ベッド柵で首挟み死亡、理学療法士を書類送検へ

 読売新聞、ベッド柵で首挟み死亡、理学療法士を書類送検へより。

ベッド柵で首挟み死亡、理学療法士書類送検へ…滋賀


 滋賀県東近江市の病院で2004年11月、入院中の女性(当時71歳)がリクライニングベッドの転落防止用の柵の間に首を挟まれ死亡した事故で、滋賀県警は、担当の男性理学療法士が注意義務を怠ったとして、業務上過失致死の疑いで書類送検する方針を固めた。


 同県竜王町小口、無職礒田輝子さんは同年9月、脳梗塞(こうそく)などで蒲生町国民健康保険蒲生町病院(現・東近江市立蒲生病院)に入院し、左半身にマヒがあった。捜査関係者らによると、同11月2日午後4時45分ごろ、理学療法士が個室で礒田さんにリハビリ指導後、傾けたベッドに座らせたまま病室を離れた。


 約1時間10分後、礒田さんが、ベッド脇にある柵(高さ約25センチ)のすき間に首を挟まれ、意識不明になっているのを准看護師が発見したが、翌日、死亡した。


 県警は、礒田さんが傾斜のあるベッド上で体が傾いたはずみで、柵のすき間に挟まった可能性があるとみており、理学療法士が病室を出る前にベッドを平らにするなどの注意義務を怠ったことが事故につながった、と判断した。


 遺族は05年12月、町(現・東近江市)に計2800万円の損害賠償を求める訴訟を大津地裁に起こし、現在係争中。


(2008年6月20日 読売新聞)


 医療事故関係者が書類送検されたという報道が目につく。今回は、理学療法士が責任者と判断された。本来、「誰が」その事故に関わったかより、「なぜ」起きたのか、「どうしたら」重大事故を予防できるのかに、エネルギーを注がなければならない。しかし、医療事故が起きるたびに、個人責任が追及される。最近は、看護師などが対象となる事例が増えている。コメディカルスタッフは、医師の指示に基づいて医療行為を行っている。もし、どうしても責任者を断罪したいのなら、病院全体の責任者である院長を告発すべきである。


 ベッド柵にはさまれる事故が他にも報告されている。中国新聞介護用ベッドの安全規格に不備 広島や出雲で事故相次ぐより。

介護用ベッドの安全規格に不備 広島や出雲で事故相次ぐ '08/3/25


 ▽報告義務付けで表面化


 介護用などのベッドに取り付けた柵や手すりが原因の事故が全国で相次いでいる。中国地方でも今年、広島市出雲市で計三件の死亡事故が起きた。いずれも高齢者だった。相次ぐ事故の背景には高齢化が急速に進む中、介護ベッドなどの安全性の規格が追いついていない現状がある。国も見直しに動きだした。(長久豪佑)


 一月、出雲市の病院に入院中の八十代女性が、転落防止用のサイドレール(柵)と木製ボードの六センチのすき間に首が挟まれて窒息死した。二月には広島市中区広島赤十字・原爆病院で入院患者の六十代男性が二本の柵の間の六センチのすき間に首を挟まれ亡くなった。


 同じく二月には出雲市内で、八十代女性が自宅の介護ベッドに取り付けられた乗降をしやすくする回転式アーム介助バーにパジャマを引っかけて窒息死する事故も起きた。


 ■07年に法改正


 経済産業省によると二〇〇七年五月以降、在宅用の介護ベッドの柵や手すりが原因の事故は全国で六件発生。出雲市を含む四件で高齢者が亡くなった。


 広島市と一月の出雲市のように病院のベッドで起きた事故は医療機関が任意で厚生労働省に報告しており、厚労省に統計はない。


 なぜ一年足らずの間に六件も起きたのか。ガス湯沸かし器事故が相次いだことなどを受け、〇七年五月に消費生活用製品安全法が改正された。ベッドメーカーにも重大製品事故を経産省に報告することが義務付けられた結果、初めて実態が明らかになった面がある。


 ■想定外が発生


 改正前は独立行政法人製品評価技術基盤機構(東京)がメーカーの任意の報告を集計していた。〇二〜〇七年でベッドの柵などによる死亡事故は三件だが「報告以外にも発生していると考えられ、最近、急激に増えたとは言えない」という。


 一般用も含めベッドの柵やボードとのすき間は〇五年に日本工業規格(JIS)で「六センチ以下あるいは二三・五センチ以上」と定められた。しかし、広島市出雲市の事故は、その規格内で起きた。


 医療用ベッドの構造に詳しい岡山県立大保健福祉学部の森将晏教授(福祉工学)は「安全のために定めた規格が想定していない事故が起きている。規格が製品に追いついていないのが実情で早期に改善する必要がある」と指摘する。経産省も「幅をより狭めることも含めて検討し、新たな規格を〇八年度中に設定したい」という。


 一方、比較的新しい製品である介助バーは形などについてJIS規格はなく、メーカーが独自の規定を設けている。業界団体「医療・介護ベッド安全普及協議会」(東京)は「安全のための規定が早急に必要だ。規格づくりをJISに働きかけたい」と話す。


 ■利用者が急増


 厚労省によると全国でレンタルされている介護ベッドは約五十一万床。二〇〇〇年度に始まった介護保険制度で大幅に増えた。また病院には医療用ベッドが約百六十万床(〇七年七月現在)ある。


 事故を受け、病院ではすき間にクッションや毛布を詰めるなどの対応を取るところも出ている。メーカーもすき間を埋めるカバーを配布したり、注意を呼びかけたりしている。


 ただ、病院には「すき間を広げれば転落事故につながり、狭めれば腕を挟む。全くなくせば身体拘束という問題が出てくる」(出雲市の病院)との戸惑いもある。医療・介護ベッド安全普及協議会は「高齢化でベッドを必要とする人は増えている。安全のため基礎実験を積み重ねていくしかない」としている。


 ベッド柵はさまれ事故は、医療安全システムの問題としてとらえるべき課題である。要介護高齢者の増加に伴い、報告事例が増えている。しかし、残念ながら、この種の事故を防ぐ決め手はない。


 ベッドをやめ、フトンに寝かせるという方法もある。しかし、その場合、介護者の負担はかなり重くなる。
 監視ができない場合にはベッドアップしないことを徹底する対策も考えられる。しかし、経管栄養の方は、栄養剤注入後、しばらくベッドアップせざるをえない。監視ができない場合にはベッドアップしないというルールができてしまえば、重度障害者の管理はできない。


 医療・ベッド安全普及協議会から、ベッド柵類でのはさまれについてのご注意(PDF)というパンフレットが出ている。内容をみると、一般的注意が中心であり、抜本的な対策とはなりえない。しかし、ここに記載されている一般的対策をとることが、いざベッド柵はさまれ事故に遭遇した時に免責事項になる可能性がある。
 リスクマネージャーを配置し、警鐘的事例に注目し、医療安全情報を絶えず収集する病院が増えている。医療の安全性確保には費用がかかる。低医療費政策の中で、医療機関が悲鳴をあげながら、対策をとらざるをえない時代になっている。