リハビリテーションという言葉の由来

 リハビリテーションrehabilitationの動詞形rehabilitateには次のような意味がある。
【他動詞】
 社会復帰させる
 更生させる
 名誉を回復させる
 〜を復権、復職させる


 熟語rehabilitate oneselfは、「〜の名誉を回復する」という意味になる。


 一方、名詞形のrehabilitationには、次のような意味がある。
【名詞】
 リハビリテーション
 名誉回復
 復権
 更生


【用例】
 rehabilitation doctor → リハビリテーション専門医
 rehabilitation exercise → リハビリテーション訓練
 company rehabilitation law → 会社更生法
 financial rehabilitation → 財政再建
 rehabilitation counseling centers → 更生相談所


 リハビリテーションrehabilitationという言葉は、re-という「再び」を意味する接頭辞と、ラテン語のhabilis(適した、ふさわしい)という言葉に、ation(〜すること)という接尾語がくっついてできたものである。失われた名誉の回復という意味を持っていた。キリスト教が支配していた中世ヨーロッパでは、破門された者が、破門を解かれて名誉を回復する場合に用いられていた。


 リハビリテーションの訳語としては、次のものがある。
【訳語】
 中国: 康復
 韓国: 再活
 日本: リハビリテーション、更生


 注意して欲しいのは、「更生」であり、「更正」ではないことである。「更生」=更に生きる、という言葉は、リハビリテーションという言葉のそもそもの意味を感じさせる良い訳語である。しかし、障害を持っている方からみると、自分たちは何も悪いことをしていないのに、なぜ犯罪者と同じように扱われなければならないのか、という誤解を招く。カタカナ語の「リハビリテーション」が普及した要因の一つと考えられる。


 リハビリテーションという言葉が、医学の世界で初めて用いられたのは、第一次世界大戦中の米国である。1917年、陸軍病院に、傷病兵の社会復帰のために、Division of Physical Retraining and Rehabilitation が設けられたのが最初である。この場合、 Rehabilitation とは、一人前の人間として社会に戻ること、主に職業復帰のことを指していた。当時に使用された治療手段は、diathermy、電気刺激、温熱、マッサージ、そして運動療法などであった。特に、physical therapy (PT)とoccupational therapy (OT) の集中的利用が、傷病兵や障害者において重要であることが認識されていった。


 運動学や運動治療学が発展する中、膨大な戦傷者を生み出した第二次世界大戦前後にRehabilitation Medicine は確立されていった。 The American Congress of Physical Therapy は徐々に名称を変え、1966年には、the American Congress of Rehabilitation Medicine となった。
 1942年、 ニューヨークでThe American Congress of Physical Therapy は、次のようにRehabilitationを定義した。


【The American Congress of Physical Therapyによるリハビリテーションの定義】
 リハビリテーションとは、障害者を、彼のなしうる最大の身体的、精神的、社会的、職業的、経済的な有用性を有するまでに回復させることである。


 1982年、国際連合第37回総会で、「障害者に関する世界行動計画」が決議された。この計画における行動は、予防、リハビリテーション、機会均等化の3つの項目に分類定義され、その枠組みの中でリハビリテーションが定義された。リハビリテーションは自己努力に着目した概念としてとらえられており、機会均等という社会の努力に着目した概念とは、明確に区別された。


【「障害者に関する世界行動計画」におけるリハビリテーションの定義】
 リハビリテーションとは、機能障害者が、身体的・精神的・社会的にもっとも適した機能水準を達成できることを目的とした、目的志向的かつ時間を限定した過程を意味する。すなわち、それは、彼らに、自らの人生を変革するための手段を提供することを目的とする過程である。これには、(例えば、補助具などの)機能の喪失や機能上の制約を補うための手段ならびに社会的適応あるいは社会的再適応を可能にするための方策を含む。


【まとめ】
 リハビリテーション医学は、運動障害のある患者の「全人的復権」を目指し、取り組む医学である。たとえ、完全に治らなくても「あきらめない」、「しつこい」医学である。


 以上が、私がリハビリテーション医学講義の中で、明日のリハビリテーション専門職を目指す学生に対して行っている講義内容である。
 今回の診療報酬改定は、自宅退院率を下げる、回復度合いが低いという理由で、より重度の方を回復期リハビリテーション病棟にたどりつけないようにする改悪である。リハビリテーション医療の理念そのものが貶められている。さらに、障害者施設等病棟は脳卒中患者が排除された。療養病棟の診療報酬は引き下げられ、以前のように十分なリハビリテーションを行うことができなくなった。
 たび重なる診療報酬改定を是認し、物言わずに生き残り対策に汲々としているだけではいけない。その意味で、診療報酬改悪に抗議する活動は、リハビリテーション医療の名誉を回復することに通じると、私は考える。
 長くリハビリテーション医をやっていると、「あきらめない」、「しつこい」性格になるようである。今後も地道に本ブログを更新していきたい。