J1大宮のサッカー選手、骨肉腫との闘いを始める

 http://www.jsgoal.jp/news/jsgoal/00097259.htmlで、J1で活躍しているサッカー選手が右大腿骨骨肉腫になったことを知った。


 大学病院にいた頃、骨肉腫患者のリハビリテーションを行った経験がある。化学療法の進歩とともに、切断術に比べ患肢温存療法が選択されるようになり始めた時代である。
 骨肉腫治療時のリハビリテーションには、次のような特徴がある。
 まず、骨肉腫の進行度により、術後の機能障害が大きく異なることである。患肢温存療法の時、骨ばかりでなく、筋肉や靭帯などの軟部組織もあわせて切除する。摘出範囲が広範囲であれば、下肢の支持性が失われ、装具が必要となる。見栄えや最終的な歩行獲得能力からみてむしろ義足の方が上回ることさえある。
 次に、化学療法や放射線療法の副作用のために十分な訓練量を確保できないことがある。回復が順調な外傷後のリハビリテーションとは全く異なる。
 精神的ケアの問題も大きい。平均発症年齢が20歳前後と若い。下肢を失ったり機能が損なわれたりすることに対する喪失感に配慮しなければならない。以前と比べ格段の生存率が上がっているが、病期によっては不帰の転帰をたどることもある。


 塚本泰史選手の病状について、チームドクターが詳しく解説している。悪性度の低いタイプで限局しているが、人工関節置換術は必要という診断である。おそらく、生命予後は良好であり、日常生活にも支障がないレベルに戻ると予測する。ただし、トップレベルのサッカー選手として活躍することは、明らかに困難である。手術や化学療法、リハビリテーションも辛いが、サッカー選手としての寿命が絶たれることが最も辛いことであることは想像に難くない。
 しかし、喪失から立ち直る過程を通じ、多くの人に生きることの尊さを教えた音楽家やスポーツ選手のことを私たちは知っている。右手を失ったピアニスト、パウルウィトゲンシュタインに対し、ラヴェルは「左手のためのピアノ協奏曲」を送った。羽中田昌は、脊髄損傷で車椅子生活になりながら、サッカーのS級ライセンスをとった。*1
 塚本泰史選手の骨肉腫との闘いは始まったばかりである。彼をクラブやサポーターたちが支える。同時に、彼の闘病を通じて、同じ病気の方々が励まされる。塚本泰史選手の健闘を祈る。