全国アンケート調査でみた回復期リハ病棟の現状
日本脳卒中学会は、機関誌「脳卒中 JSTROKE」の内容をWebで公開している。脳卒中に、「脳卒中地域医療の現状を把握するための全国アンケート調査」というタイトルを冠した4編の論文が紹介されている。
今回は、古賀 政利ほか: 脳卒中地域医療の現状を把握するための全国アンケート調査-回復期リハビリテーション病棟の現状- , 脳卒中 30: 735-743, 2008 .(以下「全国アンケート調査」)より、地域連携に関する内容の一部を紹介する。なお、全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会が2007年9月に行った調査、「回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する調査報告書」(以下「連絡協議会現状調査」)の結果をあわせて示す。後者は、全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会会員を対象にしている。
【対象と方法】
2007年9月、全国12都道府県(北海道、秋田、群馬、東京、神奈川、長野、大阪、和歌山、広島、徳島、福岡、鹿児島)の全ての回復期病棟保有施設347施設(402病棟)を対象とした郵送によるアンケート調査を行い、174施設(50%)から有効回答を得た。脳卒中患者を診療していた166施設(95%)を対象により詳しい設問への回答を求めた。
【結果】 結果の順番は必要に応じ入れ替えている。[ ]内は「連絡協議会現状調査」の該当する結果を示す。
(1)施設の概要より
- 受け入れ制限理由(複数回答可)
- 受け入れ待機期間
- 3日以内 11.4%
- 7日以内 35.5%
- 14日以内 37.3%(ここまで84.2%) [14日以下 19.7%]
- 1ヶ月以内 11.4% [30日以下 35.6%]
- 1ヶ月を超える 1.8% [31日以上 44.6%]
- 日常生活動作の評価に使用しているスケール(重複回答あり)
- FIM 72.3%
- Barthel Index 41.6%
- modified Rankin Scale 5.4%
- 介護保険意見書の日常生活自立度 15.7%
- 評価していない 0%
- その他 1.8%
- 脳卒中患者の在院日数 平均88±32日 [88日]
- 自宅退院率 平均61±17% [63%]
- クリニカルパスの使用率 9±26%
(2)脳卒中地域連携
- 急性期病院との連携
- 非常に良好 36.7%
- 一部は良好 56.0%
- どちらともいえない 3.0%
- あまり良好でない 3.0%
- 非常に悪い 0%
- ほとんど関わりがない 1.2%
- 一般診療所との連携
- 非常に良好 24.1%
- 一部は良好 47.0%
- どちらともいえない 16.9%
- あまり良好でない 9.6%
- 非常に悪い 0.6%
- ほとんど関わりがない 1.2%
- 維持期施設・事業所(入院、入所、通所および訪問)との連携
- 非常に良好 22.3%
- 一部は良好 64.5%
- どちらともいえない 6.0%
- あまり良好でない 4.2%
- 非常に悪い 0%
- ほとんど関わりがない 1.2%
- 周辺地域全体との連携
- 非常に良好 19.3%
- 一部は良好 59.0%
- どちらともいえない 12.0%
- あまり良好でない 6.6%
- 非常に悪い 0%
- ほとんど関わりがない 2.4%
- 地域連携に関する希望(複数回答可)、上位5項目を示す
- 急性期病院へ
- 患者が急病の時に、すぐに受け入れて欲しい 60.8%
- マイナスな面を含めて十分な医療情報を伝達してほしい 62.0%
- 急性期の運動機能や日常生活動作に関する情報がほしい 35.5%
- リハビリスタッフの意見が記入された紹介状がほしい 25.3%
- リハビリ機能を充実させてほしい 21.7%
- 一般診療所へ
- 維持期施設・事業所(入院、入所、通所および訪問)へ
- 待機期間を短縮してほしい 69.9%
- リハビリを充実させてほしい 65.7%
- 入院・入所基準を緩和してほしい 45.8%
- 在宅生活支援に力を入れてほしい 36.1%
- 連絡会やカンファレンスなどを定期的にもちたい 18.1%
