟が有力な選択肢となっていたと言える。


 障害者施設等病棟の対象から脳血管障害をはずすというかたちで要件が変更された場合、肢体不自由児(者)施設以外は、別の診療報酬算定を目指さざるをえない。
 療養病棟的特性をもつ場合には、医療療養病棟に戻すことになる。しかし、そこには医療区分の厚い壁がある。特殊疾患療養病棟も選択肢となるが、1人あたりの床面積などハード面の課題が大きい。厚労省の誘導に従い、転換型老健や居住施設への移行を視野に入れて対応することになる。
 一般病棟的特性がある場合には、一般病棟に戻すところが多いと予測する。この場合、今後さらに厳しくなる在院日数管理を強化しなければいけない。
 リハビリテーション病棟的特性がある場合、回復期リハビリテーション病棟への転換を目指すことが妥当である。障害者施設等病棟のまま脊髄損傷や頭部外傷などに特化するところもあると推測する。一方、これまで障害者施設等病棟が救い上げてきた重症の若年脳血管障害で長期にリハビリテーションを必要とする患者は行き場を失いかねない。


 疾患別リハビリテーション料算定日数上限問題が表面化した2006年度以降、リハビリテーション医療を限定的なものととらえ、制限していく動きが強化されてきている。回復期リハビリテーション病棟への成果主義導入に伴う重症患者の選別の問題も危惧される。ADLが短期間で著明に改善する患者以外を切り捨てなければ医療経営が成り立たないような制度改変は、リハビリテーション医療の存在意義を否定するものとしか思えない。

*1:池永康規ほか: 障害者等一般病棟におけるリハビリテーションリハビリテーション医学42、Page496、2005.

*2:池永康規ほか: 障害者等一般病棟におけるリハビリテーションリハビリテーション医学42Suppl、PageS389、2005.

*3:石原京ほか: 障害者施設病棟における若年外傷性脳損傷者のリハビリテーションリハビリテーション医学44Suppl、PageS374、2007.

*4:石原京ほか: 障害者施設病棟における脳血管疾患患者の維持的リハビリテーションの実態、リハビリテーション医学44Suppl、PageS477、2007.