7対1入院基本料の基準の見直しと看護必要度

 中医協総会(第123回)平成20年2月1日、平成20年度診療報酬改定について資料(総-2-1)53-54ページに、7対1入院基本料の基準の見直しについての説明がある。引用する。

第1 基本的考え方
 7対1入院基本料については、平成19年1月の建議を踏まえ、急性期等手厚い看護を必要とする患者の看護必要度を測定する基準を導入するとともに、急性期入院医療に必要な医師等の診療体制に係る基準を導入する。


第2 具体的内容
1 「看護必要度」基準を満たす場合に算定できる。
(1) 当該病棟に入院している患者の状態を「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」を用いて測定し、モニタリング及び処置等に係る得点(A得点)が2点以上、かつ、患者の状況等に係る得点(B得点)が3点以上の基準を満たす患者を1割以上入院させている場合に算定できる。
(2) 産科患者、小児科患者は、看護必要度測定の対象から除外する。
(3) 救命救急センターを設置する病院は、看護必要度に関する基準にかかわらず、算定できる。
(4) 特定機能病院には適用しない(ただし、患者の看護必要度に係る評価については実施する。)。


2 「医師配置」基準を満たさない場合は減算とする。
(1) 医師数が当該病棟の入院患者数に対して10分の1以上であり、かつ医療法標準を満たしている病院以外の病院については、7対1入院基本料の減算措置を講ずる。ただし、へき地等に所在する病院については、特別な配慮を行う。
(2) 特定機能病院には適用しない。


[経過措置]
1 準備期間を設け、平成20年7月1日実施とする。
2 平成20年3月31日時点で7対1入院基本料を算定する病棟であって、平成20年4月1日以降において10対1入院基本料を算定する病棟に限り、平成22年3月21日まの間(注 原文のまま)看護補助加算を算定できる。


 「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」を示す。


 回復期リハビリテーション病棟で用いられようとしている「重症度・看護必要度(B得点)」=「日常生活機能指標」には次の13項目が含まれる。

  • 床上安静の指示
  • どちらかの手を胸元まで持ち上げられる
  • 寝返り
  • 起き上がり
  • 座位
  • 移乗
  • 移動方法(主要なもの一つ)
  • 口腔清潔
  • 食事摂取
  • 衣服の着脱
  • 他者への意思の伝達
  • 診療・療養上の指示が通じる
  • 危険行動への対応


 奇妙な現象が生じている。「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」のB得点の方が、回復期リハビリテーション病棟用の「日常生活機能指標」より簡略となっている。「一般病棟用」B得点は、Barthel Indexをさらに簡単なものとしたものにもみえる。


 「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」作成には紆余曲折があった。以前、看護必要度と日常生活機能指標というエントリーで、中医協における議論を紹介した。再度、CBニュース、高度急性期病院に看護必要度を導入?(2007年10月10日)という記事より引用する。

 次期診療報酬改定に向けた検討の第1回目となった10月3日の中医協・診療報酬基本問題小委員会(委員長=土田武史・早稲田大商学部教授)で、厚労省は「看護職員配置と看護必要度に関する実態調査」の結果を公表した。現在、看護必要度が導入されている「特定集中治療室管理料」と「ハイケアユニット入院医療管理料」のうち、「ハイケアユニット入院医療管理料」で用いられている評価票を調査に使用し、患者に提供した看護を1分刻みで調べた。
 調査の結果、「7対1」「10対1」「13対1」における入院患者の違いが明らかになれば、7対1入院基本料の施設基準に導入する看護必要度の指標にする予定だった。


(中略)


 調査結果によると、A得点の平均点は「7対1病院」が1.70、「10対1」が1.66、「13対1」が1.53となっており、ほとんど差がなかった。
 一方、B得点では「7対1」の平均が5.24、「10対1」が6.17、「13対1が7.12と、看護配置が低くなるほど平均値が高いという“逆転現象”が起きていた。


