視覚障害者の就業状況

 視覚障害者の就業状況を調べた。視覚障害者児の実態平成18年身体障害児・者実態調査結果を見ると、次のような実態がわかった。

 平成18年7月1日現在、全国の身体障害者数(在宅)は、3,483,000人と推計されています。(中略)障害の種類別にみると、視覚障害が 310,000人、(中略)障害の種類別に1・2級をみると、視覚障害では192,000人(62.0%)となっています。

 視覚障害者の中で就業しているのは81,000人で、あんま、マッサージ、はり、きゅうが24,000人(29.4%)を占めています。


 さらに、‹g“c dŽq ’˜@uŽ‹ŠoáŠQŽÒ‚̏A˜J‚ÌŒ»ó‚Ɖۑèv(1/4)視覚障害者の就労支援 〜視覚障害者支援センターを中心とした就労支援について〜もあわせてみると、あんまマッサージ指圧師の晴眼者に対する視覚障害者の割合は次のように推移している。

 「按摩・マッサージ・指圧師」で1種類、「針師」「灸師」と、併せて3種類の免許からなっており、これを一般に三療と呼ぶ。(中略)1988(平成元)年の「按摩・マッサージ・指圧師、針師・灸師等に関する法律」(以下「アハキ法」)の改訂により、国家試験となり、厚生大臣による認定として、1993年より実施されている。この法律改正は、アハキ師の資質向上を目指すことを目的としたものであるが、視覚障害者にとっては、新たな課題をもたらした。(問題形式は、視覚障害者にとって不利なものと変わり、視覚障害者の合格率は低下した。)

 厚生省の「衛生行政業務報告」によると、三療業に従事する晴眼者の割合は、年ごとに増加し、三療に従事する視覚障害者と晴眼者の比率は1960(昭和35)年には55.7%対44.3%であったものが、1979(昭和54)年には46.4%対53.6%と逆転した。さらに、個別的にも、按摩業での晴眼者の増加が目立ち、この1960年から1979年のやく20年間の間に、視覚障害者の29.5%増に対し、晴眼者は116.3%増となっている。そして、1994(平成6)年現在、按摩・マッサージ・指圧師で、35.2%対64.8%、針師で27.8%対72.2%、灸師では、27.1%対72.9%となっており、三科とも視覚障害者が占める割合は、4割を下回っている。このことは、三療業は、今や、視覚障害者の安定した職業とは言えないことをはっきりと表している。

 厚生労働省「衛生行政業務報告」2000年度現在によると、視覚障害者のあんまマッサージ指圧師の人数と割合は27,551人(28.5%)[37.7%(1992)]、鍼師(22.4%)、灸師(21.8%)である。

 2006年末の保健衛生行政業務報告によれば、あんまマッサージ指圧師の晴眼者に対する視覚障害者の割合は25.2%、はり師は18.4%、きゅう師は17.9%という低い値になっています。


 三療業における視覚障害者の割合が、緩やかだが確実に低下していることがわかる。しかし、問題は、三療業だけではない。

 病院では、理学療法士に比べてマッサージ師の保険点数が低いということで、求人も少なくなっています。視覚障害者に適した新職業として、電話交換手がありましたが、企業のダイヤルイン化のために、リストラも増えているようです。コンピュータプログラマーも、画面がグラフィカルになって、企業の中で晴眼者と同じシステムを操作するのが難しくなってきています。
 今注目されている職業として、企業の中で社員の健康管理をする「ヘルスキーパー」があります。副作用が少なく即効性がある鍼灸マッサージを福利厚生として取り入れることにより、健康保険の医療費抑制につながっているようです。しかし、危ない工場の中を通らないと診療所にたどり着けないなどの事情から、弱視しか雇えない企業もあるようです。


 実は、柔道整復師とあん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費の検討開始(2012年11月27日)を記載した時、「視覚障害者の生計を立てるために設けられたあん摩マッサージ指圧、はり・きゅうの資格制度が形骸化し、真面目に療養を提供している零細事業者にしわ寄せが生じている。」という記載に、訪問マッサージでも視覚障害者を雇用しているというクレームがついた。訪問マッサージに従事している視覚障害者の割合があん摩マッサージ指圧、はり・きゅうにおける全体の従事者割合より低ければ、運転できない視覚障害者にとって不利益となっていることを証明できるのではと思い、資料集めを始めた。しかし、調べるなかで、問題は単純ではないことに気づいた。
 少なくとも、三療業における視覚障害者の割合低下は、規制緩和による医療関係職養成校急増(2008年6月1日)に記載した2000年の柔道整復師養成施設不指定処分取消請求事件の福岡地裁判決のはるか以前から続いている。リハビリテーション医療の充実のなかで、医療機関におけるあん摩マッサージ指圧、はり・きゅう師の雇用率の低下も、明らかに悪影響を与えている。また、視覚障害者の就業先を実質的に三療業に限ることに関しての批判も強い。
 リハビリテーション医にとって、障害者の就職問題は大きな課題である。脳卒中など運動障害をきたす疾患が中心となるため、肢体不自由者高次脳機能障害者に対しては、ある程度理解していたつもりだった。一方、視覚障害者の問題はどうしても眼科が対応することになるため、無関心といって良い状態だった。簡単に結論が出る課題ではないが、視覚障害の就労問題について、関心を持ち続けなければいけないと自戒した。