延命行為の中止に関する救命医療現場の苦悩
救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン)についてにおいて、「救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン)」が公表されている。救命医療の現場では、延命行為の中止に関し、様々な意見があることが記載されている。
2.終末期状態における延命措置への対応の現状
重症の救急患者を治療する経過の中で、医師はある時点から死を予測できるが、現状では『救命現場での延命措置の中止基準』がないため、延命措置を中止するかどうかの対応は一定しない。医師の中にも「救命不可能であれば、延命措置を中止する」考えから「治療が無意味とわかっていても永遠に続くわけではないから、現状を維持する」とか「救命は不可能とわかっていても延命措置は絶対に中止できない」とする考えまで、大きなひらきがある。
医療者のみの判断によれば患者の自己決定権や家族らの希望と対立する可能性がある。医療をうける側も、『尊厳をもって死を迎えるため無意味な延命は希望しない』という意見、『医師が意図をもって死期を早めることは、そもそも「医の倫理」に反する』という意見、『死は医師が操作するものではなく、また家族が決めるものでもなく自然な死期をむかえさせるべき』という意見がある。いずれにも正当な部分があり、何が適切かの判断は難しい。『死期を早めることが日常化すれば、いずれは弱者切り捨てにつながるのではないか』といった懸念の表明もある。
われわれ救急医療に携わる医師は死に直面する患者の尊厳を最大限尊重し、家族らの心情にも十分配慮すべきである。しかしながら、中止の方法やタイミングが家族らの希望と一致しなかった場合、医療への不満や不信を招き、医事紛争の火種になりかねず、医師や病院が信頼を失う恐れがある。安易な判断で延命措置を中止すれば、治療の余地があったのに最善を尽くさなかったと追求を受ける恐れもある。またたとえ医学的には妥当な延命措置の中止であっても、ケースによっては遺産相続問題などへ影響する恐れもある。
救命医療現場の苦悩が伝わってくる。延命治療の中止に関わった医師が殺人罪で訴えられることも実際起こっている。延命治療の中止に関してはケースに応じて個別的に対応するしかない。
当事者が真剣に議論していることをふまえず、安易に重症者の治療中止を主張する意見がネット上に散見される。特に、「医療費が無駄に使われている」などといった経済的事由だけをもとに医療行為の差し控え・中止を当然とする訴えを目にするたび、医師としてやりきれない思いが生じてくる。