胃瘻造設等に関する診療報酬改定
胃瘻造設等に関する診療報酬改定について取り上げる。該当資料は、中央社会保険医療協議会 総会(第272回) 議事次第内にある、総−1(PDF:2,142KB)の171〜174ページ、別紙1−1(医科診療報酬点数表)(PDF:3,154KB)のリハビリテーション10/11ページ、手術5/18、18/18ページ、手術別1-67/93ページにある。
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胃瘻等について
第1 基本的な考え方
胃瘻造設前の嚥下機能評価の実施や造設後の連携施設への情報提供の推進を図るため、評価の新設を行う。
併せて、十分な嚥下機能訓練等を行い、高い割合で経口摂取可能な状態に回復させることができている医療機関について、摂食機能療法の評価の見直し等を行う。
第2 具体的な内容
1.胃瘻造設術
胃瘻造設術の評価を見直すとともに、胃瘻造設時の適切な嚥下機能検査に係る評価を新設する。
【胃瘻造設術】 10,070点 → 6,070点
[算定要件]
1 胃瘻造設術を行う際には、胃瘻造設の必要性、管理の方法及び閉鎖の際に要される身体の状態等、療養上必要な事項について、患者及び家族への説明を行うこと。
(新規)
2 胃瘻造設後、他の保険医療機関に患者を紹介する場合は、嚥下機能訓練等の必要性、実施するべき内容、嚥下機能評価の結果、家族への説明内容等を情報提供すること。
[施設基準]
以下の1又は2のいずれかを満たす場合は、所定点数による算定とする。満たさない場合は、所定点数の80/100に相当する点数により算定する。
1 頭頸部の悪性腫瘍患者に対する胃瘻造設術を除く年間の胃瘻造設術の実施件数が、50件未満であること。
2 頭頸部の悪性腫瘍患者に対する胃瘻造設術を除く年間の胃瘻造設術の実施件数が50件以上かつ、下記のア及びイを満たすこと。
ア 胃瘻造設患者全例に嚥下造影又は内視鏡下嚥下機能評価検査を行っていること。
イ 経口摂取以外の栄養方法を使用している患者であって、以下のa又はbに該当する患者(転院又は退院した患者を含む。)の合計数の35%以上について、1 年以内に経口摂取のみの栄養方法に回復させていること。
a. 新規に受け入れた患者で、鼻腔栄養又は胃瘻を使用している者
b. 当該保険医療機関で新たに鼻腔栄養又は胃瘻を導入した患者
[経過措置]
平成 27 年3月 31 日までの間は、上記の基準を満たしているものとする。
(新) 胃瘻造設時嚥下機能評価加算 2,500点
[算定要件]
1 胃瘻造設術を所定点数により算定できる保険医療機関において実施される場合は、所定点数による算定とする。それ以外の保険医療機関に於いて実施される場合は、所定点数の 80/100 に相当する点数により算定する。
2 嚥下造影又は内視鏡下嚥下機能評価検査を実施し、その結果に基づき、胃瘻造設の必要性、今後の摂食機能療法の必要性や方法、胃瘻抜去又は閉鎖の可能性等について患者又は患者家族に十分に説明・相談を行った上で胃瘻造設を実施した場合に算定する。ただし、内視鏡下嚥下機能評価検査による場合は、実施者は関連学会等が実施する所定の研修を終了しているものとする。
3 嚥下造影、内視鏡下嚥下機能評価検査は別に算定できる。
4 嚥下造影、内視鏡下嚥下機能評価検査を他の保険医療機関に委託した場合も算定可能とする。その場合、患者への説明等の責任の所在を摘要欄に記載することとし、受託側の医療機関は、施設基準(関連学会の講習の修了者の届出等)を満たすこと。
[経過措置]
平成27年3月31日までの間は、上記2のうち研修に係る要件を満たしているものとする。
