東日本大震災時における災害拠点病院の課題

 第1回 災害医療等のあり方に関する検討会 |厚生労働省に掲載された資料が興味深い。現在の災害医療の弱点が率直に語られている。
 資料1では、東日本大震災時における災害拠点病院の課題について、次のようにまとめられている。

  • 建物の耐震性
  • 災害時の通信手段の確保(衛星電話等)
    • 各県とも翌日まで連絡の取れない病院あり(岩手:6病院、宮城:1病院、福島:2病院) ※宮城はMCA無線により連絡
  • EMISの接続
    • 電話回線、インターネット回線の断裂により一時接続不能
    • EMIS未導入の県(宮城、島根、徳島、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄)がある (県等による代行入力を実施)
  • ライフライン(主に電気、水道)
    • 自家発電等により対応したが、ライフラインの途絶が長期間となり備蓄燃料等が不足
  • 備蓄
    • 患者・職員も含めた食料の備蓄
    • 医薬品・衛生材料等の備蓄
      • 道路の寸断、ガソリン不足が長期となったため、食料等が不足


 EMIS(Emergency Medical Information System)とは、広域災害救急医療情報システムのことである。建物・施設被害の有無、患者収容の可否、ライフラインの可否などを入力し、連携支援の可否を判定するシステムである。MCA(Multi-Channel Access)無線や衛星携帯電話は、耐震性のあるシステムとして災害時を想定して使われている。


 資料2には、気仙沼市立病院における課題が次のようにまとめられている。

  • 病院の耐震性
  • 備蓄物資の枯渇
  • 通信手段の復旧の遅れ
  • ヘリポートの確保
  • 職員のレスパイト


 病院の耐震性については、築46年の建物を抱えながら、自治体立病院として新築がままならない苦悩が語られている。備蓄物資については、これほど長期にわたり、電力・水・食料確保が困難とは想定されていなかったことが示されている。通信手段に関しては、僻地であるためMCA無線そのものが配備されていなかったこと、地震により衛星携帯電話が初期設定に変更となったため使用できなかったことが問題とされている。ヘリポートに関しては、湾岸にある施設を当初使用する予定となっていたことで、8km離れた場所をヘリポートとせざるをえなかったことが示されている。そして、職員のレスパイトに関しては、自らも被災しながら極限まで働き続けざるをえなかった職員の状況をふまえ、災害拠点病院への人的救援を制度として明記するべきと提言している。


 短期的に対応できるのは、災害時の通信手段の確保と備蓄である。ある災害拠点病院のスタッフが、MCA無線や衛星携帯電話を実際に使ったことがなかったため、東日本大震災の時に役立たなかったと述べていた。また、水は井戸水を使ったシステムで自給可能だったが、職員用の食料が全くなく、全国からの支援が来て初めて飢えをしのげたと述べていた。災害拠点病院に限らず、全国全ての医療機関介護施設などで、この2つの問題に対する対策を早急に行う必要がある。
 耐震問題は、中長期的課題となる。少なくとも二次医療圏にひとつは耐震性のある災害拠点病院を整備するという国の施策からすると、耐震性向上の課題を自治体任せ民間医療機関任せにするべきではないことは明らかである。