(中略)


 対馬忠明委員(健康保険組合連合会専務理事)は「患者特性が変わらないのならば、支払側として“何をやっていたんだ”ということになる。看護師が多くいるだけで患者特性が変わらないのであれば、施設基準や配置基準の適正さを議論していかなければならない」と不満を表した。


(中略)


 土田会長も「医療必要度をもっと厳密に見る必要がある。もう少しきめ細かい調査を踏まえて再度議論したい。7対1と10対1で差が出てくれば、看護師の重点配置の議論に結びつくだろう」と述べ、再調査の結果を踏まえて、看護必要度の導入に踏み切る方針を示した。


 再検討を行った結果、「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」が作成された。中医協診療報酬基本問題小委員会(第113回)平成19年11月30日、急性期医療に係る評価についてー7対1入院基本料の基準の見直しについての部分に、評価表を作成した経緯が記されている。評価票(案)検討の考え方は次のとおりである。

 評価票(案)については、「重症度・看護必要度」調査結果から、(1)実施頻度が高かった項目、(2)7対1、10対1、13対1病院間で発生頻度に差があった項目、(3)入院時と退院時において平均値に変化があった項目、(4)急性期一般病棟における専門的な治療・処置、等の観点から項目の検討を行った。
 また、一般病棟で用いる評価票であることから、病院側の負担を少なくするために、評価項目数が少ないこと、判断が容易であること、評価者が責任を持てること、道具(コンピュータ、判定ソフト等)を必ずしも必要としないこと等を考慮した。


 「急性期一般病棟における専門的な治療・処置」に関するデータはある。しかし、「7対1、10対1、13対1病院間で発生頻度に差があった項目」、「入院時と退院時において平均値に変化があった項目」についてのデータは示されていない。厚労省はデータ隠蔽を行っている疑いがある。実際は、7対1入院基本料算定病院と、他の入院基本料算定病院との間に差がないのではないかと推測する。官僚の常とし、自分たちの誤りを指摘されたくないのではないか。
(修正: 「厚労省はデータ隠蔽を行っている疑いがある。」の部分を修正する。診療報酬基本問題小委員会(第99回)平成19年10月3日内に資料があった。詳しくは、2008年2月5日のエントリー参照。)

 「看護必要度」に関係する評価としては、2003年に完成した「看護必要度Ver.3」、ICU入室患者の基準として作成された「重症度」基準、そして、ハイケアユニット評価として用いられる「重症度・看護必要度」基準の3種類がこれまであった。ここに「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」と回復期リハビリテーション病棟用の「日常生活機能指標」が加わる。前3者は、科学的態度に裏打ちされた研究成果に基づくが、後2者に関しては妥当性の点で問題がある。
 データを蓄積し、「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」と回復期リハビリテーション病棟用の「日常生活機能指標」の問題点を明らかにしていくことが必要となっている。

全国回復期リハ病棟連絡協議会日常生活機能指標評価者研修会

 全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会会長名で、日常生活機能指標(看護回復期リハ看護必要度)評価者研修会開催にあたって(会長挨拶)という文書が届いた。研修会スケジュールにある第1回日常生活機能指標評価者研修(2007年1月21日)をご覧いただきたい。全文を引用する。

平成19年12月


重要 緊急連絡


全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会
会長 石川 誠(押印省略)


 日常生活機能指標(看護回復期リハ看護必要度)評価者研修会開催にあたって(会長挨拶)