胃瘻造設術の診療報酬が約4割引き下げられた。年間実施件数50件以上の場合には、厳しい施設基準を満たさないと点数がさらに80/100となる。そもそも、胃瘻造設術を行なう対象者の中には、嚥下造影や内視鏡下嚥下機能評価検査の適応にならない者も多い。非経口摂取者の35%以上を経口摂取のみ栄養方法に回復させることも至難の技である。胃瘻キッド等の材料費をまかなえるのかどうか疑問を覚えるほど、大鉈が振るわれた。
胃瘻造設を行なっている医療機関の多くで、胃瘻造設術を年間50件未満に抑制しようという対応がなされるのではと推測する。基準が厳密になりすぎ、楽しみのための経口摂取獲得を目指すレベルの患者に対しても胃瘻造設を回避されるのではないかという危機感を覚える。
一方、胃瘻造設時に嚥下機能評価検査を実施した後に胃瘻造設を実施した場合には、新たに胃瘻造設時嚥下機能評価加算が算定できる。胃瘻造設術の点数とあわせ、8,570点となり、ダメージが軽減する。リハビリテーション科専門医がいる医療機関では、消化器科からの依頼が激増するのではないかと予想する。
2.摂食機能療法
高い割合で経口摂取可能な状態に回復させている場合の摂食機能療法の評価の見直しを行なう。
摂食機能療法
(新) 経口摂取回復促進加算 185 点
[算定要件]
1 鼻腔栄養又は胃瘻の状態の患者に対して、月に1回以上嚥下造影または内視鏡下嚥下機能評価検査を実施した結果に基づいて、カンファレンス等を行い、その結果に基づいて摂食機能療法を実施した場合に、摂食機能療法に加算する。
2 治療開始日から起算して6月以内に限り加算する。
3 実施した嚥下造影または内視鏡下嚥下機能評価検査の費用は所定点数に含まれる。
[施設基準]
1 新規の胃瘻造設患者と他の保険医療機関から受け入れた胃瘻造設患者が合わせて年間2名以上いること。
2 経口摂取以外の栄養方法を使用している患者であって、以下のア又はイに該当する患者(転院又は退院した患者を含む。)の合計数の 35%以上について、1年以内に経口摂取のみの栄養方法に回復させていること。
ア) 新規に受け入れた患者で、鼻腔栄養又は胃瘻を使用している者
イ) 当該保険医療機関で新たに鼻腔栄養又は胃瘻を導入した患者
3 摂食機能療法に専従の言語聴覚士が1名以上配置されていること。
4 2の基準について、新規に届出を行う場合は、届出前の3月分の実績をもって施設基準の適合性を判断する。
本加算は驚くほど高い点数である。摂食機能療法 185点に、経口摂取回復促進加算 185 点を加えると、合計370点となる。摂食機能療法は、治療開始日から起算して3月以内の患者については、30分以上実施すれば毎日算定できる。他の疾患別リハビリテーション料と比べても、著しく高い。施設基準は厳しいが、早期から脳血管障害患者等に対する摂食嚥下リハビリテーションに力を入れている医療機関ならクリアできる可能性がある。
3.胃瘻の抜去について これまで評価が不明確だった、胃瘻抜去術の技術料を新設する。
(新)胃瘻抜去術 2,000 点
胃瘻は通常は抜去するだけで自然閉鎖することがほとんどである。胃瘻閉鎖術 12,040点という項目がもともとあったが、胃瘻抜去は手術ではないため算定対象とならなかった。このため、新規に作られた項目である。
全体をとおしてみると、嚥下機能評価や摂食機能療法をもともと熱心に行なっていた医療機関にとっては大幅なプラス改定となる可能性がある。一方、胃瘻造設回避の風潮が広がり、適切な栄養管理手段が選択されない状態で在宅や施設に戻される患者が増加する危険性もある。いずれにせよ、医療倫理上大きな課題となっていた胃瘻をめぐる問題に、診療報酬という経済的誘導が加わり、混迷が一層深刻になるのではないかという危惧を覚える。