後期高齢者特定入院基本料の見直しに関し、厚労省から通知があった。
これまでの議論については、下記参照。
【参照エントリー】
- 後期高齢者特定入院料とリハビリテーション(2008/3/16)
- 後期高齢者医療制度の破綻と後期高齢者特定入院料という時限爆弾(2008/4/27)
- 脳卒中患者長期入院打ち切り懸念(2008/5/2)
- 後期高齢者特定入院料に関する厚労相の認識(2008/7/14)
- 後期高齢者特定入院料の見直し(2008/8/5)
- 後期高齢者特定入院基本料猶予の条件(2008/8/15)
- 後期高齢者特定入院基本料見直しに関する中医協総会資料(2008/8/28)
厚労省、一般病棟に長期入院している高齢の脳卒中患者・認知症患者に関する診療報酬算定の際の留意事項についてより。
平成20年9月5日
照会先
保険局医療課
電話03-5253-1111(内線3288、3172)
一般病棟に長期入院している高齢の脳卒中患者・認知症患者に関する診療報酬算定の際の留意事項について
平成20年度診療報酬改定において、一般病棟が本来担うべき役割を明確にするため、一般病棟入院基本料を算定している病棟に90日を超えて入院している後期高齢者であって、重度の意識障害、人工呼吸器装着、頻回の喀痰吸引等の密度の高い医療を必要としない患者のうち、脳卒中の後遺症の患者及び認知症の患者についても診療報酬(入院料)減額の対象とし、半年間の準備期間を設け、平成20年10月1日から施行することとしているところですが、今般、対象患者の見直しを行い、「既に入院している患者」及び「疾病発症当初から入院している新規入院患者」であって、医療機関が退院や転院に向けて努力をしている患者については、機械的に診療報酬減額の対象とすることはしないこととしました。
その取り扱いについて、各地方社会保険事務局長等に通知を発出いたしましたので、お知らせいたします。
○通知:「一般病棟入院基本料を算定している病棟に長期入院している高齢の脳卒中後遺症患者及び認知症患者に関する診療報酬の算定の際の留意事項について」(PDF:629KB)
別に厚生労働大臣が定める状態等にあるものという部分に関係する表を示す。
状態等 | 診療報酬点数 | 実施の期間等 |
---|---|---|
1 難病患者等入院診療加算を算定する患者 | 難病患者等入院診療加算 | 当該加算を算定している期間 |
2 重症者等療養環境特別加算を算定する患者 | 重症者等療養環境特別加算 | 当該加算を算定している期間 |
3 重度の肢体不自由者(脳卒中の後遺症の患者及び認知症の患者を除く。)脊髄損傷等の重度障害者(脳卒中の後遺症患者及び認知症の患者を除く。)、重度の意識障害者、筋ジストロフィー患者又は神経難病患者等(*1参照) | − | 左欄の状態にある期間 |
4 悪性新生物に対する治療(重篤な副作用のおそれがあるもの等に限る。)を実施している状態(*2参照) | 静脈注射、高悪性腫瘍剤局所持続注入、点滴注射、中心静脈注射、骨盤内注射、放射線治療(エックス線表在治療又は血液照射を除く。) | 左欄治療により、集中的な入院加療を要する期間 |
5 観血的動脈圧測定を実施している状態 | 観血的動脈圧測定 | 当該月において2日以上実施していること |
6 リハビリテーションを実施している状態(患者の入院の日から起算して180日までの間に限る。) | 心大血管リハビリテーション、脳血管疾患等リハビリテーション、運動器リハビリテーション及び呼吸器リハビリテーション | 週3回以上実施している週が、当該月において2週以上であること |
7 ドレーン法若しくは胸腔又は腹腔の洗浄を実施している状態(*3参照) | ドレーン法(ドレナージ)、胸腔穿刺、腹腔穿刺 | 当該月において2週以上実施していること |
8 頻回に喀痰吸引・排出を実施している状態(*3参照) | 喀痰吸引、干渉低周波去痰器による喀痰排出、気管支カテーテル薬液注入法 | 1日に8回以上(夜間を含め約3時間に1回程度)実施している日が、当該月において20日以上であること |
9 人工呼吸器を使用している状態 | 間歇的陽圧吸入法、体外式陰圧人工呼吸器治療、人工呼吸 | 当該月において1週以上使用していること |
10 人工腎臓、持続緩徐式血液濾過又は血漿交換療法を実施している状態 | 人工腎臓、持続緩徐式血液濾過 | 各週2日以上実施していること |
血漿交換療法 | 当該月において2日以上実施していること | |
11 全身麻酔その他これに準ずる麻酔を用いる手術を実施し、当該疾病に係る治療を継続している状態(当該手術を実施した日から起算して30日までの間に限る。) | 脊椎麻酔、開放点滴式全身麻酔、マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔 | − |
