回復期リハビリテーション病棟を利用する脳卒中患者は年間約12.5万人と推定

 本格的な高齢社会を迎えているが、回復期リハビリテーション病棟に入院する脳卒中患者は大幅な増加はしておらず、回復期リハビリテーション病棟全体に占める比率は長期低落傾向にある。

 実態調査報告書|一般社団法人 回復期リハビリテーション病棟協会、令和4(2022)年版/令和5(2023)年2月発行を見ると、患者の内訳は脳血管系43.8%、運動器系46.4%、廃用症候群8.0%、心大血管系0.1%、その他1.7%となっている。回復期リハビリテーション病棟創設直後の2001年度では、脳血管系70.8%、運動器系15.1%であり、経年的に運動器系の占める割合が増加している。

 回復期リハビリテーション病棟数は、2022年6月1日現在、92,560床である。平均病床利用率は82.9%である。したがって、単純計算すると約3.4万床が脳血管系に使用されている。入棟日数の平均が81.6日であり、平均病床回転率は約4.5回である。約3.4万×約4.5回=約15.3万が回復期リハビリテーション病棟を利用している脳血管系患者数となる。その脳血管系患者中脳卒中患者の割合は82.0%である。したがって、回復期リハビリテーション病棟を利用している脳卒中患者は約12.5万人となる。

 

 実は、日本の脳卒中発症率とその推移に関しては限られた情報しかない。Incidence, Management and Short-Term Outcome of Stroke in a General Population of 1.4 Million Japanese - Shiga Stroke Registryを紹介した下記プレリリースでは、次のような記載がある。

https://www.shiga-med.ac.jp/hqcera/news/documents/20170606.pdf

滋賀県の発症率をもとにした試算では、2011 年に日本全国で約 22 万人が新規に脳卒中を発症、再発も含めると約 29 万人が発症したと推定された。2011 年の脳卒中死亡者数は全国で約 12 万人なので、その 2.3 倍の発症があると推計された。

 

 論文の方には、先行研究であるTrend of stroke incidence in a Japanese population: Takashima stroke registry, 1990-2001と比較して、その推移を次のように記載している。

A previous study from Japan estimated that approximately 154,000 new strokes occurred in 2000. The estimated absolute number of stroke onsets in Japan appears to show a 1.4-fold increase from 2000 to 2011. Although the age-standardized incidence rate of stroke in Japan has been decreasing during the past few decades, absolute number of new strokes might be increasing because of the rapid aging of the Japanese society.

 2000年から2011年にかけて、新規脳卒中発症数は1.4倍に増加しているが、年齢調整を行なった発症率は低下しており、新規発症絶対数の増加はおそらく日本社会の急速な高齢化によるものだろう、という考察をしている。本研究が行われた2011年からさらに10年以上経ち、高齢化がさらに進んでいることを考慮すると、脳卒中の年間発症率は再発を含め約30万人と考えるのが妥当だろう。

 論文には治療内容と転帰も記載されており、73.0%がリハビリテーションを受けている。急性期病院の平均在院日数は24日である。退院時mRS 0-2の軽症例38.7%とmRS 6の死亡例13.2%の合計51.9%を除いた48.1%が回復期リハビリテーションを行う病棟に移動すると仮定すると、約14.4万人が対象となる。ただし、最重症のmRS5 13.7%には積極的リハビリテーション適応のない者が含まれているので、この半分の6.8%だけが回復期リハビリテーション病棟利用と考えると、約30万人×約41.2%=約12.4万人となる。回復期リハビリテーション病棟協会のデータに驚くほど近似する。

 回復期リハビリテーション病棟の病床数は、脳卒中だけを考えると過剰となっている。頭部外傷など脳卒中以外の脳血管系疾患を入れても、年間約15.3万人を受け入れる病床数があれば、なんとか回る。

 

 一方、大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版) - Mindsガイドラインライブラリをみると、第2章 大腿骨頚部/転子部骨折の疫学に次のような記載がされている。

2012年の性・年齢階級別発生率と将来人口推計に基づくと、大腿骨頚部/転子部骨折の年間新規患者数は2020年に24万人、2030年に29万人、2040年に32万人に達すると推計される。

 大腿骨頚部骨折は術後全身状態が安定していれば回復期を担う病棟に移動できる。急性期病棟の在院日数短縮の圧力もある。このことが回復期リハビリテーション病棟における運動器の比率向上に影響したと推測する。

 

 回復期リハビリテーション病棟における運動器疾患リハビリテーション料を6単位に制限するという今回の診療報酬改定を受け、運動器よりは脳血管系患者の受入れを増やそうと目論んだとしても、対象患者数が大幅に増えている訳ではないので思惑どおりにはならない。疾患別リハビリテーション料も脳血管疾患等リハビリテーション料の方が高い。今後、リハビリテーション適応となる限られた脳卒中患者の奪い合いが激化する可能性がある。