自己紹介にかえて 成果主義の危険性

 2008年度診療報酬改定において、回復期リハビリテーション病棟に成果主義が導入されようとしている。その危険性について、今年10月に考察を行い、関係者の意見を募った。全文を引用する。


 NIKKEI NET(2007年10月4日)に次のような記事が載った。

 診療報酬に成果主義導入・厚労省方針、まずリハビリ病棟で


 厚生労働省は医師の医療行為に払う診療報酬に、初めて成果主義を導入する方針を固めた。まず病状回復期のリハビリ病棟への報酬点数を、病状の改善度合いに応じて加減する。11月にも中央社会保険医療協議会中医協)に具体的な検討を求める。リハビリ病棟への入院患者を減らし、膨張する医療費を抑える狙いだ。ただ、改善度合いを評価する基準の策定や、誰が評価するかなどを巡って調整が難航する可能性もある。
 診療報酬は医療行為ごとに個別に点数が決まっており、病状の改善度合いを反映する仕組みにはなっていない。医療費増に歯止めをかけるため、見直しに乗り出す。


 介護保険制度創設、回復期リハビリテーション病棟導入が2000年度に行われて以降、リハビリテーションは毎年のように制度改変の嵐にさらされている。特に、2006年度診療報酬・介護報酬同時改定の影響は甚大だった。
 疾患別リハビリテーション料への再編と算定日数上限設定は社会問題ともなった。署名活動が行われ、今年4月に異例の診療報酬改定が行われた。しかし、残念なことに、メディアの報道と異なり、リハビリテーション医療は一層受けにくいものとなった。財政均衡の名の下にリハビリテーション料の逓減制が導入された。また、算定日数上限を超えてリハビリテーションを行う場合、効果に関する詳細なレセプトコメントを求められるようになった。
 リハビリテーション医療はまだ発展途上である。急性期から回復期、そして維持期にいたるまでの間、十分なリハビリテーションサービスをどこの地域に住んでいても受けることができるという状況にはなっていない。逆に、経営的に成り立たず、リハビリテーション医療から撤退する医療機関も少なからず出てきている。
 厚生労働省管轄の高齢者リハビリテーション研究会は、2004年1月に「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」という報告書をまとめた。この中に、「長期間にわたって効果が明らかでないリハビリテーション医療が行われている場合がある」という記載がある。この研究会自体は良心的であり、リハビリテーション医療の改善を真摯に願っているという印象を持つ。しかし、効果がないリハビリテーション医療は行うべきではないという内容が一人歩きをし、さらに医療費抑制政策と結びつくと、リハビリテーション医療制限という大問題を生じる。
 そもそも、リハビリテーションにおける効果とはいったい何だろう。最も重要なものはADLの改善だろう。2006年度診療報酬改定後、Barthel Index(BI)かFIMの使用が半ば義務づけられている。BIかFIMが一定数値以上改善しないと効果がないと判定されることになるのではないか。しかし、BIやFIMに限界があることは、リハビリテーション医療関係者は皆知っている。例えば、経鼻経管栄養の患者が、介助ながら経口摂取できるようになるということは重要な成果だが、ADL指標では1点も変化しない。また、入院時既に基本的ADLが自立している患者が、屋外移動や公共交通機関利用、家事動作が自立したとしても、これらは手段的ADL項目に属するため、BIやFIMは変化しない。上肢機能や言語機能などの機能障害は、別の評価方法が適切である。
 診療報酬上の優遇を得ようとして、訓練効果が上がりそうな患者ばかりを回復期リハビリテーション病棟が集め始めると、切り捨てられる患者が当然出てくる。回復期リハビリテーション病棟への成果主義導入は、新たな医療制限をもたらすおそれがある。