胃管誤留置事故はどこでも起きうる

msn産経ニュース兵庫県立西宮病院で医療ミス 栄養チューブを気管に誤挿入より。

兵庫県立西宮病院で医療ミス 栄養チューブを気管に誤挿入
2008.6.18 19:13


 兵庫県立西宮病院(同県西宮市)は18日、同市内の80代の女性患者の気管内に栄養補給用チューブを誤って挿入し、死亡させる医療ミスがあったと発表した。医療事故として県警西宮署に届け出ており、同署は業務上過失致死の疑いで、誤挿入した男性研修医(25)らから事情を聴いている。
 同病院によると、女性は今年2月に脳梗(こう)塞(そく)の治療のため入院。3月13日に手術を受けた後、鼻から食道を通じて胃に栄養補給用チューブ(直径2ミリ)を挿入したが、同15日午後1時ごろ、チューブが抜けているのに気づいた研修医が再挿入した後、翌16日に容体が急変した。
 レントゲン撮影で確認したところ、食道ではなく気管にチューブが挿入され、肺を突き破って栄養剤が注入されていたことが判明。女性は16日午前7時20分ごろ、心不全と呼吸不全を引き起こし死亡した。
 同病院の藤本高義院長は「今後はチューブ挿入時にレントゲン撮影を義務づけるよう病院内のマニュアルを改訂する」としている。


 胃管誤留置に伴う死亡事故は、毎年報道されている。この間、新聞記事となった事故は下記のとおりである。なお、分かる範囲で基礎疾患も記載した。

  • 2008年3月、兵庫県。80歳代、女性。脳梗塞。(今回の報道例)
  • 2007年8月、岡山県。70歳代、男性。胃術後。特養入所中。
  • 2007年8月、石川県。70歳代、男性。肝がん。
  • 2007年5月、岩手県。70歳代、男性。心臓手術後。
  • 2007年1月、徳島県。80歳代、女性。肺炎。
  • 2006年9月、新潟県。70歳代、女性。熱中症
  • 2005年5月、長野県。70歳代、男性。脳梗塞
  • 2005年4月、千葉県。70歳代、女性。
  • 2004年10月、三重県。50歳代、男性。頚椎損傷。
  • 2004年9月、宮城県。80歳代、女性。老人施設入所中。
  • 2004年8月、神奈川県。80歳代、男性。肺腫瘍、脳転移。
  • 2003年11月、愛媛県、70歳代、男性。脳梗塞後遺症。
  • 2002年12月、北海道。80歳代、男性。
  • 2002年10月、北海道。70歳代、女性。
  • 2002年3月、愛知県。80歳代、女性。
  • 2001年12月、東京都。
  • 2000年9月、岩手県。90歳代、女性。


 2006年9月14日には、共同通信から次のニュースが配信されている。

栄養チューブ事故2人死亡 04年以降、全国270病院


記事:共同通信社
提供:共同通信社
【2006年9月14日】


  全国の国立病院や大学病院など約270カ所を対象に医療事故の分析などを続けている財団法人「日本医療機能評価機構」は13日、胃や腸に栄養剤を送るチューブの取り扱いミスによる医療事故が2004年10月-今年6月の間、対象病院を含む約570医療施設で計29件あり、うち2人が死亡した、との集計結果を発表した。
 食事が困難な患者の場合、これまでは点滴による栄養補給が主だったが、近年は鼻からのどを通して胃に挿入する「経鼻チューブ」や、腹部から内視鏡で胃や小腸にチューブを挿入する方法が普及しており、在宅療養にも用いられている。
 事故原因別では、誤って気管や肺など「不適切な部位」に挿入したケースが29件中21件に上っており、同機構は「注射器で胃液を吸い上げたり、造影剤でエックス線撮影するなど、チューブの位置確認を徹底してほしい」としている。
 同機構によると、死亡したのは20代と70代の男性。20代の男性はもともと慢性呼吸不全の状態だったが、経鼻チューブを誤って気管に挿入した直後に脈拍が衰え、心肺停止となった。70代の男性は腸へのチューブに栄養剤を注入していたところ、嘔吐(おうと)物が肺に入り、死亡した。
 このほか新生児集中治療室(NICU)で新人看護師が1人でチューブを交換、誤って肺に入れたり、気管などへの誤挿入で気胸や腹膜炎を引き起こしたりした例もあった。


 「日本医療機能評価機構」では、20ヶ月に胃管誤留置事故が21件起こっている。少なくとも20歳代男性の例は誤留置に伴う死亡例である。
 新聞報道されるのは、死亡事故だけである。救命できた場合はマスコミをにぎわさない。死亡事故の20倍近く胃管誤留置があると仮定すると、全国で毎年数十例は同種事故が起こっている計算になる。
 重症患者の場合、胃管が気道内に入った場合でも、咳反射が生じない。経管栄養剤が注入されショック状態になって初めて症状がでることも少なくない。空気注入による心窩部での聴診や胃内容物の吸引という伝統的な胃内留置確認法では不十分である。欧米の論文を読むと、反応に乏しい患者の場合には胸部X線撮影での確認が推奨されている。
 問題は、X線撮影ができない在宅や特養での胃管交換である。チューブ交換時の危険性をご家族に事前に説明する必要がある。医療機関以外で管理をする場合には、胃瘻を造設した方が安全である。ただし、胃瘻交換時に腹腔内に誤挿入する事故が起こることもあり、100%安全なわけではない。