廃用症候群に関する規制強化

 廃用症候群に関する診療報酬改定について分析をする。

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# 廃用症候群算定数増加は医療機関の意図的なアップグレードが原因か?

 関連エントリーを振り返ってみると、脳血管疾患等リハビリテーション料のうち廃用症候群に関するものは、一貫して規制が強化されてきたことがわかる。中央社会保険医療協議会 総会(第262回) 議事次第内にある、個別事項(その3:リハビリテーション)について、総−1(PDF:2,479KB)の54〜64ページにある「廃用症候群の見直し」を読むと、厚労省の基本的な考え方がわかる。なお、厚労省用語の「見直し」は規制強化ないし引き下げを意味する言葉である。


 本資料はレセプトデータを基にした、いわゆるビックデータである。脳血管疾患等リハビリテーション料(廃用症候群)の算定件数が、平成22年と比し平成24年が1.34倍と急速な伸びを示している。廃用症候群以外の脳血管疾患等リハビリテーション料の伸びが1.14であることと比べて、伸び率が高いということが示されている。


 こちらもビックデータである。平成23年7月1日から平成24年6月30日までの脳血管疾患等リハビリテーション算定新規患者数100人以上であった医療機関(3,256機関)を対象に、脳血管疾患等リハビリテーション新規患者数に占める廃用症候群の割合を示している。50%以上である医療機関が41.7%を占める。



 廃用症候群の病名分析がされている。手術後患者でいうと、入院の28.8%、外来の38.4%が心大血管疾患、運動器、呼吸器疾患となっている。手術以外では、合計58.6%が筋骨格系、循環器系、呼吸器系となっている。


 ここまでの資料は、本来、他の疾患別リハビリテーション料を算定すべき患者が、多数、廃用症候群で診療報酬請求されているということを厚労省が主張したいがためにまとめられている。理由として、脳血管疾患等リハビリテーション料(廃用症候群)の点数が、他の疾患別リハビリテーション料より高いため、医療機関が意図的にアップグレードしているのではないかということをほのめかしている。以上を受け、「廃用症候群以外のリハビリテーション料を算定することが可能な場合は、当該リハビリテーション料を算定するべきであることから、廃用症候群に対するリハビリテーションを実施する場合には、それ以外のリハビリテーション料が適用にならない理由の記載欄を評価表や実績報告書に設け、その適用を厳格化する」という方針を出している。


# 廃用症候群算定患者の特徴

 中央社会保険医療協議会 総会(第261回) 議事次第内にある、平成24年度診療報酬改定結果検証に係る調査(平成25年度調査)について(病院勤務医、リハビリテーション総−4−2(PDF:1,631KB)の90ページに、次のような資料がある。


 脳血管疾患等リハビリテーション料だけをみると、廃用症候群以外と廃用症候群の割合は、38.4%対19.4%なので、およそ2対1である。「廃用症候群の見直し」に示されたデータと解離がある。おそらく、廃用症候群比率50%を超える医療機関は、相対的に脳血管疾患等リハビリテーション料新規患者数が少ないところではないかと推測する。


 「廃用症候群の見直し」には、上図のような資料がある。これだけ見ても特徴がわからないので、「検証調査」の91、96、98ページの方を見てみると、次のようになっている。


 年齢構成は、脳血管疾患等(廃用症候群以外)、運動器と比し、廃用症候群患者は明らかに高齢に偏っている。


 要介護認定を受けている者は、脳血管疾患等(廃用症候群以外)、運動器と比し、廃用症候群患者で明らかに多い。



 一方、要介護認定を受けている者だけで比較すると、運動器患者が最も軽度であり、次いで廃用症候群となっている。脳血管疾患等(廃用症候群以外)と比べ、廃用症候群患者は要介護度が相対的に低い。


 以上をまとめると、廃用症候群を算定する患者は、高齢でもともと要介護認定を受けていた方が多いことが推測できる。脳卒中や骨折などのように、急に生活機能が低下するのではなく、もともと予備能力が低い要介護高齢者の生活機能悪化を予防する意味も含め、早期よりリハビリテーション医療を行うための手段として、廃用症候群を算定する傾向がある。現在の疾患別リハビリテーション料は、様々な制約がある。例えば、心大血管リハビリテーション料は施設要件の問題がある。臓器別に細分化した疾患別リハビリテーション料の矛盾が、廃用症候群算定の増加に反映されていることを、厚労省はもっと認識する必要がある。


 もうひとつの大問題が、回復期リハビリテーション料の入院要件である。回復期リハビリテーション要件は、次のようになっている。

 脳血管疾患、骨折と並んで、廃用症候群が対象疾患となっている。注意して欲しいことは、心大血管疾患や呼吸器リハビリテーション料の算定対象となる疾患がないことである。「外科手術または肺炎等治療時の安静により廃用症候群を有しており、手術後または発症後2ヶ月以内」という要件に引きずられると、疾患別リハビリテーション料も自ずから脳血管疾患等リハビリテーション料(廃用症候群)を選定する傾向となる。


「検証資料」の77ページに下図のような資料がある。

 回復期リハビリテーション対象患者を疾患別リハビリテーション料でみると、概ね1割が脳血管疾患等リハビリテーション料(廃用症候群)となっている。
 回復期対象疾患の中に、心大血管疾患や呼吸器リハビリテーション料算定疾患を加えると、この問題は解決する。要介護高齢者で誤嚥性肺炎を起こし、生活機能が低下した要介護高齢者に対し、回復期リハビリテーション病棟で摂食・嚥下リハビリテーションを徹底的に行い、以前の状態に近づけ、元の居住場所に戻すことができるような診療報酬体系の整備が必要である。