一側性脳血管障害の6ヶ月後嚥下障害残存率は0.2%

 嚥下障害に関する歴史的文献、Barer DH:The natural history and functional consequences of dysphagia after hemispheric stroke. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1989 February; 52(2): 236–241.を久しぶりに読み直した。

Data from 357 conscious stroke patients taking part in an acute intervention trial and assessed within 48 hours of the onset of symptoms, were used to investigate the prevalence and natural history of swallowing problems. Nearly 30% of patients with single-hemisphere strokes were initially found to have difficulty swallowing a mouthful of water, but in most of those who survived, the deficit had resolved by the end of the first week. Strong correlations were found between dysphagia and speech impairment (comprehension and expression) and with facial weakness, but there was no association with the side of the stroke. After controlling for other markers of overall stroke severity such as conscious level, urinary continence, white blood cell count and strength in the affected limbs, swallowing impairment still showed a significant inverse correlation with functional ability at 1 and 6 months. These results indicate that, even if dysphagia itself is not responsible for much excess mortality in acute stroke, it might still lead to complications which hamper functional recovery.


 本研究は、a trial of beta blockers in acute stroke (the BEST Study)のデータを用いて行われた。次の条件を満たしたものを対象者とした。

  1. 発症が48時間以内の一側性脳血管障害である
  2. 意識があり経口薬服薬が可能である
  3. 脳血管障害発症以前に重大な身体および精神障害がない
  4. 突然の深刻な脳循環低下をきたす心筋梗塞やその他の疾患をおこしたことが明らかではない
  5. β遮断薬の禁忌(徐脈、心ブロック、低血圧、心不全、喘息など)がない

 嚥下障害の有無は、10ml水飲みテストで行われた。正常(grade 1)、障害あり(grade 2)、経口不能の重度障害あり(grade 3)の3段階に分けられた。

 対象となったのは、357名である。Table 1、Table 2に示された結果を簡略にまとめたのが、下表である。


# 嚥下障害(grade 2、3)の頻度

発症からの時間 嚥下障害者数 総数 嚥下障害の割合
48時間以内  105  357  29%
1週間後  48  309  16%
1ヶ月後  6  277  2%
6ヶ月後  1  248  0.2%


# 生存患者の嚥下障害改善状況(1gradeでも改善した場合)

発症からの時間 改善者数 前回評価時の嚥下障害者数 改善率
1週間後  47  81  58%
1ヶ月後  20  25  80%
6ヶ月後  4  4  100%


 簡単にまとめると、次のとおりになる。


 発症時意識障害が比較的軽度なら、一側性脳血管障害患者の生存者は1ヶ月以内に嚥下障害がほぼ改善し、6ヶ月後まで残っているのはわずかである。


 実は、本研究の結果を勘違いして覚えていた。対象が服薬可能な意識障害軽度者となっていることに気づかず、全ての一側性大脳病変患者に適応されるものだと思っていた。両側基底核の多発性病変による仮性球麻痺では経口摂取不可能にとどまることは多いが、一側性大脳病変で急性期を乗り切った場合には、最終的にほぼ全例経口摂取可能になると誤解していた。
 考えてみると、一側大脳病変でも意識障害が遷延化している例は、当院でも経口摂取再獲得の対象としていない。Barerの研究は、最重度の患者には適応してはいけないことに気づかされた。
 ただし、たとえ発症時意識障害が重度であったとしても、一側性大脳病変だったら嚥下障害の予後は良好であるという感触は持っている。つい先日も、左内頸動脈完全閉塞で後頭葉を除いた左大脳半球広範囲損傷者のリハビリテーションを行った。前医でも回復期リハビリテーション病棟に入り、リハビリテーションを施行されていたが、はなから経口摂取不可能と判断され、経鼻経管栄養の状態で発症後4ヶ月目に当院に入院した。しかし、湿性咳漱がなく、喀痰吸引もほとんどしていないことを考え、これは経口摂取可能だろうと推測した。嚥下造影による嚥下機能評価も行い、嚥下訓練を慎重に行い、無事に経管栄養から離脱できた。
 同じような例が数多くある。当院では、重度嚥下障害者の転院受入れの際に、初発例なのか再発例なのかを必ず確認する。また、画像所見で一側性なのか両側性なのかをチェックする。条件にあう場合には、重症者の場合でも断らないようにしている。
 臨床的な勘を裏づけるためには、発症早期に重度意識障害がある一側性脳血管障害患者の嚥下障害予後について、あらためて調べ直す必要がある。宿題がひとつできてしまった。