改正道路交通法で医師の診断書を求められる高齢運転者のほとんどは認知症のおそれありとして対応が必要
2017年3月12日、改正道路交通法が施行された(下記警察庁のパンフレット参照)。
各種有識者会議等|警察庁Webサイト内に、高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議の資料がある。第1回会議(2017年1月16日)の資料7 改正道路交通法施行後の医師の診断を受ける者、講習受講者等の推計(下図)を見ると、これまでの制度では医師の診断を受けた者が約4,000人だったのが、新制度では約5万人と大幅に増加する。このうち約1.5万人が免許取消しの対象となると推定されている。
認知機能検査にて第1分類(認知症のおそれがある)になった高齢運転者に対し診断書提出が義務づけられたことを受け、日本医師会は、かかりつけ医向け認知症高齢者の運転免許更新に関する診断書作成の手引きについて|診療支援|診療支援|医師のみなさまへ|日本医師会にて、「かかりつけ医向け認知症高齢者の運転免許更新に関する診断書作成の手引き」を公表した。本手引きの4ページ、「図1 かかりつけ医による診断書作成フローチャート」に次のような記載がある。
運転免許センターにおける認知機能検査において第1分類に判定された人は、 *CDR1以上の認知症が強く疑われるレベルに該当しますので、医療機関受診時に行った認知機能検査(HDS-R、MMSE)が20点以下であれば、認知症の可能性が高いと考えられます。
*CDR: Clinical Dementia Rating(米国CERAD: Consortium to Establish a Registry of Alzheimer's Disease 作成の認知症重症度の評価尺度で、0.5:認知症疑い、1:軽度認知症、2:中等度認知症、3;重度認知症 )
警察庁のホームページ内に、認知機能検査の実施要領について(平成28年9月30日) がある。総合点の算出と結果の判定は、次のとおりとなっている。
3 総合点の算出と結果の判定
(1)総合点の算出
総合点は、時間の見当識、手がかり再生及び時計描画の3つの検査の点を、次の計算式に代入して算出する。
算出した総合点は、少数点以下を切り捨て、整数で表記するものとする。
(計算式)
総合点=1.15×A+1.94×B+2.97×C
A 時間の見当識の点
B 手がかり再生の点
C 時計描画の点
(2))総合点と結果の判定
総合点によって、記憶力・判断力が低くなっている者(第1分類)、記憶力・判断力が少し低くなっている者(第2分類)又は記憶力・判断力に心配のない者(第3分類)に判定する。
ア 記憶力・判断力が低くなっている者(第1分類)
総合点が49点未満
イ 記憶力・判断力が少し低くなっている者(第2分類)
総合点が49点以上76点未満
ウ 記憶力・判断力に心配のない者(第3分類)
総合点が76点以上
運転免許|警察庁Webサイト内に、認知機能検査の点数配分の元になった研究、平成23年度警察庁委託調査研究報告書/講習予備検査等の検証改善と高齢運転者の安全運転継続のための実験の実施に関する調査研究 (II)がある。
本研究は、以下の2つのカットオフポイントを設定するために行われた。
- カットオフポイントA(第3分類と第2分類を区分する総合得点)
- CDR0 ができる限り第3分類に分類されるという正分類予測率が大きい
- CDR1及びCDR0.5ができる限り第3分類に分類される誤分類予測率が小さい
- カットオフポイントB(第2分類と第1分類を区分する総合得点)
- CDR1が第1分類に分類される、正分類予測率が大きい
- CDR0.5 及び CDR0が第1分類に分類される誤分類予測率が小さい
様々な案を検討した結果、カットオフポイントAは-2.7、カットオフポイントBは0と設定された(下表、下図参照)。なお、受検者に分かりやすい点数となるよう計算式を0点から 100 点にすることを検討した結果、総合点=1.15×A+1.94×B+2.97×Cという計算式と、カットオフポイント76点、49点が導き出されている。
図を見る限り、CDR1とCDR0の判別能力は高い。表を見ると、CDR1が第1分類となる正分類率予測率は83.5%と高くなっている。一方、第1分類になる誤分類予測率はCDR0.5で21.1%、CDR0で0.4%であり、CDR0が第1分類となる確率はきわめて低い。
以上をまとめると、認知機能検査にて第1分類と判断され医師診断書が求められる高齢運転者のほとんどは、CDR1か0.5だと判断できる。短い診察時間だけでは認知症でないと診断することは難しい。また、HDS-RやMMSEのような認知機能スクリーニング検査がカットオフポイントを上回ったからというだけで運転可と判断することにも問題がある。本来なら、認知症疾患医療センターで判断すべき課題だが、全国でわずか336ヶ所(2016年12月28日現在)しかなく、急激な紹介患者増への対応は困難である。運転免許診断書問題をきっかけに、非認知症専門医でも認知症に対し真剣に取り組まなければいけない時代となっていると腹をくくり、対応を考える必要がある。