根拠なき疾患別リハビリテーション料「切り下げ」

 疾患別リハビリテーション料「切り下げ」の背景を再検討する。


 中央社会保険医療協議会総会平成20年2月13日資料の中の、資料(総-1)全体版PDFファイルのベージ数で25-27に概要が記載されている。

# 疾患別リハビリテーション料の逓減制の廃止等


第1 基本的な考え方
 平成19年4月の疾患別リハビリテーション料の一部見直しにより導入された逓減制や医学管理料について、患者の一部負担がリハビリテーションを受ける時期により異なってくるなど患者にとって分かりにくいとの指摘があることから見直しを行う。


第2 具体的内容
1 逓減制と医学管理料の廃止と脳血管疾患等リハビリテーション(III)の新設
(1)逓減制については、診療報酬点数表の簡素化を図るため、今回の見直しにより廃止する。また、適正な評価の観点から、脳血管疾患等リハビリテーション(III)を新設する。


 どこにも、疾患別リハビリテーション料「切り下げ」の文字はない。「逓減制については、診療報酬点数表の簡素化を図るため、今回の見直しにより廃止する。」という一文だけが理由として掲げられている。通常考えれば、逓減制を廃止すれば、以前の診療料に戻るはずである。しかし、今回の改定により、脳血管Iが6%減、心大血管Iで20%減、運動器Iと呼吸器Iは5.6%減となった。


 療法士1人が1日18単位、月20日間働くとする。仮に全ての患者が脳血管Iだとすると、これまでは月に2,500×18×20=900,000円の収入を疾患別リハビリテーション料だけで産み出していた。これが、846,000円まで目減りする。年間にすると、療法士1人あたり648,000円の減収である。療法士20人の施設だと1,296万円、100人で6,480万円も収入が減る。ここにADL加算廃止が加わる。療法士を多数抱え、熱心にリハビリテーション医療を行っている施設ほど経営的ダメージは大きい。


 疾患別リハビリテーション料は、リハビリテーション医療の原資である。日本医師会が強行に引き下げに抵抗した再診料と同じ性格のものである。これほど大幅な減額は、リハビリテーション医療関係者のモチベーションを確実に下げる。


 脳卒中治療ガイドライン2004では、リハビリテーションの量と成果に関し、次のような記述がある。

 脳卒中後遺症による運動障害に対しては、自然回復を待つよりも、リハビリテーションを行うことが強く勧められる(グレードA)。


 患者層や評価時期によって効果が異なるが、機能障害および能力低下の回復をより促進するためにリハビリテーションの量を増やし、集中して行うことが勧められる(グレードB)。


 起立ー着席訓練や歩行訓練など下肢訓練の量を多くすることは、歩行能力の改善のために強く勧められる(グレードA)。


 厚労省は、疾患別リハビリテーション料「切り下げ」の根拠を示せない。示せるはずもない。脳卒中合同ガイドライン委員会には、日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会(日本脳卒中の外科学会)、日本神経学会、日本神経治療学会、日本リハビリテーション医学会の5学会と厚労省脳梗塞脳出血クモ膜下出血の3研究班の合同委員会として開催された。エビデンスづくりに厚労省も加わっている。だから、「疾患別リハビリテーション料の逓減制の廃止」などという珍妙な理屈をつけるしかなかった。


 恣意的で、充分に「根拠に基づく」ことのない改革が、リハビリテーション医療に導入され続けている。リハビリテーション医療関係者は、根拠を示し、厚労省の非科学的な改革に対抗していくことが求められている。