回復期とpost acute

 脳卒中治療ガイドライン 2009 | 日本脳卒中学会 - The Japan Stroke Society脳卒中リハビリテーションの流れでは、「発症直後から、急性期、回復期、維持期に渡って、一貫した流れでリハビリテーショ ンを行うことが勧められるが、時期の区分についての科学的な根拠はない(グレー ドC1)。」とされている。

 急性発症する疾患では、急性期acute、亜急性期subacute、慢性期chronicという流れで表現するのが一般的である。しかし、日本では、2000年度診療報酬改定において回復期リハビリテーション病棟入院料が導入された後、回復期という表現が頻用されるようになった。比較的長期にわたり医療保険を使用したリハビリテーションが提供できるようにという意味で、回復期という用語が生み出された経緯がある。一方、維持期ないし生活期リハビリテーションは、基本的に医療保険を使うべきではなく、介護保険などで行うこととする政策決定がなされた。回復期、維持期(生活期)は、学問的な用語というよりは医療政策用語といえる。

 このような事情もあり、一般社団法人 回復期リハビリテーション病棟協会では、回復期リハビリテーション病棟に相当する英語の用語がないと判断し、自らの正式名称もKaihukuki Rehabilitation Ward Associationとしている。一方、日本医学会医学用語辞典では、回復期をconvalescentとしているが、convalescentとは"recovering from an illness of medical treatment"(治療後の回復途上)という状態を意味しており、時期を表現する用語としてはあまり適当とは思えない。

 回復期に相当する用語を探していたところ、最近、post acute(postacute、post-acute)という表現をしばしば目にするようになった。PubMedで検索してみると、acute、chronicほどではないが、post acute × rehabilitation 2,306件となり、convalescent × rehabilitation 1,534件よりは多くなっている。しかも、後者の著者名をみると日本発の論文が目立つのに対し、前者は日本以外のものがほとんどである。

 

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 台湾の論文、Post-Acute Care as a Key Component in a Healthcare System for Older Adultsの抄録を読むと、”Post-acute care aims to promote the functional recovery of older adults, prevent unnecessary hospital readmission, and avoid premature admission to a long-term care facility."という表現となっており、post-acuteが日本でいう回復期に相当するものとして表現されている。一方、米国の文献、Spatial association patterns between post-acute care services and acute care facilities in the United Statesでは、"We compiled data on CMS-certified acute care and critical access hospitals and post-acute health care services (nursing homes, home health care services, inpatient rehabilitation facilities, long-term care hospitals, and hospice facilities)"となっており、post-acuteが長期療養病院やホスピスまでを含む概念となっている。

 英語辞典をみると、acuteとchronicは対義語であり、subacuteは"between acute and chronic"となっている。一方、post acuteは、急性期治療後の比較的長い期間という意味で論文で用いられている。このような状況を考えると、post acuteが日本における回復期に最も近い概念ではないかという感触をもつ。少なくとも、convalescentよりは英語話者に通じやすいのではないかと考えている。