 年度末に向かい慌しい中でございますが、平成20年度改定の診療報酬の動向に注目されていることと存じます。
 今後とも回復期リハビリテーション病棟への期待はますます大きくなると思われますが、次回改定にて回復期リハビリテーション病棟に成果主義が導入されることが確定いたしました。その際、成果を図るツールとして、自宅復帰率、患者の状態の改善度、重症患者の積極的受け入れなどが挙げられていまが(注:原文どおりに記述)、「在宅復帰率」と「日常生活機能指標(看護必要度)」が用いられます。
 2006年3月6日の医療課長通知として、病院の入院基本料に関する施設基準において、「各勤務帯に配置する看護職員の数については、各病棟における入院患者の重症度、看護必要度に係る評価を行い、実情に合わせた適正な配置数が確保されるように管理すること」と示されるなど、全国の入院基本料を算定する病院に対して「重症度・看護必要度に係わる評価」を実施することを求められた経緯があります。すでに「重症度」に関しては特定集中治療室では必要要件であり、ハイケアユニットでは「重症度・看護必要度」は必須要件となっています。
 回復期リハ病棟で用いられる「日常生活機能指標」とは、これまでハイケアユニット入院医療管理料の病棟で用いられている「重症度・看護必要度に係わる評価表のB項目」になります。このため平成20年度から看護必要度のチェック項目が若干異なりますが、特定集中治療室、ハイケアユニットに加え7:1看護及び回復期リハ病棟においても判定する方向が決まりました。
 「看護必要度に係わる評価表」の記入には院内研修を受けた者が行い、院内研修は所定の研修が終了したもの、あるいは評価に習熟したものが行う研修であることが望ましいとされています。したがって、回復期リハビリテーション病棟において、「日常生活機能指標」を正しく評価できることが必要となります。
 このため、当会としても「日常生活機能指標」(看護必要度)の正しい評価方法の習得は緊急課題と認識し、別紙のとおり平成20年1月から3月に8回の看護必要度研修会を開催することにいたしました。正しい評価方法を習得された方には認定証を交付したうえで、各院にて正しい評価方法を伝達していただきたいと考えております。なお、認定後は当会にて開発したソフトを各病院の参加代表者の方に無料でお配りします。
 20年度診療報酬改定に対応する重要な研修会となります。ご参加についてよろしくご検討くださいますようお願いいたします。


敬具


 以前記載した回復期リハビリテーション病棟と成果主義(まとめ)に、私の主張をまとめている。ぜひともご覧いただきたい。


 「次回改定にて回復期リハビリテーション病棟に成果主義が導入されることが確定いたしました。」とのことだが、中医協でまだ議論中ではなかったのか?各委員から、評価の基準については再検討を求める声が相次いでいる、とCBニュースでも述べている。リハビリテーション専門家として、「日常生活機能指標」(看護必要度)を使用することを黙認したのだろうか?

回復期リハビリテーション病棟と成果主義(まとめ)

中医協での論議

 2007年11月30日、中医協で、回復期リハビリテーション病棟に成果主義を導入するという提案がされた。概要は下記のとおりである。

 現在の施設基準のうち、医師の専従要件を廃止して平均的な点数を1,680点よりも引き下げ、回復期病棟ごとに「質の評価」を行って点数格差を付ける。
 質を評価する基準として厚労省は、(1)在宅復帰率、(2)重症患者の入院率、(3)重症患者の改善率の3つを示している。
 具体的には、(1)「居宅等」に退院する患者が一定の割合以上いること、(2)重症な患者を受け入れていること、(3)重症な患者の退院時の日常生活機能が一定程度以上まで改善されていることとしている。

 在宅復帰率に関しては、自宅と有料老人ホームを合わせて70〜75%に設定することが予想される。
 重症患者の評価には、「ハイケアユニット入院医療管理料」で用いられている「重症度・看護必要度」の一部分(B得点)が、「日常生活機能指標」と名前を変え用いられようとしている。計13項目20点満点中10点以上を重症とする案が出されている。重症患者率は20%を軸に今後議論される。退院時の改善率をどのように評価するかも課題となっている。各委員から、評価の基準については再検討を求める声が相次いでいる。


