京大病院におけるインシデント報告

 インシデントとアクシデントの使い分けは日本独自のもの(2010年6月7日)に関連し、京大の状況を報告した記事を紹介する。
 「インシデントレポートは病院へのコンサルテーション。患者の治療のための前向きの業務」に次のような記載がある。

ーー医療安全活動の指標となるような数値はあるのですか。


長尾 科学的な根拠は不明ですが,「インシデントレポート総数が病床数の5倍,そのうち1割が医師からの報告」というのが透明性のおおよその目安と言われています。当院のように1000床規模の病院ならば,総数が5000件,そのうち500件を医師からの報告で占めるのが目標となります。


(中略)


 1000床規模の病院では,過失の有無は関係なく,重大な有害事象が年間50件ほど発生していると推測されます。では当院の医療安全管理室がどのくらい把握できたか。2009年度はインシデントレポートによって56件を把握し,そのうち32件が医師からの報告です。


 京大病院では、インシデントとアクシデントの使い分けはしていない。代りに、ニアミスや軽微な事例を含めインシデントという言葉で代表させている。
 医療事故という言葉を意識的に避けていることにも注目する。医療事故という言葉には、医療現場で生じた事故という意味よりも、医療者が責任を負うべき事故というニュアンスが強い。本来なら、医療事故と医療過誤を明確に分けるべきだが、世間はそうみない。医師は医療訴訟に過敏になっている。医療事故報告書は医師からは集まりにくい。
 代わって、有害事象という言葉が使用されている。有害事象には、予期せぬ合併症も含め、患者に不利益を生じた全ての事象が含まれる。医師の抵抗感も少ない。医療安全文化の醸成のためには、医療行為に関連して生じた有害事象を医師から報告しやすくするような環境づくりが求められている。