慢性期脳卒中下肢痙縮に対するボツリヌス毒素製剤の効果

 最新の「リハビリテーション医学」9月号に、木村彰男らによるボツリヌス毒素製剤(botulium toxin type A:BTXA)の論文が載った。関連する文献として、Journal of Neurologyに掲載されたKajiらのBotulinum toxin type A in post-stroke lower limb spasticity: a multicenter, double-blind, placebo-controlled trialが紹介されている。両者とも同じ治験を扱っている。Kajiらの英文論文では、二重盲験期の成績をまとめている。一方、「リハビリテーション医学」に掲載された和文論文では、再投与基準を満たした被験者に対し、オープンラベル期として反復投与した結果もあわせて記載されている。両者をあわせて読むことによって、研究の全体像が明らかになる。
 患者背景に関しては、Journal of Neurologyの方が詳しい。というよりは、「リハビリテーション医学」では初期値が省かれ変化量のみでデータ比較がされているため、分かりにくい。平均値でみると、BTXA群では、脳卒中発症後6年以上、modified Ashworth Scale(MAS)が約3.2、10m歩行時間61秒となり、この値はプラセボ群とほぼ同じである。


 主な結果は次のとおり。

  • 足関節におけるMASの変化量に基づく曲線下面積(Area Under the Curve:AUC)は、BTXA群で有意に低下。
  • 二重盲験期では、歩行速度など歩行関連指標は有意差なし。
  • オープンラベル期では、反復投与にてMAS、歩行関連指標がさらに改善。
  • 有害事象/副作用に関しては、群間に差がない。


 本治験において、二重盲験期にはリハビリテーション訓練の内容を変更しないこととなっていた。一方、オープンラベル期には、リハビリテーションの頻度と内容を最適のものとすることが許可された。慢性期脳卒中患者であるため、代償性の歩行様式を獲得しているため、痙性が変化しただけでは、歩行関連指標は変化しないことが間接的に示されている。


 欧米では、痙縮の治療として、ボツリヌス毒素製剤の筋肉注射が一般的である。東北地方会の教育講演におて、2010年末には、同製剤の適応が脳卒中の痙縮に拡大される予定であることが紹介された。リハビリテーション医は、慢性期脳卒中患者で重度痙性による歩行障害をきたしている患者に対し、適応を判定し、運動療法と組み合わせて対応することが求められるようになる。
 福音は慢性期だけではない。早期リハビリテーションが様々な理由で実施されず、回復期リハビリテーションの段階で痙性治療に難渋している例は、未だにある。このような患者に対してもボツリヌス毒素製剤の効果は期待できる。
 問題は、製剤価格が高いことである。本治験では、ボツリヌス毒素製剤を、腓腹筋(内側頭)、腓腹筋(外側頭)、ヒラメ筋、後脛骨筋の4筋に対し計300単位使用した。ボツリヌス毒素製剤1バイアルあたり約3万円ということであり、合計約9万円となる。包括性病棟で使用するとかなりの持ち出しとなることが悩みの種である。