大腿骨近位部骨折術後に行うリハビリテーション施行単位数に関する論争

 運動器疾患とリハビリテーション単位数との関係については、大腿骨近位端骨折術後運動器リハビリテーションの1日施行単位数の無作為化比較試験(東良和ら:Jpn J Rehabil Med 2014 ; 51 : 277-282)という興味深い論文がある。

 本論文は、大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)にも紹介されている。

 この研究は、急性期病院で大腿骨近位部骨折患者に対するリハビリテーション施行単位を無作為に1日6単位群と2単位群に分けたところ両者に運動FIMや歩行状態に有意差がなく、医療経済的な側面を考えると2単位で十分という結論を出している。

 

 本研究に対し、安保先生が研究デザインに対する批判を述べている(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/52/3/52_212/_pdf/-char/jahttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/52/3/52_212/_pdf/-char/ja)。また、大腿骨頸部骨折患者の訓練単位数と退院時運動FIMとの関係―日本リハビリテーション・データベースの分析―(徳永誠、近藤克則:Jpn J Rehabil Med 2015 ; 52 : 751-759)では、日本リハビリテーション・データベースを使った研究を報告し、訓練単位数が増えると退院時運動FIMが高くなる場合があることを示している。

 

 東良和らの研究で注意しなければならないのは、対象者222名中、適格性評価で除外されたのは143名64.4%もあり、そのうち高度認知症によるリハ困難者は105名47.3%を占めていることである。なお、高度認知症の定義は示されておらず、リハビリテーションに乗りにくい患者を全て高度認知症としているのではないかと疑われる。当然のことながら、除外患者の機能予後、退院先も示されていない。回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病床に転院させるような患者を除外した研究と判断せざるをえない。

 大腿骨頚部骨折は高齢者に多い外傷であり、認知症リハビリテーション医療を行ううえで重要な課題となる。認知症がある患者を除外した研究をもとに、大腿骨頚部骨折のリハビリテーション単位数は2単位で十分という結論には違和感を抱く。東良和らも、考察の最後に次のような文章を付け加えている。

 本研究は,高齢者の大腿骨近位端骨折術後リハの適正施行時間数を検証するために無作為化比較試験を行ったもので,対象とならなかった除外症例も約60 %存在した。これら症例に対しては別の観点からの検証が必要であるが,受傷前に独立歩行のできなかった症例や合併症のため運動器リハが施行できなかった症例は,歩行獲得のリハとは目的が異なり,廃用性症候群予防を主体とした個々の状態毎の検証が必要である。

 

 中医協で紹介された回復期リハビリテーション病棟協会の調査報告資料をあらためてみると、回復期リハビリテーション病棟ではリハビリテーション施行単位数が増えると、運動FIMは増加している。大腿骨頚部骨折だけではないことや交絡因子の調整をされていないデータではあるが、期せずして大腿骨頚部骨折のリハビリテーション単位数は2単位で十分という主張への反論になっている。

 

 もともとの生活機能が自立し認知機能も保たれており、かつ、骨折術後の経過が良好な運動器疾患患者の経過が良好であることは臨床的経験に即している。このような患者がなんらかの原因で早期退院ができない場合には、リハビリテーション提供単位数に一定の制限をつけなければならない地域包括ケア病棟を転院先に選定してもさほど大きな問題にはならない。

 一方、認知症や骨関節疾患などがあり屋内生活にとどまっていた患者(サルコペニア、フレイルを含む)の場合、ADLや歩行能力の回復に時間がかかる。このような患者の場合は、リハビリテーションを十分行う必要がある。療法士が行うリハビリテーションだけでなく、生活全体も活性化させることを目指す回復期リハビリテーション病棟に入院する意義は大きい。

 今回の診療報酬改定において、回復期リハビリテーション病棟における運動器リハビリテーション料の単位数が6単位までと制限された。回復期リハビリテーション病棟が運動器疾患患者を敬遠することになりかねないのではないかという危惧がある。杞憂に終われば良いのだが。