厚労省案の問題点】

(1)在宅復帰率
 厚労省案では、「在宅復帰率」の具体的範囲が著しく狭められる可能性が高い。同様に「在宅復帰率」を条件としている亜急性期入院医療管理料と比べ、回復期リハビリテーション病棟の「質の評価」基準はかなり厳しい。居宅等への復帰率が6割→7割へと引き上げられる一方、居宅等の範囲から介護施設が除外される。
 全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会は、毎年9月に調査を行い、約1万名のデータを集めている。その結果出された自宅退院率65.3%(2006年)という数字と比較すると、厚労省の参考資料にある75.1%という数字は、全国データから解離している。「在宅復帰率」70%というラインが設定されると、6割前後の回復期リハビリテーション病棟が「質の評価」の適応にならず、低い診療報酬に甘んじることになる。


(2)「日常生活機能指標」の使用
 「看護必要度」とは、科学的根拠に基づく要員管理のツールとして開発された。ハイケアユニット評価として用いられる「重症度・看護必要度」基準は、看護師の業務負担という視点でデータが集められている。調査対象となった病棟は、「看護の質が高い」急性期病院のICU、ハイケアユニット、そして急性期病棟であり、回復期リハビリテーション病棟や療養病棟を対象としたデータは収集されていない。
 内容面でみても、代表的ADL項目である排泄、入浴、階段昇降が評価されないという欠陥がある。床上安静の指示の有無を問う項目、どちらかの手を胸元まで持ち上げられるという項目が含まれており、患者の障害像を把握し自立を目指した援助をしていくリハビリテーション医療の視点と明らかに異なる。ハイケアユニットを対象とした「重症度・看護必要度」の一部分(B得点)のみを取り出して、「日常生活機能指標」と名前を変え、回復期リハビリテーション病棟の重症度評価に使用することには無理がある。


【医療に成果主義を持ち込むことは妥当ではない】

 在宅復帰率は、種々の要素で修飾される。自宅退院には、退院時のADL、同居家族数などの介護力が関係する。当初からADLが高い群は、リハビリテーション効果が期待でき、自宅退院率が向上する。しかし、ADLが低い群は、たとえ伸びしろが多くても最終到達度が低い。このため、自宅退院が困難となる。また、同じようなADLでも介護力がないと介護施設入所となることは、日常よくみかける現象である。
 患者側の因子を無視し、在宅復帰率のみで「医療の質」を評価すると、回復期リハビリテーション病棟運営に歪みが生じる。
 成果主義が導入されると、開始時ADLが低く介護力がない患者は、自宅退院率を引き下げるという名目で選別される可能性が高くなる。算術が得意な回復期リハビリテーション病棟だけが残り、適応があれば重症患者も受け入れている病院がつぶれかねない。
 重症患者の受け入れを妨げないようにすると厚労省は主張する。しかし、重症患者の改善率を評価する指標として使用されようとしている「日常生活機能指標」は、リハビリテーション医療とは無縁のものである。患者の重症度、改善率を測定するツールとしては不適切である。

 患者側の要素が「医療の質」の評価に影響を与えることは、他の医療分野でも同様である。例えば、悪性腫瘍の生存率比較に際し、早期癌と進行癌の割合や年齢構成を無視し、数値だけを単純に比較することは実態を見誤ることにつながる。多種多様な患者要素を配慮せず、元データのみで成果を判断することは、医療の発展を阻害する。

 適応があっても患者選別のため不十分な医療しか受けられない患者が増えることは、医療経済的にも妥当ではない。重篤な患者や要介護者が増えると、医療費・介護費用が増大するという悪循環が生じる。目先の医療費削減にとらわれ医療へのアクセスを制限することは、めぐりめぐって国家財政を圧迫する。

 医療崩壊を防ぐ最も効果的な方法は、医療費削減政策をやめることである。成果主義の名の下に、ある部分を削り、別のところに補填するというやり方は、矛盾を広げるだけである。

