寝たきり患者における「介護骨折」

 介護動作に伴って生じる骨折に関する文献、寝たきり患者における「介護骨折」 | 研究者情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンターを読んだ。興味深い内容だったので、重要だと思う部分を紹介する。

  • 従来、介護動作にて生じる骨折は「おむつ骨折」と表現されてきた。しかし、おむつ交換以外の介護動作でも骨折をきたすことがあることに加え、受傷機転が明らかでない骨折も認めた。そのため、介護者による日常生活動作の結果生じた骨折、もしくは、外傷なく疼痛・腫脹・皮下出血・変形などで気づかれる骨折を介護骨折と定義した。なお、海外では、spontaneous insufficient fractures of long bonesなどと定義されている。
  • 当院(市立秋田総合病院)で経験した介護骨折は12例14骨折であり、発生頻度は、大腿骨2.3%(8/350例)、上腕骨5.3%(3/57例)、脛骨3.4%(1/29例)だった。全例、全介助状態であり、12例中10例は施設での発生だった。平均年齢は85.9歳で、脳性麻痺の男性以外は全て女性だった。気づかれずに受診しない症例の存在も否定できず、発生頻度は増加する可能性がある。なお、大腿骨頚部骨折の発生頻度および受傷状況に関する全国調査をみると、全症例155,215例中おむつ骨折は272例(0.25%)だったが、この調査は大腿骨近位部骨折に限ったものである。
  • 臥床生活の継続に支障がなければ、保存療法も選択肢の一つになる。ただし、骨折部断端の突出があり、皮膚を穿破する可能性がある場合には、整復固定術を選択した方が良い。
  • 骨粗鬆症治療薬として、bisphosphonateなどがあるが、内服後の体位(臥床不可)の問題があり、寝たきり患者への適応は難しかった。最近、bisphosphonateの点滴製剤も登場し、寝たきり患者に対しても処方が容易となっている。介護骨折を予防するためにも適応を拡大すべきである。


 介護骨折は、寝たきり患者の多い施設や病院でその発生に注意を払う必要がある。愛護的に患者に接することが必要だが、明らかな外傷機転がなくても生じるため、対策は困難である。骨脆弱性があると推測される高齢の女性寝たきり患者の場合、些細なことで骨折を起こす危険性があることを事前に説明しておくことが、リスク管理上求められる。
 点滴で使用可能なbisphosphonate製剤に言及されているが、悪性腫瘍による高カルシウム血症、(固形癌骨転移、多発性骨髄腫)の骨病変といったものが適応である。薬価も著しく高い。予防策としては現実性には乏しい。
 拘縮が悪化していると、過大な外力をかけがちになる。ちょっと油断すると介護骨折を生じてしまう。それでなくても、介護者に負担をしいる関節可動域制限は容易に生じる。予後不良と思われる重症患者においても、急性期から維持期まで適切なリハビリテーションを継続することが基本である。しかし、疾患別リハビリテーション料算定日数上限問題があり、一定期間を過ぎるとリハビリテーションを継続しにくいシステムに現在はなっている。頭の痛い問題である。