東日本大震災における震災関連死に関する報告

 2012年8月21日、復興庁 | 震災関連死に関する検討会より、東日本大震災における震災関連死に関する報告が出された。

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 本報告が最終報告であり、今後、東日本大震災後1年間における震災関連死調査の基本資料となる。残念ながら、記述的統計に、市町村職員や有識者に対するヒアリング結果が加わったレベルであり、深い分析はされていない。重要と思える部分のみ抜き書きし、私の感想を付け加える。

  • 福島県は他県に比べ、震災関連死の死者数が多く、また、その内訳は、「避難所等への移動中の肉体・精神的疲労」が380人と、岩手県宮城県に比べ多い。これは、原子力発電所事故に伴う避難等による影響が大きいと考えられる。
  • 宮城県岩手県と違い、福島県浜通りは、原災避難の影響が大きい。地域の病院等の機能が喪失したために多くの患者を移動させることになった。動かしてはいけない状態の人を長時間かけて移動させ、更に別の地域へ移動を重ねるなどの事態となったことが大きいと感じた。

 → 原発事故による直接的な影響による死亡はなかったが、間接的な影響で亡くなった者が多かった。原発事故の被害を過小評価すべきではない。

  • 震災関連死は75歳以上の高齢者が多く災害弱者。高齢者が十分なケアを受けられなかったとの印象。
  • 発災後早期より在宅や施設等への対策(事前の高リスク者の把握とフォロー、物資の供給)が必要。

 → 本格的な高齢社会を迎えている日本では、福祉避難所の整備など、あらかじめ災害弱者対策をとっておく必要がある。

  • 避難生活が長期にわたる中で、今後とも、心のケアについて、見守り・相談等の更なる強化が必要。震災の影響による精神的ストレスから体調を崩すケースも多い。より多くの精神科医や福祉関係者等によるサポート体制が必要。
  • ニーズが少ない初期段階から、心のケアに関する情報(相談体制等)は早めに被災者及び支援者に周知しておくこと。
  • アウトリーチ(全戸訪問)活動を繰り返し行うこと(精神的に不健康か否かは自身での判別が不可能なため)。※地道に取り組むことが大切。
  • 震災の振り返りをきちんと吐き出すこと。※被災者は、アウトリーチ活動の際に、悩んだことや困ったことを出し切ることが大切。
  • 環境の変わり目で自殺のリスクが高まる傾向にある。例えば、新潟県中越地震新潟県中越沖地震の際には、仮設住宅から復興住宅に移行する際に、自立再建の出来なかった現実と先の見えない将来に悲観して自殺する人もいたので、注意が必要。
  • マスコミは、まるで「心のケア対策」なる明確なものが存在し、それを行えば様々な被災者の心の問題が解決すると報道する傾向にある。しかし本来は、地域経済・職業・健康状態の改善等、いわゆる生活再建を通して、はじめて被災者の心の健康が回復していくものである。生活不安が解消しない状態では、心のケアは万能ではないことを知るべき。

 → 原発事故も加わり、生活再建への取組みは遅れている。被災者の精神的問題は、今後より重要性を増してくることに注意が必要。


 なお、ヒアリングを行われた有識者は、以下の4人である。

 参考文献

  • 上田耕蔵氏(神戸協同病院院長)

 参考文献

 参考文献


 上記参考文献は、震災関連死問題を考えるうえでの基本資料といえる。
 なお、上田耕蔵氏とは、以前直接お会いして震災関連死について様々な教示をいただいたことがある。神戸協同病院の中にも、神戸協同病院|東日本大震災というページがある。参考にしていただければと思う。

孤独死予防と仮設住宅夏祭り

 東日本大震災後の重要課題のひとつである孤独死問題を調べているうちに、東日本大震災:仮設の孤独死、2年目増加…すでに11人/毎日新聞 2012年6月25日という記事が見つかった。

 東日本大震災の被災者が入居する岩手、宮城、福島3県の仮設住宅で、誰にもみとられずに亡くなる「孤独死」した人が、震災から1年が過ぎた今年3月11日以降、少なくとも11人(5月末)に上っていることが、3県警への取材で分かった。3月10日までは22人で、震災直後の1年間と比べると、2倍以上のペースになっている。阪神大震災(95年)の際も、孤独死は震災から2年目が最も多く、専門家も「2年目だからこそきめ細かな支え合いを」と訴える。【宇多川はるか】


 この記事で示された数字は氷山の一角ではないかという思いがしてならない。みなし仮設住宅や呼び寄せ老人問題もある。住み慣れた地域を離れ不自由な生活を送っている高齢者は仮設住宅にとどまらない。被災者の健康問題は、これから深刻化するのではないかと危惧している。