FIMと「日常生活機能指標」の比較

 FIM(Functional Independence Measure)には、以下の18項目が含まれる。
# 運動項目

  • 食事
  • 整容
  • 清拭
  • 更衣(上半身)
  • 更衣(下半身)
  • 排泄動作
  • 排尿コントロール
  • 排便コントロール
  • 移乗(ベッド・車いす
  • 移乗(トイレ)
  • 移乗(浴槽)
  • 移動
  • 階段昇降

# 認知項目

  • 理解
  • 表出
  • 社会的交流
  • 問題解決
  • 記憶


 一方、「重症度・看護必要度(B得点)」=「日常生活機能指標」には次の13項目が含まれる。

  • 床上安静の指示
  • どちらかの手を胸元まで持ち上げられる
  • 寝返り
  • 起き上がり
  • 座位
  • 移乗
  • 移動方法(主要なもの一つ)
  • 口腔清潔
  • 食事摂取
  • 衣服の着脱
  • 他者への意思の伝達
  • 診療・療養上の指示が通じる
  • 危険行動への対応


 FIMにあるが、「日常生活機能指標」に相当する項目がないものは次の8項目である。
 清拭、排泄動作、排尿コントロール、排便コントロール、移乗(トイレ)、移乗(浴槽)、階段昇降、記憶。なお、「日常生活機能指標」危険行動への対応は、FIMの社会的交流と問題解決両方の概念が含まれる。
 「日常生活機能指標」には、FIMと異なり、排泄、入浴、階段昇降に関係する項目が全くない。
 基準が大きく異なる項目もある。例えば、「日常生活機能指標」食事摂取では、食止めや絶食になっている場合は、介助が発生しないので「介助なし」とするルールになっている。


 一方、FIMにないが、「日常生活機能指標」にある項目は次の5項目である。
 床上安静の指示、どちらかの手を胸元まで持ち上げられる、寝返り、起き上がり、座位。
 床上安静の指示は、医師の指示書やクリティカルパスにおける指示と位置づけられている。リハビリテーション分野では、安静度よりは活動度の指示が重視される。
 どちらかの手を胸元まで持ち上げられる、という項目は機能障害評価に相当する。脳卒中重度片麻痺でも、この項目は「できる」という評価になる。
 寝返り、起き上がり、座位の3項目は、基本動作として、リハビリテーション分野でもよく評価される。
 

 ADLの代表的評価であるFIMと「日常生活機能指標」は同様の項目が含まれている。しかし、障害をもった患者の自立を目指すという目的を考慮すると、代表的ADL項目である排泄、入浴、階段昇降評価が皆無という点は致命的欠陥といえる。「日常生活機能指標」しか使わない回復期リハビリテーション病棟は、排泄自立に取り組まなくても構わないことになる。

 また、床上安静の指示は、リハビリテーション評価になじまない。積極的に離床をはかり、運動療法を行っていくことが医師の指示で禁止されているのなら、回復期リハビリテーション病棟の適応からはずれる。

 機能障害の一面しか評価できないどちらかの手を胸元まで持ち上げられるという項目は、リハビリテーション分野では無意味である。機能障害を総合的に評価したいのなら、脳卒中ならSIAS、脊髄損傷ならASIAなど信頼性・妥当性が確認された評価表を使用すべきである。

 FIMなどリハビリテーション分野で繁用されている評価法と、「日常生活機能指標」とは、似て非なるものである。回復期リハビリテーション病棟重症度評価として使用を強制されるのなら、リハビリテーション医療は歪むとしか言いようがない。

「看護必要度 第2版」を読んで

看護必要度―看護サービスの新たな評価基準

看護必要度―看護サービスの新たな評価基準


 注文していた「看護必要度 第2版」が今日届いた。「重症度・看護必要度(B得点)」=「日常生活機能指標」を回復期リハビリテーション病棟の重症度評価に使用することが妥当かどうかという視点で、内容を批判的に吟味した。


 「看護必要度」に関係する評価としては、2003年に完成した「看護必要度Ver.3」、ICU入室患者の基準として作成された「重症度」基準、そして、ハイケアユニット評価として用いられる「重症度・看護必要度」基準の3種類がある。

