新型インフルエンザ「仙台方式」発案者、岩崎恵美子氏の発言

 朝日新聞、「オピニオン 耕論 新型インフルエンザ どう受け止めるか」に仙台市副市長(危機担当)岩崎恵美子氏の発言が載っている。内容をまとめ、書き留める。なお、中見出は文章の内容を考え、私がつけたものである。

 予防法を知り、過剰に恐れるな


# 今回の事態の検証
 市町村としては、たとえ国の方針でも、市民や医療の現場が混乱するような過剰な対応は受け入れがたい。専念すべきことは、予防と拡大防止、そして治療。今回の事態ではどうだったか。

  • 発熱外来: 新型インフルかわからない患者まで殺到し、混乱する。神戸や大阪で、計画には無理があると実証された。
  • 新型と確定するための遺伝子検査: 最初の1、2例で確認したら、その後は必要ない。治療と拡大防止が先決。エボラ出血熱などのような重感染症なら別だが、インフルの感染者を数えることに意味があるのだろうか。
  • 感染源をたどる調査: 仙台の港周辺の小学校では、日本で流行していない型のインフルが何度かはやった。調べると数日前に入港した外国船の船員が町中で買い物をしていた。こうした感染は常にあり、すべて追跡することは不可能だ。
  • 検疫による水際対策: 限界があることが明らかになった。ウイルスは人に感染して生きる。封じ込めるには世界中の人の動きを止めるしかなく、欧米ではほとんど重視されない。
  • 休校: 発症者がいない学校まで広げるのはやりすぎだと感じた。


# 「仙台方式」の採用
 仙台市では2年前から、独自対策を検討した。特別の病院ではなく地域の診療所が新型インフルを診る「仙台方式」だ。強毒性も弱毒性も治療は季節性インフルと変わらない。

  • 軽症者は抗ウイルス薬タミフルの飲んで自宅で休んでもらう。
  • 重症者は、特定機関に入院させ、治療をする。

 医師会は当初、医師らの感染などを難色を示した。冷静に判断してもらえるよう講演会を開き、議論を重ね、理解を求めた。その結果、約300施設が受け入れに手を挙げてくれた。
 いずれ日本でも患者が出るのは確実と予測し、「仙台方式」を淡々と進めることを確認した。


# 予防法を知る
 私は50歳を過ぎて途上国の感染症治療に転じ、タイやインドなどで約5年間、活動した。途上国では、感染症は今も人の命を奪う主要な病気だ。排便後に手を洗う習慣がなく、その手で顔を触ったり食事をしたり。人の行動によって死亡率は変わる。予防法を知れば、助かる命だってある。

  • 手洗いを習慣化。
  • 症状があれば診察を受け、薬で治す。
  • 学校や会社を休んで感染を広げない。

 簡単なことを繰り返し言い続ける。通常のインフル対策をきちんとやれば、そう恐れることもないし、それしかない。
 行政や医療関係者、市民が備えることは感染症を知ること。簡単な予防を徹底すれば、冷静に対処できる。


 インフルエンザは感染性が高い疾患である。人畜共通感染症であり、根絶は困難である。また、人間の行動とともに拡大する。地球規模の拡大は不可避である。
 国が決めた新型インフルエンザ対策をあらためて振り返ってみると、SARSエボラ出血熱などのように強毒性だが感染性が比較的低い感染症を想定したものとなっている。その結果、検疫などの対策ひとつひとつが市民の不安をかきたて、初期の感染者に対してバッシングが生じるという事態を引き起こした。そして、当初の目標だった封じ込めは明らかな失敗に終わった。
 現在、南米やオーストラリアなど南半球諸国で新型インフルエンザ感染者の急増が確認されている。秋以降に予想される第2波、第3波の新型インフルエンザ感染者増に対するためには、戦う相手の特徴を知るところから始めなければならない。過度に恐れず、かといって侮ることもせず、当たり前の対策を着実に行うことが最も大事である。