こんにゃくゼリーの物性

 農林水産省こんにゃく入りゼリーに関する調査結果について内にある、調査2 こんにゃく入りゼリーの物性の測定及び注意表示に関する調査の結果について【別紙3及び4(PDF:711KB)】を紹介する。

3 結果と考察
(1)物性の測定
1) 国民生活センターが実施した測定結果との比較(図1)
 今回の測定結果は、平成7年に国民生活センターが測定した結果に比べ、事故品を含め、かたさ及び弾力ともに高い値を示した商品が多く、若しくはかたさ及び弾力が高い商品も認められた。その一方で、かたさ及び弾力がより低い商品も認められた。これらの結果は、平成19年7月5日に国民生活センターが公表したこんにゃく入りゼリーのかたさ及び弾力に関する測定結果ともほぼ同様であった。


2) 解析結果と商品の表示に記載された事項との関連(図2)
 解析対象中9商品については、商品の表示から原材料等に関する詳細な情報が確認された。今回の解析結果とこれらの商品に記載された事項との関連は次のとおりであった。


(中略)


 以上の結果から、限られたデータではあるが、使用されるこんにゃく粉(マンナン)の含量並びにゲル化剤の組合せからゼリーの物性に影響を及ぼすことが明らかになったことから、食品事業者がゼリーのかたさや弾力について今後の改善策を検討する場合には、それらに十分注意を払う必要がある。


 本調査は、2007年3月及び4月にこんにゃくゼリーに起因する児童の窒息事故が発生したことを受け、農林水産省が行ったものである。


 以下、「脳卒中の摂食・嚥下障害(第2版)、「食べやすい食品とはなにかー食物のテクスチャーとレオロジー」(p.101〜103)を参考に話を進める。

脳卒中の摂食・嚥下障害第2版

脳卒中の摂食・嚥下障害第2版


 食品の性状を語る言葉としてテクスチャー(texture)がある。また、物質の変形や流動の現象を扱う学問をレオロジー(rheology)という。感覚的な食べやすさ(テクスチャー)をレオロジーの面から数量化しようとする研究がなされている。
 液体内部に生じる摩擦により、サラッとしているものからドロッとしている性質が決まる。これを粘性という。一方、固体に力を加えようとした時にもとの形にもどろうとする性質のことを弾性という。安全に嚥下できる食塊とは、咀嚼をしながらつくられていくもので、ある一定の粘性と弾性がある。嚥下食とは、あらかじめ、嚥下しやすいように調整された食事のことを指す。
 ゼラチンや寒天は多糖類であり、条件によってゲル-ゾル転移が起こる。ゼラチンゼリーを食べたとき、体温で表面がゾル化(溶けること)してすべりやすくなる。一方、こんにゃくは熱不可逆性ゲルであり、このような現象は起こらない。


 事故を起こしたこんにゃくゼリーは、弾性およびかたさが著しく高い。こんにゃくゼリーは破断されにくく、同じ形態を保ち続ける。こんにゃくゼリーレオロジーの観点からみると、意識的に咀嚼を行わないと食べることができない食品といえる。
 このような食品がミニカップタイプの容器で提供された場合、事故につながる。ミニカップ入りゼリーは、吸引した時に誤って咽頭に入り込みやすい。ゼラチンゼリーでは、咽頭内で形状を変更することができる。しかし、こんにゃくゼリーの場合には、そのままの形で気道を塞ぐ。喀出力の弱い年少児および高齢者の場合、致死的な経過をたどることになる。
 ミニカップ入りのこんにゃくゼリーは、物性の点からも、窒息事故を誘発する危険性が高い。