1998/99シーズンにおけるインフルエンザ超過死亡

 出生や死亡など重要な統計情報を調べる際には、人口動態調査 結果の概要|厚生労働省を必ず確認するようにしている。平成30年我が国の人口動態(平成28年までの動向)[1,522KB] には、人口動態の主な内容がグラフ化されており、資料を作る時に役立つ。

 1899年から2016年にかけての死亡数及び死亡率の年次推移は下図のようになっている。

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 左上に、1998年から1920年にかけてのインフルエンザ流行による超過死亡が図示されている。1923年に起こった関東大震災を比べても、疫病による人的損失が大きかったことが一目瞭然である。

 第二次世界大戦後、死亡数・死亡率とも急速に低下したが、最近は人口の高齢化に伴い、両者とも一貫して増大傾向にある。その中でも、時々突出して死亡数が多い年がある。1995年は阪神・淡路大震災、2011年は東日本大震災と注釈がついているが、1999年には何の説明もない。

 本当にこれらの年で死亡率が高かったかどうか、まず年齢調整死亡率で確かめてみた。人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡 年次 2018年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口の、5-2 年次別にみた性別死亡率及び年齢調整死亡率(人口千対)にある資料をもとに、1989年から2018年までの性別年齢調整死亡率をグラフ化すると以下のようになる。

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 男性では明らかに、1995年、1999年、2011年に年齢調整死亡率が増大している。女性では、2011年は明らかだが、1995年と1999年は前年と同値である。ただし、長期低落傾向にある年齢調整死亡率のトレンドを見ると男性と同様の傾向があると判断して良さそうである。

 では、1999年に何が起こったのか。答は、インフルエンザによる超過死亡である。国立感染症研究所2018/19シーズンにおける超過死亡の評価に次の記載がある。

 1987年から2018/19シーズンまでの総死亡者数, ベースライン, 閾値の動きが一般公開されている(http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/a/flu.html)。(中略)シーズン中に一度も総死亡者数が閾値を上回らなければ超過死亡者数は0となる。これによると1998/99シーズンで超過死亡者数は35,000人を超えているが2004/05シーズン以降1万人を超えることはなかった。2018/19シーズンは3,276人であり, 直近5シーズンでは3番目と特別に大きな超過死亡が発生したわけではなかった。 

 

 インフルエンザ関連死亡迅速把握システム内のシーズン毎の超過死亡数にわかりやすい図がある。1994/95シーズンから2004/05シーズにかけて超過死亡が多く、その後に低下していることが示されている。

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 この間の事情については、逢見憲一らが日本公衆衛生誌に出した論文わが国における第二次世界大戦後のインフルエンザによる超過死亡の推定 パンデミックおよび予防接種制度との関連に詳しく記載されている。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/58/10/58_867/_pdf

 学童へのインフルエンザ集団予防接種への批判を受け、任意接種になった時期(1994-95年〜2000-01年)に年齢調整死亡率は増加した。特に65歳以上の高齢者に死亡率上昇が顕著だった。その後、予防接種法改正により高齢者へ予防接種が行われるようになった時期に65歳以上の高齢者の超過死亡率は低下している。

 1998/99シーズンには、高齢者施設でのインフルエンザ集団感染が問題となったことをおぼろげながら覚えている。しかし、この時の超過死亡数が35,000人超にもなったということを知り、あらためて衝撃的を受けている。インフルエンザは、現代社会における最も身近な疫病である。ワクチン接種だけでなく、手洗いなど標準予防策の徹底が必要である。このことを医療関係者だけでなく、社会全体で推進していくことの重要性を確認していかなければならない。

 

<追記>

 医学史という視点からまとめられた下記サイトも参考になる。