 「看護必要度」とは、科学的根拠に基づく要員管理のツールである。「看護必要度」を正確に把握し、適切な看護師配置を評価するために用いられる。「看護必要度Ver.3」には、あわせて23のチェック項目がある。
 「看護必要度」研究は、1996年度に始められ、2002年までに患者2万1,743人に対する調査が実施され、延べ患者22万5,148人日分のデータが収集された。看護業務分類のコード化、アセスメント項目の抽出、24時間1分間タイムスタディ調査が順次実施された。調査病院は、「看護の質が高い」病院を対象に行われた。
 「看護必要度」調査では、原型評価法というアセスメント方式が採用された。これは、さまざまな状況の組合せを考え、それぞれどの程度時間がかかっているのかというパターンに基づいてアセスメントするやり方である。判断基準が明確であり、誰が評価しても同じ結果が下せるように工夫された。「看護必要度評価者指導者研修」が行われ、100点満点のみが合格とされるという厳しい試験が課せられた。

 ICU入室者の「重症度」基準は、2002年に厚労省からの依頼により実施された「看護必要度導入に関する研究」の研究成果をもとに作成された。この検討には、全国すべてのICUから収集された患者データ及び医師の入室判断基準が用いられた。「処置」に関して9項目、「看護の集中度」については5項目が選ばれた。患者スクリーニングに際してのカットオフ値は、ICUの実態を反映するような政策的な観点から決定された。

 ハイケアユニットを対象とした「重症度・看護必要度」基準の開発は、2003年度に行われた。当時、ICUがあり、より厚い人員配置を行っているハイケア病棟をもっている28病院に協力が依頼された。ICU患者、ハイケア病棟患者、急性期の2対1基準をもっている病棟という3種類の病棟の比較が行われた。その結果、モニタリング及び処置等の15項目(A得点)、患者の状況等の13項目(B得点)の計28項目が選択された。


 本書には、3種類の評価の信頼性・妥当性検証に関する記載はない。しかし、明確な判断基準があり、評価指導者に関する研修が行われていることを考慮すると、信頼性については問題ないと推測する。また、1分間タイムスタディ調査を実施していることなどから、急性期病院における「看護必要度」に関して妥当性もあると判断する。地道に真面目に行われた研究であるという印象を強く受ける。


 しかし、いずれの基準も主体は看護職である。どの程度看護師にとって負担がかかるかという視点でデータが集められている。患者の障害像を把握し、自立を目指した援助をしていくリハビリテーション医療の視点からみると、違和感を感じる。また、調査対象となった病棟は、「看護の質が高い」急性期病院のICU、ハイケアユニット、そして急性期病棟であり、回復期リハビリテーション病棟や療養病棟を対象としたデータは収集されていない。したがって、ハイケアユニットを対象とした「重症度・看護必要度」の一部分(B得点)のみを取り出して、「日常生活機能指標」と名前を変え、回復期リハビリテーション病棟の重症度評価に使用することには無理があると言わざるをえない。


 次回、FIMとの比較を通して、「日常生活機能指標」の問題点について検討をする。

重症度・看護必要度に係る評価表

 そもそも「看護必要度」とは何か?


 「看護必要度」とは、診療報酬におけるハイケアユニット入院医療管理料の施設基準にある「重症度・看護必要度に係る評価表」のことを示す。モニタリング及び処置等に係る得点(A得点)が3点以上、または患者の状況等に係る得点(B得点)が7点以上、という基準を満たす患者が8割以上いることが条件である。歴史的には、次のような経過をたどっている。

