高齢者の入浴事故死は交通事故死より多い
有料老人ホームでの入浴中の溺死が報道された。
同署によると、5月7日午後4時30分頃、同ホーム6階にある浴室の浴槽内で、女性がぐったりしているのを職員が見つけた。女性は搬送先の病院で死亡が確認され、司法解剖の結果、死因は溺死だったという。ホーム側の説明では、女性は障害が軽度で普段から1人で入浴していたという。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130709-OYT1T00517.htm?from=tw
【関連エントリー】
#1 高齢者における3大不慮の事故死は、転倒・転落、溺死、窒息
関連エントリーにおいて、医療機関や介護施設での「不慮の事故」による死亡に着目し、次のようなまとめを行った。
- 高齢者では、転倒・転落、溺死、窒息による死亡が急速に増加する。
- 発生場所でみると、溺死は家庭で多いが、居住施設(介護施設等)、公共の地域(医療機関等)では少ない。月別にみると、冬場に多い。しかも、85歳以上になると、比率が減少する。ADLが自立している高齢者が冬場に浴室で死亡している場合、溺死と判定されるのではないかと推測する。
- 居住施設(介護施設等)、公共の地域(医療機関等)で比率が高い、転倒・転落、窒息に対するリスク管理強化が重要である。
発生場所ごとに分類した不慮の事故死数(比率)をみると、次のようになっている。
発生場所 | 総数 | 転倒・転落 | 溺死 | 窒息 | |
---|---|---|---|---|---|
総数 | 30,654 | 7,170(23.4%) | 6,464(21.1%) | 9,419(30.7%) | |
家庭 | 13,240 | 2,560(19.3%) | 4,079(30.8%) | 3,995(30.2%) | |
居住施設 | 1,452 | 226(15.6%) | 40(2.8%) | 1,165(80.2%) | |
公共の地域 | 1,295 | 482(37.2%) | 21(1.6%) | 755(58.3%) |
#2 高齢者の入浴事故死は交通事故死より多い
高齢者の入浴中の事故は溺死に限らない。
長寿社会グローバル・インフォメーションジャーナル Vol.6|国際長寿センターにある、高齢者の「入浴中の急死」に関する地方性をみると、「病死」に扱われるものも含めた「入浴中の急死」は1万4,000人であり、その49.8%が12〜2月の3ヵ月間に起きている、と指摘している。本調査は1999年の東京消防庁と東京都監察医務院による実態調査をもとにしているが、2013年3月15日に公表された東京都23区における入浴中の事故死の推移 東京都福祉保健局でも同様の傾向が認められる。
東京都監察医務院では、東京都23区内の異状死の検案を実施し、年間約14,000件の取扱件数を有しておりますが、そのうち、死亡直前の行動が入浴中であった事例は、1,000件を超え、全検案数の約1割を占めていることが10年間の調査でわかりました。年齢構成は、高齢者に多く、発生時期は、冬場に多く発生している傾向が見受けられ、年々増加しておりますので、入浴時の行動は注意が必要です。
高齢者の入浴事故死については、入浴死・入浴事故を防ぐナビ — 山形県ホームページが詳しい。報告書概要版をみると、次のような記載がある。
庄内地区では、3年間で入浴事故は700件、うち4人に1人にあたる174人が死亡しています。同期間の交通事故死(37人)と比べると、死亡者数は4倍を超えます。
第2章 調査結果の11ページに初診時の傷病名一覧があるが、傷病者の初診時傷病名は「脳血管疾患」が16.1%と最も多く、次いで「循環器系疾患」が13.4%、「意識障害」が12.6%、「外傷」が9.9%、「脱水」が9.7%となっており、溺水は6.1%に過ぎない。12ページをみると、初診時程度の傷病名は、「中等症・軽症」では、意識障害、脱水、外傷が多く、「死亡・重症」は、CPA、溺水、循環器系疾患の疾患が多い状況であった、という記載がある。さらに、33〜44ページに救急車の出動要請の概要が記載されている。48ページをみると、少なくとも3年間で241件(自宅140件、自宅以外101件)が早期発見により死亡を免れたと考えれる、となっている。
第3章 考察も充実している。要約は次のようになっている。
【要約(summary )】<第1 入浴事故の実態と入浴事故死数>
- 都道府県別不慮の溺死・溺水 標準化死亡比(SMR)
- 全国及び世界の入浴事故の状況
<第2 調査結果からの考察と今後の対策>
- 早期発見・早期対処により、助かった事例も多くあることから日ごろからの家庭内での見守り意識の普及や応急手当講習会での対処法の普及が重要であると考えられる。
- 入浴事故は気温が大きく関係していることから、居間と脱衣所・浴室の温度差をなくすための住宅分野からの普及啓発が必要である。
- 入浴事故死は交通事故死より多く、国際比較でも極めて高い状況のため、全国的な健康問題として入浴事故の普及啓発を展開していく必要があると考えられる。
# 軽度要介護者入居施設における入浴中の事故防止のために
入浴は、基本的ADLのなかで最も難しい項目である。したがって、特養・老健など介護保険施設入所者では基本的には溺水事故は起こりにくいはずである。しかし、埼玉県の通知、入浴介助における安全通知の徹底について(平成23年11月14日)をみると、深刻な事故報告がされており、「短時間でも職員が眼を離すと重大事故につながる」と警告されている。
問題は、入浴までは自立している軽度要介護者における場合である。今回、ワタミの有料老人ホーム入所者の事故事例は、普段から入浴自立していたとのことであり、一概に責められる案件ではないように思える。ただし、遺族に嘘の説明をしていた!「ワタミの介護」施設で入浴中に死亡 - NAVER まとめで問題となっている事例は、転倒を繰り返すパーキンソン病患者を1人で入浴させ、発見まで90分かかっていたということであり、明らかに安全対策を怠っている。
今後、都市部の高齢者急増に伴い、サービス付高齢者向け住宅や有料老人ホームなど軽度要介護者を主な対象とする居住施設が急増すると予想される。もともと独居や夫婦2人暮らしの方が居住施設に入所した場合、入浴中の事故を如何に防ぐかが課題となる。プライバシーへの配慮も必要であり、悩ましい問題である。