訪問マッサージに対する規制強化

<追記> 2013年1月15日
 本エントリーに対するコメントを読んでいて、訪問マッサージに対する規制強化が既定路線になっていることがほとんど知られていないことに気づいた。今回、現状に対する認識を深めていただくために、あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会についてとりあげた関連エントリーを、冒頭に置き、注意を喚起することにした。

関連エントリー

<追記終わり>


 :::宮城県後期高齢者医療広域連合:::より、はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る同意書の交付について(お願い)という文書が届いた。

 さて、当広域連合では医療機関が交付する「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る同意書」に基づいて、被保険者に対し施術に係る療養費を給付し、さらに同意書に 往療が必要と記載または同意があって往療を受ける場合は、往療料を併せて給付しております。
 往療の必要性については、医療機関への通院が可能の場合「『通所して治療を受けることが困難な場合』」とは認められない旨、厚生労働省から見解が示されております。
 つきましては、貴医療機関において同意書を交付される際は、厚生労働省の見解に沿って往療の必要性について御判断いただきますようよろしくお願い申し上げます。

 はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る往療について


厚生労働省の見解】
 はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の留意事項等について(平22.5.24 保医発 0524 4)【はり、きゅう 第6章 往療料 1】【マッサージ 第5章 往療料 1】)にある「往療料は、歩行困難等、真に安静を必要とするやむを得ない理由等により通所して治療を受けることが困難な場合に、患家の求めに応じて患家に赴き施術を行った場合に支給できること。」とは、自身の体が寝たきりまたはそれに準じた状態を指し、住家から外出することが出来ないことで通所することが難しいことであり、本人が歩ける状態である場合には真に安静を必要とするやむを得ない理由等には当たらず、医師が同意書に往療が必要であると記入した、または同意した場合であっても、当該医療機関や他の医療機関への通院の実態が確認できる場合は、通所して治療を受けることが困難な場合とは認められない。


 療養費について 療養費の取扱い(Q&A)について|厚生労働省を見ると、はり、きゅう及びあん摩・マッサージの施術に係る療養費の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(平成24年2月13日事務連絡)に同様の内容の指摘がある。特に注目すべきは、次の箇所である。

(問24) 「定期的若しくは計画的に患家に赴いて施術を行った場合には、支給できないこと」の「定期的若しくは計画的」とは、どのようなものを指すのか。

(答) 「定期的若しくは計画的」とは、往療の認められる対象患者からの要請がない状況において、患家に赴いて施術を行った場合をいう。
 定期的若しくは計画的に該当するか否かは、「患家の求め」の状況により判断されたい。(留意事項通知別添1第6章の2)


 はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る往療とは、いわゆる訪問マッサージのことである。宮城県後期高齢者医療広域連合の通知、および、厚生労働省事務連絡は訪問マッサージへの規制を強化するものである。


 訪問マッサージ急増の背景として、次の3点がある。

  • はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師養成校の急増*1
  • 標準的算定日数導入によるリハビリテーション医療の制限
  • 区分支給限度額による介護保険居宅サービス制限


 2000年以降、国は、医療関係専門学校、大学の厳しい設置基準を改め、届出制とした。この結果、柔道整復師鍼灸師、そして、リハビリテーション専門職養成施設が急増した。従来は、視覚障害者の職業であったはり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師にも、運転免許を取得できる晴眼者が増えた。同業者間の競争が激化する中で、医療保険が適応される訪問マッサージが着目された。特に、リハビリテーション医療制限が強化された2006年以降、要介護者への「リハビリテーション」を医療保険で行うことができることをセールスポイントに、訪問マッサージが隙間を埋めるような形で急増した。特に、区分支給限度額に悩むケアマネへの売り込みを強化し、介護保険の追加サービスかのような形で利用者に説明されるようになった。
 調べてみると、日本訪問マッサージ協会という団体が存在する。病院関係者様へ |日本訪問マッサージ協会に、この業界の本音が記されている。

2006年に医療法が改正され、病院での入院期間、リハビリ期間が大幅に短縮されました。
このため、多くの方が、病院でマッサージや機能回復訓練を受けたくても受けられず、自宅に引きこもり、寝たきりになるケースが多くなっています。


(中略)


こうした状況の中で、「日本訪問マッサージ協会」は、在宅での患者さんとそのご家族の負担を少しでも軽くするため、医療保険制度を利用し、低料金で自宅で受けられる医療マッサージ、鍼灸治療、機能回復訓練などのサービスの提供をおこなっております。


 リハビリテーション専門職でないにも関わらず、リハビリテーションができるかのような宣伝をする訪問マッサージ業者の存在を、以前より苦々しく感じていた。ケアマネと訪問マッサージ業者が病棟まで同行したうえで、ご本人ご家族に説明し、そのまま主治医や病棟スタッフに声もかけずに帰ってしまったこともある。さすがにこの時は、医師の同意を事前に得ていないことをケアマネに指摘し、ケアプラン練り直しを指示した。以前から継続している場合にも、必ず報告書を記載してもらうことにしている。しかし、その内容をみると、受動的なマッサージしかしていないという実態が浮き彫りとなっている。
 訪問マッサージへの不信があり、最近は新規に同意書を記載したことがない。リハビリテーション継続が必要な場合には、通院、通所、訪問リハビリテーションなどを利用するように患者・家族に勧めている。
 医療費抑制政策の中で、訪問マッサージがいずれ規制されるだろうとは思っていた。今後、どのような展開となるかは分からないが、介護保険居宅サービスの中に入って、他のサービスと同じ土俵で競争するのが最も適当ではないかと、私は思っている。運転ができない、視覚障害者のはり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の場合には、通所介護などの機能訓練指導員としての需要もある。いずれにせよ、制度のすき間を狙うような現在の形態が長続きしないと予測する。