「重症度・看護必要度に係る評価表」に関しては、1996 年筒井孝子らにより、急性期入院医療における看護サービスの新たな指標として「看護必要度」の開発の研究が開始され平成13年度に患者アセスメント項目(Ver3)が完成した。2003 年 4 月より、特定集中治療室管を算定している治療室に重症度評価として導入が行なわれ、2004 年4月よりハイケア病棟評価として、「重症度・看護必要度に係る評価表」項目により患者評価を行うこととなった。(厚生労働省:中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織各分科会平成17年3月23日資料、資料(D-9)1〜18ページ、19〜36ページのところに歴史的経過に関する記述がある。)


 「看護必要度」とは、急性期医療における看護サービスの指標である。それが、いつの間にか一部分(B得点)だけ「日常生活機能指標」と名前を変え、回復期リハビリテーション病棟の重症度評価として用いられようとしている。さらに、ハイケアユニット入院医療管理料ではB得点が7点以上という基準だったが、回復期リハビリテーション病棟では10点以上を重症とするという規定になっている。

看護必要度と日常生活機能指標

 先日示したCBニュース、リハビリ成果主義、在宅復帰率などで(2007年12月3日)というニュース内に次のような記載がある。

「重症患者の入院率」では、日常生活に必要な身体機能(日常生活機能)で「重症度」を判断する。看護にかかる手間を判断する「看護必要度」と同様の指標を導入し、「寝返り」「起き上がり」「食事の摂取」「衣服の着脱」などの13項目で0点〜20点を付けて、10点以上を重症とする。


 CBニュース、高度急性期病院に看護必要度を導入?(2007年10月10日)という記事を読んだ。「看護必要度」は、A得点とB得点に分かれるが、このB得点と中央社会保険医療協議会診療報酬基本問題小委員会平成19年11月30日資料リハビリテーションについての「資料(診ー2ー3)」の中にある日常生活機能指標が全く同じものである。


 看護必要度導入に関する議論について引用する。

 次期診療報酬改定に向けた検討の第1回目となった10月3日の中医協・診療報酬基本問題小委員会(委員長=土田武史・早稲田大商学部教授)で、厚労省は「看護職員配置と看護必要度に関する実態調査」の結果を公表した。現在、看護必要度が導入されている「特定集中治療室管理料」と「ハイケアユニット入院医療管理料」のうち、「ハイケアユニット入院医療管理料」で用いられている評価票を調査に使用し、患者に提供した看護を1分刻みで調べた。
 調査の結果、「7対1」「10対1」「13対1」における入院患者の違いが明らかになれば、7対1入院基本料の施設基準に導入する看護必要度の指標にする予定だった。
(中略)
 調査結果によると、A得点の平均点は「7対1病院」が1.70、「10対1」が1.66、「13対1」が1.53となっており、ほとんど差がなかった。
 一方、B得点では「7対1」の平均が5.24、「10対1」が6.17、「13対1が7.12と、看護配置が低くなるほど平均値が高いという“逆転現象”が起きていた。
(中略)
 対馬忠明委員(健康保険組合連合会専務理事)は「患者特性が変わらないのならば、支払側として“何をやっていたんだ”ということになる。看護師が多くいるだけで患者特性が変わらないのであれば、施設基準や配置基準の適正さを議論していかなければならない」と不満を表した。
(中略)
 土田会長も「医療必要度をもっと厳密に見る必要がある。もう少しきめ細かい調査を踏まえて再度議論したい。7対1と10対1で差が出てくれば、看護師の重点配置の議論に結びつくだろう」と述べ、再調査の結果を踏まえて、看護必要度の導入に踏み切る方針を示した。


 高度急性期病院に「看護必要度」の高い患者が集まっているという仮説を検証するために調査をしたが、治療や処置の内容に大きな違いはなく、逆に、患者の日常生活能力(ADL)や療養上の世話の内容は「13対1算定病院」の平均値が最も高いという逆転現象が生じていた。しかし、厚労省は「看護必要度」を「7対1病院」を減らす目的で強引に導入しようとしている。そればかりか、本来の目的と異なる回復期リハビリテーション病棟にも、日常生活機能指標と名前を変え使用させようとしている。