成果主義をめぐる論議

 回復期リハビリテーション病棟において、成果主義導入の動きが報道された後、CBニュースにおいて、回復期リハの成果方式「現場無視」(2007年10月23日)という記事が掲載された。ここに岩手県内のK病院の調査が紹介されている。貴重な調査であり、長文だが引用する。なお、表は引用先のニュースをご参照していただきたい。

 こうしたことがリハビリ現場の実態に合うか、リハビリのセラピストを26人要し、1年365日の全日にわたり同じセラピスト数でリハビリを提供している岩手県内のK病院が調査。今回は急な調査だったため、8〜9月に掛けて、49人の患者の自宅復帰率やリハビリの治療効果測定を調べた。

 その結果、自宅復帰率では「骨折」が46.2%と低く、「靱帯(じんたい)・神経損傷」が66.7%と高かった。これに対し、全国回復期リハ病院協会の調査では、「骨折」が73.8%、「靱帯・神経損傷」が85.0%だった。「骨折」、「靱帯・神経損傷」に「脳血管」と「廃用症候群」を合わせると、対象4疾患の自宅復帰率は、K病院が53.1%、同協会は65.3%だった=表1参照。

 また、リハビリ治療効果測定に関しては、K病院の「廃用症候群」のFIMは34.0、「脳血管」のFIMは31.5とADL改善度が高く、4疾患を合わせた全体では平均26.6の改善が見られた。一方、同協会では「廃用症候群」のFIMは10.2、「脳血管」のFIMも17.6と低く、4疾患全体の平均改善度も16.0に止まった=表2参照。

 K病院では、今回の調査に当たって、認知症のため「ギリギリの介護」を家庭で受けていた患者が骨折し、急性期病院で手術を受けた後、転送されてくるケースが多かった。「認知症患者の場合、他のリハビリ患者と比べてADL評価は低い。その反面、一定期間、リハビリを提供すると、もともと低かっただけに、改善度は高くなる。しかし、認知症のため、家族介護には限界もあり、家庭復帰率は高くならない」。
 同病院のリハビリスタッフは、こうした具体的な内容を踏まえ、同協会に比べ、平均改善度が高かった一方で、家庭復帰率が低かったことを分析。「重症や軽症等、どのような患者を入院させているかで、リハビリの効果は異なってくる。この点を明確にしないで、成果方式を導入するとなると、適切なリハビリの提供に支障をきたすことになる」と危惧している。

 その上で「自宅復帰率や改善度という数値だけでリハビリの効果を測るのであれば、医療機関が、『自宅復帰率を上げる』、『ADLの改善度を高める』という評価目的に合わせて、患者を選別することが可能になる。障害別・療法別によって、評価方法は様々であり、改善度合いを一律に評価することは困難だ。国が導入しようとしている成果方式は、評価の目的を歪める」と批判。
 「次回の改定で、成果方式を導入するのではなく、リハビリの日数制限など現行の問題点を改めるべき」と話している。


 最近の当院のデータと比べてみた。当院の場合、脳卒中患者の自宅退院率は71%、入院時FIM41.9、終了時FIM60.4、FIM増加率は22.8、平均入院期間77.1日、FIM効率(1日あたりのFIM増加)0.36だった(病状不安定等のため移動した患者を除く)。脳卒中だけみると、K病院はFIM増加は大きい。入院日数が不明なため、当院とK病院どちらが優れているとはいえない。少なくとも、全国データと比較してみてもK病院は非常に熱心にリハビリテーションを行っている病院であることは間違いない。一方、K病院の自宅退院率は全国データと比べて低い。中医協では、居住施設を含め自宅退院率を70〜75%に設定するという議論がされている。そうなると、K病院は質が悪い病院であるとレッテルが貼られてしまう。


 当院の自宅退院率を、入院時運動FIMで層別化してみると、40点以上で98%なのに対し、39点以下では48%と大差がついている。当初からADLが高い群リハビリテーション効果が期待でき、自宅退院率が向上する。しかし、ADLが低い群はたとえ伸びしろが多くても最終到達度が低いため、自宅への退院が困難となるという現実を示している。その他、同居家族数などの介護力が自宅退院に大きく影響するということは二木立先生の論文などで指摘されている。
 自宅退院率を上げることは実は簡単である。ADLが高く、家族状況が良い患者を選んで入院させれば良いだけである。リハビリテーション病棟の質と全く無関係なところで、自宅退院率は概ね決まる。逆に、ADLが低く介護力がない患者は、自宅退院率を引き下げるという名目で選別されかねない。


 自宅退院率という、誰もが納得しそうな指標一つとっても、成果主義は危険な代物といわざるをえない。