有料老人ホームの価格破壊

 新設される回復期リハビリテーション病棟入院料1の算定要件に、「他の保険医療機関への転院した者等を除く者の割合が6割以上であること」という事項がある。この要件の具体的な内容は、まだ明らかになっていない。しかし、有料老人ホームへの退院が自宅と同じように扱われることは、ほぼ確実である。以前、回復期リハビリテーション病棟と有料老人ホームというエントリーでも、同様の記述をした。
 しかし、有料老人ホームとなると費用負担の問題がどうしてもネックとなる。生活保護世帯など低所得者では入居できないという意識が医療者にも患者家族にもあった。


 朝日新聞に、生活保護でも入居可能 格安有料老人ホーム続々という記事が掲載された。

生活保護でも入居可能 格安有料老人ホーム続々
2008年02月09日


 「高値の花」だった有料老人ホームの価格破壊が起きている。1カ月の利用が10万円前後と生活保護の受給額で入れるホームが相次ぎ誕生。療養病床の削減が進む中、行き場のない高齢者の受け皿のひとつとなっているが、介護の専門家からは質を懸念する声も出ている。


 茨城県かすみがうら市の「ハートワン神立」。07年6月にできた介護付き有料老人ホームだ。認知症や体の不自由な高齢者約40人が暮らす。個室は19平方メートル。生活保護受給者の場合、入居金20万円、食費、家賃などの総額は月9万円だ。
 入居者は自宅や病院から出ざるを得なくなった人が多い。自宅で介護放棄状態だった認知症の88歳女性。ケースワーカーが気付き、生活保護を受けてここに来た。
 運営する建設会社によると、入居者の8割が保護受給者。茨城県内で同様のホームを三つ持つ。


 格安ホームが集中するのは北九州市周辺だ。ホームページで明らかにしているだけで30以上。その一つ若松区の「大正館」は3年前、建設会社がつくった。入居金12万円、月額8万8千円だ。
 国は社会保障費を抑えるため、長期入院が多い介護型療養病床(約11万床)の全廃を決定。自治体や病院はその受け皿づくりに悩む。大正館でも入居者の7割は行政からの依頼だ。
 いずれも職員数や居室の広さなど国の基準を満たす。通常のホームは入居時に数百万円必要だったり、最低でも月15万円かかったりするが、「格安」にできるのは、徹底した建設費と営業費の削減だ。建設会社が主体だと、業者の利益分が浮くため初期投資は通常の約7割。自治体が入居者を紹介するので、営業コストなしに満室を保てる。


 だが、介護保険財政の悪化で一昨年、有料老人ホームの規制が始まったため、最近増えたのが介助付きの格安賃貸住宅。介護職員は常駐せず、入居者は必要に応じて訪問介護や訪問診療を使う。
 訪問介護事業などを行うエールシステムズは昨秋、大阪府守口市京都市生活保護受給者向けの高齢者専用賃貸住宅を立ち上げた。月約11万円から。今年は3施設約300室を新築する。


 さいたま市NPO「全国福祉会」も、同様の住宅8棟(225室)を持つ。入居者の8割近くが生活保護を受ける。
 受給者なら、医療、介護費は保護費から出る。自己負担がないため、介護サービスを上限まで使うことが多い。ある経営者は「自社グループの事業者を使えば、住居費を下げても利益は出る」。


 これらの動きに対し、厚生労働省は「適切な運営をしているなら、低所得者にも対応したサービスは評価できる」。


 一方、介護職の人件費を考えると低価格を維持できるのか懸念も。立教大学の服部万里子教授(高齢者福祉論)は「障害が重くなっても最後まで見られるのか不安。運営に目を光らせるべき行政が、入居者を紹介している状態ではチェックは期待できない」と話す。


 ネットで有料老人ホームを調べてみると、比較サイトが次々とヒットする。今後の高齢社会をにらみ、ビジネスチャンスとばかり、様々な業種が参入している。


 退院先の有力な選択肢として、有料老人ホームのことを考えなければいけない時代が来ている。リハビリテーション専門職として、この問題にどのような対応をとるべきかを考えた。


# 患者紹介の適応
 トイレ歩行はできるが、入浴や外出が困難という程度の高齢者は少なくない。この程度のADL自立度で家族介護力がない場合が最も良い適応となる。
 今後、要介護度が低い方は、介護施設(特養、老健)に入所できない時代が来る。逆に、重度要介護者や医療処置が多い方の場合には、有料老人ホーム入居には慎重にならざるをえない。また、重度認知症者の場合も、グループホームと比較すると適応には問題がある。


# 地域ネットワークづくりの視点
 「コムスン事件」をみてもわかるとおり、一部の質の悪い事業所が囲い込みをはかることが危惧される。必ずしも営利事業者が悪いわけではない。地域で要介護車を支えるという介護保険制度の理念が生かされた場合、意欲ある様々な営利事業者とのネットワーク構築は容易である。しかし、介護保険とは違い、有料老人ホーム、特に規制対象外の賃貸住宅は行政の指導が不十分となる。悪化が良貨を駆逐することがないようにしなければならない。
 地域ネットワークづくりに有料老人ホームを巻き込む視点が重要となる。ケアカンファレンスや在宅ケア連絡会への参加を意識的に促していくことが求められる。退院前訪問の範囲を、自宅だけでなく有料老人ホームにも広げる、勉強会を定例化する、など様々な工夫をすべきだろう。


 質の高い回復期リハビリテーション病棟と、志のある有料老人ホームがタッグを組み、モデルケースのような地域連携を作ってみたいと夢を語りたい。
 しかし、現実的には逆の事態が危惧される。自宅退院率を上げたい回復期リハビリテーション病棟と空き部屋を減らしたい有料老人ホーム側が連携した場合、どのようなことが起こるのだろうか。十分なリハビリテーションが提供できない場合でも、診療報酬の規定では「質の高い」病棟と評価されることになる。リハビリテーション医療に対する信頼が地に落ちる可能性を否定できない。