ADL 維持向上等体制加算増点により一般病棟療法士配置が当たり前に

 中央社会保険医療協議会 総会(第328回)、平成28年2月10日が開催され、平成28年度診療報酬改定の概要が明らかになった。答申について、総−1(PDF:3,645KB)に個別改定項目が記載されている。「II-3 質の高いリハビリテーションの評価等、患者の早期の機能回復の推進について」(169〜197ページ)が、リハビリテーション関連項目である。
 この中で、「ADL 維持向上等体制加算の施設基準の見直し等」(174〜175ページ)について検討する。

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 まず、中央社会保険医療協議会 総会(第316回)平成27年12月2日の資料、個別事項(その5;リハビリテーション)について、5.早期からのリハビリテーション実施の促進等について、1)ADL維持向上等体制加算について(65〜73ページ)で論議された内容を再確認する。





 ADL維持向上体制加算の点数は、患者1人1日あたり25点と設定され、14日まで算定可能だった。単純計算をすると、施設基準を満たした50床の病棟で全ての患者が14日以下だとすると、1日あたりのADL 維持向上等体制加算点数は、50×25=1,250点となる。30日あたりに換算すると、37,500点という低い点数となり、療法士1人を専従配置するメリットがなかった。このため、届け出医療機関数は32病院(0.8%)と低水準にとどまっていた。


 そこで、今回、本加算を普及させるために、厚労省は大幅な点数アップを行った。

第1 基本的な考え方
 ADL 維持向上等体制加算にかかる現行の評価、施設基準を一部見直し、急性期における早期からのリハビリテーションの実施を促すとともに、質や密度の高い介入を行っていると認められる病棟の評価を充実させる。


第2 具体的な内容
1.ADL 維持向上等体制加算を増点し、内容を充実する。


【一般病棟入院基本料】注 12 ADL 維 持向上等体制加算
※ 特定機能病院入院基本料、専門病院入院基本料の ADL 維持向上等体制 加算についても同様
 25点 → 80 点


 元の25点から55点3.2倍の増点となっている。単純計算をすると、施設基準を満たした50床の病棟で全ての患者が14日以下だとすると、1日あたりのADL 維持向上等体制加算点数は、50×80=4,000点となり、30日あたりに換算すると、120,000点と大幅にアップされている。ただし、今回の改定において、次のような条件が加わっていることにも注目が必要である。

[算定要件]
1)ア)~カ)略
キ) 自宅等、想定される退棟先の環境を把握し、退棟後に起こりうるリスクについて、多職種のカンファレンスで共有していること。
ク) 必要に応じて他の職種と共同し、機能予後について患者がどのように理解しているかを把握し 多職種のカンファレンスで共有していること。
ケ) 必要に応じて他の職種と共同し、患者が再び実現したいと願っている活動、参加について、その優先順位と共に把握し、多職種のカンファレンスで共有していること。


2)専従又は専任者を含む5名以下の常勤理学療法士等を定めた上、当該者のいずれかが当該病棟で実際に6時間以上勤務した日に限り算定できる。


[施設基準]
 当該病棟に、専従の常勤理学療法士、常勤作業療法士又は常勤言語聴覚士(以下「理学療法士等」という。) が2名以上又は専従の常勤理学療法士等1名と専任の常勤理学療法士等が1名以上配置されていること。


 新たに加わった算定要件のキ)〜ケ)はカンファレンスの重視であり、算定要件オ)「入院患者のADLの維持、向上等に係るカンファレンスが定期的に開催されており、医師、看護師及び必要に応じてその他の職種が参加していること。」を発展させたものと捉えてよく、基準は決して高くない。
 注意しなければいけないのは、「専従又は専任者を含む5名以下の常勤理学療法士等を定めた上、当該者のいずれかが当該病棟で実際に6時間以上勤務した日に限り算定できる。」という項目である。これは、土・日・祝日に定められた理学療法士等が通常勤務していないとその日は算定できないこと意味する。事実上、一般病棟においても、理学療法士等の365日体制への移行を促すものである。


 専従療法士要件も変更された。このなかで、「専従の常勤理学療法士等1名と専任の常勤理学療法士等が1名以上配置されている」という要件の方が利用しやすい。


 平成26年度診療報酬改定についてに、2014年4月10日付でアップされた疑義解釈資料の送付について(その3)には、以下のように質疑応答が記載されている。

(問2) ADL維持向上等体制加算において、病棟専従の常勤理学療法士等は疾患別リハビリテーション等を担当する専従者との兼務はできないのか。


(答) できない。
 ただし、ADL維持向上等体制加算の算定を終了した当該病棟の患者に対し、引き続き疾患別リハビリテーション等を提供する場合については差し支えない。なお、理学療法士等が提供できる疾患別リハビリテーション等は1日6単位(2時間)までとする。
 また、当該病棟専従の常勤理学療法士等は、疾患別リハビリテーション料等の専従の理学療法士等として届け出ることはできない。


 以上を考慮すると、専従の理学療法士等は1日6単位まで、専任の理学療法士等は他病棟勤務も含めて特に制限なく、疾患別リハビリテーション料算定が可能となる。「地域包括ケア入院医療管理料1又は2を算定する病室がある場合には、当該病室における理学療法士等の業務について兼務しても差し支えない。」という規定もある。


 ADL維持向上体制加算の増点により、一般病棟に一気に理学療法士等配置が普及すると予測する。急性期リハビリテーションの重要性は指摘されながらもなかなか療法士配置が進まなかった現状を変更させる契機となる改定である。


 なお、中医協資料において、「ADL低下者の割合についての実績要件については、予定手術に伴うADLの低下を勘案し、例えば入院直後に全身麻酔を伴う手術を行った患者については、手術日前後のADLの低下を除いて評価できることとしてはどうか。」と記載されていた内容は、今回の改定資料には反映されていない。見送りになったのか、それとも、別の形で反映させようとしているのかは、現時点では不明である。