「医療事故:真実説明・謝罪マニュアル」、タイトルに工夫必要

 ハーバード大学で作成された「医療事故:真実説明・謝罪マニュアル」は、医療安全管理を考える上で必読資料といえる。


 原文のタイトルを忠実に訳すと次のとおりになる。「物事がうまくいかない時。有害事象への対応。ハーバード大学での合意に基づく声明。」原文のAdverse Event(有害事象)が、日本語訳のタイトルではIncident(医療事故)となっている。Adverse Event(有害事象)とは耳慣れない言葉だが、次のように定義され、Medical Error(医療過誤)と明確に区別されている。原文を引用する。

Adverse Event: An injury that was caused by medical management rather than the patient’s underlying disease; also sometimes called “harm”, “injury”, or “complication”.


An adverse event may or may not result from an error. See further classification of preventable and unpreventable adverse events below.


“Medical management” refers to all aspects of health care, not just the actions or decisions of physicians or nurses.


Medical Error: The failure of a planned action to be completed as intended or the use of a wrong plan to achieve an aim. Medical errors include serious errors, minor errors, and near misses. (Note: A medical error may or may not cause harm. A medical error that does not cause harm does not result in an adverse event.)


 日本語訳では、次のようになる。

有害事象:患者さんのもともとの病気によるというよりも、医療行為によって引き起こされた傷害。「害(harm)」「傷害(injury)」「合併症(complication)」とも言います。


・有害事象には、過誤に起因する場合と起因しない場合があります。さらに、予防可能な有害事象や予防不可能な有害事象の分類については、下記を参照してください。


・「医療行為(medical management)」とは、医師や看護師の行為や決定だけでなく、ケアのすべてにわたる局面のことを示します。


医療過誤:計画された行為を意図したとおりに遂行しようとして失敗すること、または目的を達成しようとして誤った計画を採用することです。医療過誤には、深刻な過誤も、軽微な過誤も、ニアミスも含みます(注:医療過誤は、害を起こすことも起こさないこともあります。害を起こさない医療過誤は、有害事象とはなりません)。


 すなわち、原文タイトルは、「医療過誤があろうとなかろうと、医療行為によって有害事象が引き起こされた場合(物事がうまくいかない場合)の対応」という意味になる。


 日本語訳では、有害事象が医療事故に置き換わり、「真実説明・謝罪マニュアル「本当のことを話して、謝りましょう」という副題が付け加えられている。内容を簡潔に説明するため、意訳が試みられた。しかし、医療側に明確な過誤がないにも関わらず、事態を穏便にすませるため事故報告書でミスを認めたことが大野病院産科医逮捕事件を引き起こした。医療訴訟に医師が過敏になっている状況の中で「謝罪」という言葉が前面にタイトルに出したため、医療側の反発を招いてしまわないかと危惧する。タイトルの日本語訳に工夫が必要である。


 患者さんやご家族とコミュニケーションをとる上で、「インシデント(医療事故)発生後には、患者さんやご家族に対する迅速で、心情に配慮した、正直なコミュニケーションが重要」ということが強調されている。具体的には、次の対応が推奨されている。

〔要点2〕十分に情報を伝えるための4つのステップ


1. 患者さんとご家族に何が起こったかを話します。
2. 責任をとります。
3. 謝罪します。
4. 今後の医療事故を予防するためになされることを説明します。


 最初の段階で十分な説明をしないとことが、医療不信を招き、後々の医療訴訟を引き起こす原因になることを、本資料は具体的に示している。
 医療安全委員会の役割は重要である。医療安全の質を高めることは、患者を守るだけではなく、医療機関自体を守ることになる。医療安全に関わる職種だけでなく、全ての医療関係者に本資料を読んでいただきたいと願う。