インフルエンザ超過死亡推測システムを用いて他疾患の超過死亡を判断すべきではない理由

 インフルエンザ超過死亡推測システムを用いてCOVID-19の超過死亡を推定しようとする試みが散見される。最近では、下記エントリーが話題となった。日本における超過死亡に関しては、インフルエンザ関連死亡迅速把握システムを用いて推測している。 


 これに対し、数値が何度も見直されていることを理由として、使用を控えた方が良いと提案する記事もホットエントリーになっている。

 

 私も後者のエントリーと同意見である。ただし、理由はいささか異なる。

 2018/19シーズンにおける超過死亡の評価において、国立感染症研究所で用いている2種類のインフルエンザ超過死亡推測システムが説明されている。ひとつは、大都市を対象としたインフルエンザ関連死亡迅速把握システムであり、もう一つは全国を対象としたシステムである。前者には次のような特徴がある。

死亡届の数段階ある死因のいずれかにインフルエンザあるいは肺炎の記載がある死亡者数が, おおむね週に一度保健所の協力を得て感染症サーベイランスシステム(NESID)に登録され, その情報から全国と同様に確率的フロンティア推定法を用いて超過死亡が推定され, 公開されている。おおむね死亡日から2週間でwebsite上に公開されている。本迅速把握システムは毎シーズン12月~3月までの事業であり, 4月~11月のデータは欠損している。また, 実際には報告遅れが生じるために, 実施期間中の実際の死亡者数や超過死亡者数も変動することに留意が必要である。 

  インフルエンザ超過死亡が疑われる際に迅速な対応をすることが主目的であり、正確性に欠けることを最初から明示している。さらに言うと、4月以降(今年で言うと第15週以降)のデータはいくら待っても出てこない仕組みとなっている。

 一方、全国における超過死亡の推定は、 総死亡(死亡理由を問わない)を用いており、死亡から50日後に厚生労働省統計情報部から公表される速報値に基づいて推定され公表されている。インフルエンザ関連死亡迅速把握システム内のシーズン毎の超過死亡数にあるのが全国データである。

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 前回エントリー1998/99シーズンにおけるインフルエンザ超過死亡 - リハ医の独白にも記載したが、2011年に起こった東日本大震災でも超過死亡が生じているが、本図では反映されていない。詳細は記載されていないが、インフルエンザ超過死亡推測をすることがあくまでも目的であるため、大量に発生した不慮の事故死を補正したうえで算出された数値と思われる。

 いずれにせよ、インフルエンザ超過死亡予測を目的としたシステムであり、他疾患に基づく超過死亡があったとしても補正されてしまう仕組みとなっている。このことを考慮すると、本システムの目的外使用は控えることが妥当である。では、他疾患の超過死亡を推定するためにどうしたら良いのか。

 

 最初に紹介した国際比較に使える唯一の指標「超過死亡」で明らかになる実態では、ファイナンシャル・タイムズが、3月と4月の総死亡数(あらゆる死因)を2015~2019年の同時期の平均と比べたと紹介している。本来なら統計学的な処理をした手法が望ましいが、同様の手法が超過死亡を推定するうえで簡便である。

 死亡数報告は、人口動態調査 結果の概要|厚生労働省にある人口動態統計速報が最も速い。最新データは、人口動態統計速報(令和2年2月分)|厚生労働省である。約50日後の公表となるため、3月分が5月下旬、4月分が6月下旬に明らかになる。ちなみに、令和2年2月分の死亡数は前年度を下回っており、超過死亡は生じていない。

 なお、死亡率(人口千対)は毎年0.2ずつ上がっていることに留意する必要がある。東日本大震災時には、死亡率(人口千対)は男性で10.3→10.7、女性で8.7→9.2とさらに上昇している。このことを考慮すると、毎月の死亡数が概ね11万人だとすると、前年度と比し月あたり500〜600人以上増えていれば、東日本大震災時なみの超過死亡が生じている可能性がある。ただし、少なくない変動が月ごとにあり、単月のみでの断定は避けることが適当である。

 

 ちなみに、余談になるが、人口動態統計速報(令和2年2月分)|厚生労働省をみると、2月の婚姻件数が45 499件から74 147件への63.0%も増えている。同様の異常な増加は令和元年5月にあったが、こちらは改元婚として説明可能である。今年2月の婚姻数増加は、不安な世情を反映したコロナ婚と呼べる現象なのかもしれない。

 

<追記> 2020年5月24日

 感染症疫学センターより、5月24日付けで下記Q&Aが出されており、「本事業で新型コロナウイルス感染症による超過死亡への影響を評価することはできません。」と明確に表明されている。

 

Q.  2019-2020年シーズンは東京で超過死亡が発生しているように見えます。

A. このシステムでは、東京では過去3シーズンにわたって超過死亡を認めています。2019-2020年シーズンも東京で超過死亡が観察されていますが、「実際の死亡数」は過去3シーズン並みか、やや低い傾向にあります(図)。

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Q.このシステムで新型コロナウイルス感染症の影響を評価することはできますか?

A.新型コロナウイルス感染症の流行により、超過死亡が発生する可能性はあります。しかし本事業は毎年冬に流行するインフルエンザを想定して長年にわたって運用されているシステムです。本事業で新型コロナウイルス感染症による超過死亡への影響を評価することはできません。