「時間を限定したプロセス」だけを強調すべきではない

 リハビリテーションの定義として最もよく用いられているのは、1982年に国連総会で採択された「障害者に関する世界行動計画」におけるものである。

 リハビリテーションとは、身体的、精神的、かつまた社会的に最も適した機能水準の達成を可能とすることによって、各個人が自らの人生を変革していくための手段を提供していくことをめざし、かつ、時間を限定したプロセスである。


 この定義中、「時間を限定したプロセス」という部分に対し、最近違和感を覚えてきていた。


 2006年度診療報酬、および、同時期に行われた介護保険見直しにも大きな影響を与えた高齢者リハビリテーションのあるべき方向(平成16年1月)の冒頭部分、高齢者リハビリテーションの現状に、次のような表現がある。

 このように、これまでわが国においては、予防、医療、介護において一体となった高齢者リハビリテーション提供体制の整備が図られてきているが、
 (1) 最も重点的に行われるべき急性期のリハビリテーション医療が十分に行われていないこと
 (2) 長期間にわたって効果が明らかでないリハビリテーション医療が行われている場合があること
 (3) 医療から介護への連続するシステムが機能していないこと
 (4) リハビリテーションとケアとの境界が明確に区別されておらず、リハビリテーションとケアとが混同して提供されているものがあること
 (5) 在宅におけるリハビリテーションが十分でないこと
などの課題があり、必ずしも満足すべき状況には至っていない。そのため、今後の高齢者介護の基盤となるリハビリテーションの現状についての検証と今後のあるべき姿の検討が求められている。


 リハビリテーション医療は効果がないのに長期間にわたって行うものではない、というニュアンスが読み取れる。背景に、リハビリテーションとはもともと「時間を限定したプロセス」であるという考え方が見え隠れする。
 この「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」の指摘が、診療報酬改定において、疾患別リハビリテーション料に算定日数上限が持ち込まれた根拠とされている。なお、「長期間にわたって効果が明らかでないリハビリテーション医療が行われている場合があること」という部分に関わる具体的データは示されていない。


 「障害者に関する世界行動計画」の原文、World Programme of Action Concerning Disabled Personsより、Rehabilitationの定義部分を引用する。

 Rehabilitation means a goal-oriented and time-limited process aimed at enabling an impaired person to reach an optimum mental, physical and/or social functional level, thus providing her or him with the tools to change her or his own life. It can involve measures intended to compensate for a loss of function or a functional limitation (for example by technical aids) and other measures intended to facilitate social adjustment or readjustment.


 前半部分を直訳すると、次のようになる。


 リハビリテーションとは、目標指向型、時間限定型のプロセスである。その目的は、障害者が、精神的、身体的、かつまた社会的に最も適した機能水準の達成を可能とすることによって、各個人が自らの人生を変革していくための手段を提供していくことである。


 具体的な目標を定め、その目標達成のための期間を限定して、リハビリテーションは行われる。その過程の中で、障害者自身が人生を変革していくための手段を身につける。生活や人生の再設計を自ら行う力を獲得できれば、リハビリテーションはその役目を終える。
 「自己変革の手段の提供」という部分が以前のリハビリテーションの定義と異なる。障害者運動の高まりの中、障害者の自己決定や主体性を重視する内容で、リハビリテーションが再定義されている。


 最初に紹介した広く知られている訳だと、「a goal-oriented and time-limited process 」のうち、「a goal-oriented process」という概念が伝わりにくくなり、「a time-limited process 」だけが強調されることになる。
 脳卒中のように身体障害が急に発症する場合、時間限定型(多くは数ヶ月単位)の対応はとりやすい。しかし、脳性麻痺のように発達と機能障害が共存する場合や、神経難病のように疾患の進行と機能障害の変化両者に対応が必要な場合には、リハビリテーション医療の関わりは長期になる。脳卒中の場合でも、重度障害を遺した場合、継続的に専門職が関わらないと低活動と廃用症候群の悪循環が生じ、要介護度が悪化する場合が少なくない。このような時、数ヶ月〜年単位で中長期的目標を決めてリハビリテーションサービスを提供し、結果をモニタリングしながら、新たな目標を設定し続けることになる。
 高齢障害者に対する「維持的」リハビリテーションも、「a goal-oriented and time-limited process 」の積み重ねであり、リハビリテーションの概念に矛盾しない。生活機能の維持という明確な目標がある。しかしながら、リハビリテーションは時間限定型のプロセスだという部分だけが強調されると、リハビリテーションは打ち切っても構わないということになってしまう。
 「リハビリ中止は死の宣告」(多田富雄氏)という言葉を重く感じる。当事者が効果を確認し継続を求めているにも関わらず、医療としてのリハビリテーションを打ち切らざるをえない状況は異常である。しかし、リハビリテーション関連団体の抗議の声はなかなか聞こえてこない。このままでは、専門職としての存在価値を失いかねないという危惧を私は抱いている。