土門拳「古寺巡礼」

 山形県酒田市土門拳記念館がある。地元出身の写真家土門拳の全作品が収蔵されている、日本初の写真美術館である。
 土門拳記念館は、1983年に創立された。私は、この記念館に今まで4回ほど訪れたことがある。最初は、1986年か1987年に行った病院旅行の時、2回目は1993年に秋田で行われた研究会の帰り日本海沿岸経由で仙台に帰った時、3回目は2000年に鶴岡での研究会時、そして、最近では2006年の家族旅行時に立ち寄っている。


土門拳 古寺巡礼

土門拳 古寺巡礼


 本書は、土門拳の代表作「古寺巡礼」の愛蔵版である。「古寺巡礼」は、昭和38年(1963年)の第1集から始まり、昭和50年(1975年)の第5集で完結した。しかし、この愛蔵版の表紙を飾る「雪の室生寺五重塔全景」は、昭和53年(1978年)の撮影である。


 土門拳は、その生涯において、3回、脳卒中発作を起こしている。
 最初は、昭和35年(1960年)、51歳の時である。脳出血という診断で東京警察病院に2月から4月まで入院している。右不全片麻痺を残している。
 2回目は、昭和43年(1968年)、59歳時である。6月に山口県で取材中に脳出血で倒れ、九州大学付属病院に入院。翌年6月、長野県鹿教湯温泉病院に入院し、リハビリテーション医療を受けた。11月退院。右片麻痺があり、車椅子生活となった。
 最後の発作は、昭和54年9月、70歳時である。虎ノ門病院に入院し、意識不明の状態が遷延した。そして、平成2年(1990年)9月15日、入院先の虎ノ門病院で心不全で死去している。


 土門拳は、雪の室生寺の写真を一枚も撮影できなかったことを気にしていた。昭和53年というと、3回目の発作の前年である。不自由な身体を助手たちに支えられながら、車椅子ごと石段を抱え上げられる様子が想像される。撮影の鬼と呼ばれた姿が目に浮かんでくる。