12 前各号に掲げる状態に準ずる状態にある患者(*4参照) | − | − |
*1 3の左欄に掲げる状態等にある患者は具体的に以下のような状態等にあるものをいう。
a 重度の肢体不自由者(平成20年10月1日以降は、脳卒中の後遺症の患者及び認知症の患者を除く。)及び脊髄損傷等の重度障害者(平成20年10月1日以降は、脳卒中の後遺症の患者及び認知症の患者を除く。)
なお、脳卒中の後遺症の患者及び認知症の患者については、当該傷病が主たる傷病である患者のことをいう。
b 重度の意識障害者
重度の意識障害者とは、次に掲げる者をいう。なお、病因が脳卒中の後遺症であっても、次の状態である場合には、重度の意識障害者となる。
ア 意識障害レベルがJCS(Japan Coma Scale)でII-3(又は30)以上又はGCS(Glasgow Coma Scale)で8点以下の状態が2週以上持続している患者
イ 無動症の患者(閉じ込め症候群、無動性無言、失外套症候群等)
c 以下の状態に罹患している患者
筋ジストロフィー、多発性硬化症、重症筋無力症、スモン、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、ハンチントン病、パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上であって生活機能障害度がII度又はIII度のものに限る。))、多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳変性症、シャイ・ドレーガー症候群)、プリオン病、亜急性硬化性全脳炎及びもやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)
*2、*3 (省略)
*4 基本診療料の施設基準等別表第四第十二号に規定する「前各号に掲げる状態に準ずる状態にある患者」は、基本診療料の施設基準等別表第四第一号から第十一号の各号に掲げる状態に該当しない脳卒中の後遺症の患者又は認知症の患者であって、以下のいずれにも該当するものとする。なお、(2)の届出は毎月行うものとし、当該診療月の翌月10日までに届け出るものとする。
(1) 平成20年9月30日現在において一般病棟入院基本料を算定している病棟に入院している患者又は疾病発症当初から当該一般病棟入院基本料を算定する病棟に入院している新規入院患者。
(2) 当該保険医療機関が退院や転院に向けて努力をしており、その状況について、別紙様式27により地方社会保険事務局長に届け出ているもの。
# 適用に当たっての留意事項について
- 今回の改正によって後期高齢者特定入院基本料の算定対象とならない患者については、平均在院日数の計算対象としない。
- 退院支援状況報告書の届出時点では直ちに退院の見込みのない患者であっても、退院や転院に向けた努力をしているものについては、後期高齢者特定入院基本料の算定対象としない。
- 一定期間後、実態の把握を行う予定であるので、各社会保険事務局においては、届出のあった退院支援状況報告書について整理をしておくこと。
後期高齢者特定入院基本料とは、不公正な診療報酬である。何故に、一般病棟に90日を超えて入院している患者で、年齢による差別(後期高齢者であること)や病気による除外(脳卒中後遺症と認知症)がなされなければいけないのか、合理的な説明がされていない。中医協でも十分な討議がされていない。後期高齢者医療制度関連の診療報酬の中で、最も害毒が強いものである。
今回の見直しで、後期高齢者特定入院基本料の毒性はやや中和された。しかし、何点か気をつけなければいけないものがある。
1.対象者が、「平成20年9月30日現在において一般病棟入院基本料を算定している病棟に入院している患者又は疾病発症当初から当該一般病棟入院基本料を算定する病棟に入院している新規入院患者」に限られている。別表第四第十二号の規定は、転院患者を除外している。急性期病院から、地域の中小病院に転院した場合、一般病棟に90日を超えて入院できない。
2.当該保険医療機関が退院や転院に向けて努力をしている証拠として、退院支援状況報告書を毎月提出することが義務づけられている。医療機関の負担が増大する。
3.「医療機関が退院や転院に向けて努力をしている患者については、機械的に診療報酬減額の対象とすることはしない」ということは、逆に「退院や転院に向けて努力をしていない」と保険者が判断した場合には、後期高齢者特定入院基本料の算定対象となる可能性もあることを示す。
後期高齢者医療制度関連の診療報酬では、後期高齢者終末期相談支援料凍結に次ぐ異例の改定となった。一般病棟での長期入院が必要な患者にとっては朗報である。しかし、重度の肢体不自由者及び脊髄損傷等の重度障害者から、「平成20年10月1日以降は、脳卒中の後遺症の患者及び認知症の患者を除く。」という規定を廃止すればすむことを、随分回りくどいことをする。