「医療改革 危機から希望へ」

 全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会研究大会における二木立先生の講演「今後の医療制度改革とリハビリテーション医療」について、以前記載した。この講演でご紹介いただいた著書「医療改革 危機から希望へ」を読んでいるところである。

医療改革―危機から希望へ

医療改革―危機から希望へ


 第1章 世界の中の日本医療とよりよい医療制度をめざした改革、を読み終えたところで、NIKKEI NET配信で次のようなニュースが飛び込んできた。

社会保障費抑制「目標やめたい」・厚労相、予算の必要訴え


 舛添要一厚生労働相20日、都内の介護施設視察後の記者会見で「(社会保障費の)2200億円のマイナスシーリングをやめたいと思っている」と表明した。政府は歳出削減の一環として、社会保障費の増加を毎年2200億円抑制する目標を掲げている。厚労相の発言はこの見直しを求めたもので、波紋を広げそうだ。
 厚労相は産科や小児科の医師不足に関連して、女性医師が仕事と子育てを両立できるよう病院内に保育所を作るなど「いろんな施策を打っていく必要がある」と強調、予算確保の必要性を訴えた。
 政府は2007年度から11年度までの5年間で社会保障費の自然増を1兆1000億円圧縮する方針を決定。各年度ごとに2200億円の抑制が前提となっている。


 二木立先生の著書、「医療改革 危機から希望へ」の第1章第3節「敢えて『希望を語る』」より、「希望の芽」に関係する部分をいくつか引用する。

 第3の希望は、安倍政権が2007年に入って、2006年4月に小泉政権が強行した一連の医療・介護・福祉費抑制策の一部を見直したことです。


 ただし、これらの見直しは安倍首相自身がイニシアティブをとって行ったものではなく、小泉政権が強行した医療・福祉費抑制策があまりに過酷であったために、その被害者である患者や当事者がやむにやまれず立ち上がり、国民やマスコミの支持と共感を得て勝ち取った「運動の成果」です。


 ほんの数年前まで医療事故・医師告発一本槍だったマスコミが一転して医師不足を大々的に報道し始めたのは、現実に医師(勤務医)不足が深刻化して社会問題化しただけでなく、本田宏医師(済生会栗橋病院)や小松秀樹医師(虎の門病院)等、勇気ある医師が医師不足とそれによる「医療崩壊」の深刻な実態を現場から発信し続けたためだ、と思います。


 参議院選挙で自民党が惨敗し、参議院与野党逆転が実現した結果、この(「医学部定員の削減に取り組む」とした1997年の)閣議決定が10年ぶりに見直される可能性が出てきたと言えます。


 医療者は、「絶望しすぎず、希望を持ちすぎず」、医療費・医師数抑制政策の弊害とそれの転換を国民・マスコミに粘り強く訴え続けると共に、自己改革と制度の部分改革を積み重ねていく必要があると思います。迂遠なようにみえても、これが医療崩壊・医療荒廃を防ぐ唯一の道だと私は考えています。


 本書は2007年11月5日に発行された。
 医師「総数として不足」政府認めるで記載したように、政府は、閣議決定した後、「医師数は総数としても充足している状況にはないものと認識している」との答弁書を提示している。
 医療費・医師数抑制政策という政策の誤りを国は少しずつ認め、軌道修正しようとしている。二木立先生は、その兆しを感じとり、医療者としてどのような心構えで運動を進めるべきか、本書で指針を示そうとしている。