人工呼吸器装着重症患者に対する早期PT・OTの効果

 廃用症候群に関連した文献探しをした時に、http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(09)60658-9/fulltextを見つけた。

Editors' note: Long-term complications of critical illness include ICU-acquired weakness and neuropsychiatric disease. Immobilisation secondary to sedation might potentiate these problems. This randomised controlled trial assessed the efficacy of combining daily interruption of sedation with physical and occupational therapy on functional outcomes in patients receiving mechanical ventilation in intensive care. The intervention (n=49) resulted in a greater number of patients returning to independent functional status compared with the control group (n=55). The intervention was also associated with a shorter duration of ICU-associated delirium.


 ICU-acquired weakness and neuropsychiatric diseaseを、ICUで生じた筋力低下と神経精神病と直訳するよりは、ICU治療に伴う廃用症候群と意訳した方がしっくりくる。


 本文献は、ChicagoとIowaの大学病院で行われたランダム化比較試験である。人工呼吸器装着後72時間未満で今後少なくとも24時間以上継続が必要と予想された患者104名が対象である。介入群(N=49)は、鎮静剤を切っている間に早期から運動療法を施行した。一方、コントロール群(N=55)は、治療チームの判断でPT・OTを依頼した。
 退院時にADL自立となったのは、介入群が29名59%であるのに対し、コントロール群は19名35%であり、オッズ比2.7(95%信頼区間:1.2-6.1)で有意だった。せん妄期間も人工呼吸器離脱日数も有意に介入群で短かった。治療に伴う重大な有害事象は、498回の介入中、酸素飽和度が80%未満となった1回だけだった。
 以上の結果から、人工呼吸器装着重症患者に対し、早期から鎮静剤を切った時にPT・OTを行うという治療は、安全かつ有効と結論づけている。


 PT・OTの内容は次のとおりである。

  • 毎朝、鎮静剤使用中で反応のない患者に対し、他動的ROM訓練を全肢に対して行う。
  • 鎮静剤中止時に、介助下および介助なしでの自動ROM訓練を仰臥位で行う。運動に耐えうるようなら、起き上がりを含む起居動作訓練に進む。座位バランス訓練、ADL訓練などを行う。さらに、移乗動作(椅子やトイレへの立ち上がり着座動作を含む)、歩行訓練に進む。
  • 病前のレベルに戻るか、退院するまでPT・OTを継続する。
  • 次のような不安定な状態の時には、PT・OTを中止する。平均血圧65mmHg未満ないし110mmHg超、収縮期血圧200mmHg超、心拍数40未満ないし130超、呼吸数5未満ないし40超、パルスオキシメーター88%未満。さらに、脳圧亢進、消化管出血、心筋虚血なども不安定な状態として列挙されている。


 人工呼吸器装着中、PT・OTは、介入群で中央値0.32時間/日実施されたのに対し、コントロール群の中央値は0.0時間だった。また、介入群では挿管後中央値1.5日後にPT・OTが開始されたのに対し、コントロール群では中央値7.4日だった。


 対象患者をよくみると、黒人が介入群で61%、コントロール群で56%と人口構成比に比し割合が高い。疾患も急性肺外傷がそれぞれ55%、56%となっている。平均年齢は57.7歳と54.4歳である。詳しくは記載されていないが、米国であることを考えると、銃創などの暴力事件がらみの患者が含まれているのではないかと推測する。


 考察のところでも触れているが、本研究のような積極的なリハビリテーション介入を米国どこでも行っている訳ではない。先進的な取り組みであることは間違いない。ただ、日本の現状を振り返った時、ICUに入室しているような重症患者に対し、リハビリテーション専門職が関わっている例はきわめて稀である。本論文では、コントロール群も挿管後中央値1週間でPT・OTが介入している。
 脳血管障害や大腿骨頚部骨折だけでなく、長期臥床を強いられる疾患全てに対し適切なリハビリテーション医療を提供できるための環境整備(急性期医療機関リハビリテーション医療に関する理解、診療報酬整備)が求められていると感じた。