- 周辺地域へ
- 地域連携パスなどで介護情報の共有
- 既に共有 13%
- 共有する予定 55%
- 予定なし 28%
(3)介護保険
- 医療保険と介護保険によるシステムの問題点と利点(複数回答可)
- 十分なリハビリを提供しにくい 84.3%、 提供しやすい 4.2%
- 十分な介護を提供しにくい 33.7%、提供しやすい 13.9%
- システムが理解しにくい 37.3%、理解しやすい 8.4%
- 地域連携が難しい 23.5%、地域連携しやすい 20.5%
- 脳卒中患者が満足しにくい 48.2%、満足できる 2.4%
(4)回復期病棟の適当な評価尺度
回復期リハビリテーション病棟に関する調査としては、「連絡協議会現状調査」が知られている。毎年、横断調査が行われ、10,000名を超えるデータが収集されている。今回の「全国アンケート調査」は、回復期リハビリテーション病棟を保有する施設を対象に、地域連携に関する意識を中心に調査が行われた。全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会に参加していない施設も含まれており、より全国の実態を反映している可能性が高い。ただし、設問内容が異なっており、両者は相互補完の関係にあるといえる。
本調査は、回復期リハビリテーション病棟に対する成果主義導入前に実施された。受け入れ制限の理由は、透析や人工呼吸器など医学的管理が可能かどうかであり、自宅退院が可能かどうかをあげた施設は3.6%に過ぎなかった。一方、実際の自宅退院率は、脳卒中に関しては、「全国アンケート調査」、「連絡協議会現状調査」とも60%をわずかに上回る程度だった。現時点で同様の調査を行った場合、自宅退院の可能性を受け入れ制限の理由とする施設が増えるおそれがある。
ADL指標としてFIMをあげるものが7割を超えていた。FIMとBarthel Indexのどちらかを使用している現状が確認された。既に確立した臨床指標があるにも関わらず、2008年度診療報酬改定では「日常生活機能評価」が導入された。リハビリテーションとは無縁の指標使用を無理強いすることに疑問を感じる。
地域連携に関しては、急性期病院との連携がより緊密であり、次いで維持期施設・事業所(入院、入所、通所および訪問、そして一般診療所という順番になった。いずれも連携が良好という回答が7割を上回っており、回復期リハビリテーション病棟が地域連携の要となっている実態が浮き彫りにされた。
急性期病院に対しては、「患者が急病の時に、すぐに受け入れて欲しい」、「マイナスな面を含めて十分な医療情報を伝達してほしい」という要望が多かった。急性期病院から回復期リハビリテーション病棟への要望に関しては、今回調査されていないが、地域連携パスに関わる会議で話題になるのは、「迅速な受け入れ」や「転院基準の緩和」である。相互のコミュニケーションを深める中で、両者の信頼関係が深めていくことが必要である。
維持期施設に対しては、「待機期間を短縮してほしい」、「リハビリを充実させてほしい」という回答が多かった。関連する他のアンケート調査の結果をみると、維持期施設が回復期病棟に望むこととして、「入院中の運動機能や日常生活動作に関する情報がほしい」、「リハビリ機能を充実させてほしい」などリハビリテーションに関係する要望が上位にくる。
急性期から回復期・維持期への地域連携の質を高めることが求められている。しかし、調査時点で地域連携パスなどで情報共有を行っているものはまだ13%に過ぎなかった。2008年度診療報酬改定後、この数字が上昇することが期待される。
医療保険と介護保険によるシステムの欠点として、「十分なリハビリテーションを提供しにくい」と回答したものが8割を超えた。2006年度以降に実施された診療報酬・介護保険制度改定の悪影響が本設問結果に示されている。
回復期リハビリテーション病棟を評価に適当な尺度として、「リハビリ機能」、「連携機能」、「自宅退院率」が上位に来た。住み慣れた自宅での生活を目指すことは回復期リハビリテーション病棟の機能として重要である。しかし、患者重症度や介護力が自宅退院率に無視できない影響を与える。アウトカム指標としての「自宅退院率」で診療報酬に差をつけたことには問題が多い。ストラクチャー、プロセス指標で評価される「リハビリ機能」、「連携機能」を重視した診療報酬再改定を望む。