患者が分かりづらい医師の言葉100

 最初は、いらぬお世話だと思った。わかりますか「予後6カ月」 医師の言葉にメスより。

わかりますか「予後6カ月」 医師の言葉にメス
2008年7月7日21時39分


 「予後(よご)は6カ月です」「腫瘍(しゅよう)マーカーが下がったので、化学療法が効いている」。医師に説明された言葉を、あなたは、どこまで理解できますか。国立国語研究所(東京都立川市)が、患者が分かりづらい医師の言葉100語を選んだ。来春までに、言い換えや分かりやすく伝えるための指針をまとめる。


 理解しづらい医学の専門用語に選ばれたのは、予後のほか、QOL(生活の質)、寛解(かんかい)、合併症、浸潤(しんじゅん)など。

 悪性腫瘍、悪性リンパ腫イレウスインスリン、院内感染、インフォームドコンセント、インフルエンザウイルス、鬱血、鬱病、壊死、エビデンス、炎症、黄疸
 介護老人保健施設ガイドライン、潰瘍、化学療法、かかりつけ医、合併症、カテーテル川崎病、癌、寛解、肝硬変、間質性肺炎、緩和、ケア、既往歴、狭窄、狭心症、虚血性心疾患、クオリティーオブライフ、クリニカルパスグループホーム、ケアプラン、血栓、血糖、抗癌剤膠原病、抗生剤、抗体、誤嚥コンプライアンス
 集学的治療、重篤、腫瘍、腫瘍マーカー、ショック、自律神経失調症心筋梗塞、浸潤、振戦、腎不全、髄膜炎ステロイド、生検、セカンドオピニオン、喘息、譫妄、塞栓、尊厳死
 ターミナルケア、対症療法、耐性、治験、統合失調症、糖尿病、動脈硬化、頓服
 肉腫、熱中症ネフローゼ症候群脳死ノロウイルス
 敗血症、肺水腫、白血病日和見感染、貧血、副作用、プライマリーケア、ホスピス、ポリープ
 慢性腎不全、メタボリックシンドローム、免疫
 予後
 リスク、臨床試験、レシピエント
 ADL、COPD、CT、DIC、EBMHbA1cMRIMRSA、PET、QOL


 国語研が行った市民アンケートで、医療・福祉分野の言い換えの要望が高かった。これを受け、昨秋、杉戸清樹所長を委員長に、医師やコミュニケーション学の研究者ら24人で「病院の言葉」委員会を設置。「よく使われるのに、患者が分かりづらい」100語を選んだ。


 これらの言葉について、診療上の重要度や患者らの理解の難しさ、実際の使われ方を、医師3千人、看護師・薬剤師1280人に尋ねた。


 それぞれ650人、995人からの回答を分析すると、「必要度が高いのに、とても難しい」とされた言葉に「HbA1c」「予後」「ステロイド」などが浮かんだ。ただ、言い換えや説明なしで使っている医師は、この3語で6%、10%、23%いた。


 委員会は、患者・家族に説明する際、「どんな用語が理解してもらうのに難しいと感じたのか」も、内科、外科、産婦人科、小児科の医師300人に尋ねた。その結果、様々な混乱が起きていることが分かった。


 たとえば、白血病などで症状が一時的または継続的に消えた状態を示す寛解を、治ったととらえられた▽治療することで起こりうる合併症をミスと思われたーー。


 こうした状況に、委員の稲葉一人・中京大法科大学院教授は「専門用語の言い換えの問題ではなく、インフォームド・コンセント(十分な説明と同意)自体が問われている」と指摘。委員会は、分かりやすく伝えるための具体的な工夫を提案する。100語はホームページ(http://www.kokken.go.jp/)に掲載しており、今後の検討内容なども公開していく。


 田中牧郎・国語研言語問題グループ長は「患者が、なじみのない医学用語を理解するのは難しい。専門家が分かりやすく伝える工夫をする必要がある。その手引きにしたい」と話す。(小西宏)


 独立行政法人国立国語研究所は、外来語の言い換えの研究も行っている。例えば、トラウマ=心の傷、心的外傷などの言い換え語を提案している。しかし、ストレス=憂さ、アレルギー=過剰抗疫となると、かえって理解が困難にはならないかと心配になる。インフルエンザ=流行性感冒となると、感冒=かぜ症候群という誤解をうみ、インフルエンザの危険性が伝わらない。
 今回も、医学専門用語を無理に別の言葉に置き換えるのでは、かえって混乱を生むのではないかという危惧を感じた。しかし、「分かりやすく伝えるための具体的な工夫を提案する。」という記載をみる限り、説明の仕方に関する手引きを作る方向のようだ。無理な言い換え語が提案されることがないと信じたい。