 孤独死は被災地だけの問題ではない。2012年6月15日に公表された、平成24年版高齢社会白書 全文(PDF形式) - 内閣府でも高齢社会の重要問題として取り上げられている。平成23年度 高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況 第1章 高齢化の状況 第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向 6 高齢者の生活環境、(5)高齢者の日常生活(PDF形式:394KB)に次のような記載がある。

エ 孤立死と考えられる事例が多数発生している
 誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような「孤立死(孤独死)」の事例が報道されているが、死因不明の急性死や事故で亡くなった人の検案、解剖を行っている東京都監察医務院が公表しているデータによると、東京 23 区内における一人暮らしで 65 歳以上の人の自宅での死亡者数は、平成 22(2010)年に 2,913 人となっている(図1 - 2 - 6 - 17)

 また、(独)都市再生機構が運営管理する賃貸住宅約 76 万戸において、単身の居住者で死亡から相当期間経過後(1 週間を超えて)に発見された件数(自殺や他殺などを除く)は、平成 22(2010)年度に 184 件、65 歳以上に限ると132 件となり、20(2008)年度に比べ全体で約 2 割、65 歳以上では約5 割の増加となっている(図1-2-6-18)。


 東京以外の自治体のデータは残念ながらないが、孤独死問題を隣の住民に関心がない都会だけの現象と捉えてはいけないだろう。高齢者単独世帯は、高齢化が進む地方自治体でも深刻な問題である。


 (7)東日本大震災における高齢者の被害状況(PDF形式:361KB)の中の「コラム 被災地の連携 ~神戸市から東日本大震災被災地に向けて~」の中には、阪神・淡路大震災の教訓として、以下のような記述がある。

 平成 7(1995)年 1 月 17 日に発生した阪神・淡路大震災の被災地では、復興が進む中で、高齢者が転居先で誰にも見守られずに亡くなる事例が目立ち、社会的な注目を集めた。これは、震災で転居を余儀なくされた人の多くが、避難所から仮設住宅、さらに災害復興住宅へと転居を続ける中で、それぞれ個人(世帯)単位の抽選で高齢者を優先的に入居させたため、転居を繰り返すごとに高齢化率が上がり、また地域とのつながりを失っていったことが原因と見られている。


(中略)


 こうした神戸市の経験は報告書*1にまとめられており、東日本大震災後、宮城県では、神戸市の取組を参考に県内の市町村や仮設住宅を訪問する支援員等を対象とした研修を実施している。


 阪神淡路大震災の経験は、サポートに回る自治体職員やボランティア組織だけでなく、仮設住宅自治会役員にも伝わっている。当院も近くの「あすと長町仮設住宅」への定期的支援を行っているが、自治会役員さんは、高齢者だけでなく、母子家庭、障害者などの社会的弱者が多いという問題意識を明確に持っている。この仮設住宅宮城県でもっとも大きく、230戸あまりの入居者がいる。仙台市だけでなく、気仙沼南相馬など広い地域から入居者が集まっており、孤立化予防に真剣に取り組んでいるところということだった。


 つい先日行われた仮設住宅夏祭り*2は、地元で絶大な人気を誇るさとう宗幸、知る人ぞ知る声優の山寺宏一ゆるキャラむすび丸などがステージに登場し、大いに盛り上がった。ふだん他の入居者と交流がない住民も楽しんだのではないか。






 夏祭りの会場では、区長や保健所長にもお会いすることができた。地域社会総出でこの仮設住宅を支えていこうという熱気にあふれていた。
 孤独死を如何に防ぐかということは、東日本大震災後の最重要課題のひとつである。大災害を生き延びた人びとが孤独のなかで死んでいくという悲劇を防がなければならないということを、被災地の医療従事者の課題として常に心に刻んでいる。この思いを多くの人と共有しているということを、仮設住宅夏祭りで確認できた。
 未曾有の大災害から立ち直るためには2〜3年では不十分で、10数年間はかかるのではないかと私は考えている。新たな生活環境のなかで安定した生活を営むことができるまで、長期戦の構えで生活再建の問題に取り組んでいくことが必要になっている。

東日本大震災被災者窓口負担免除、実質的に打ち切りへ

 東日本大震災被災者に対する、市町村国保後期高齢者医療、介護保険の窓口負担の免除が、実質的に平成24年9月末で打ち切られる見込みとなった。

 厚生労働省から発出した通知(平成24年7月24日)内にある、平成24年10月1日以降の東日本大震災により被災した被保険者に係る一部負担金の免除及び保険料(税)の減免に対する財政支援について(PDF:118KB)をみると、次のような記述がある。

1 平成 24 年 10 月1日以降は、両事務連絡のとおり、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う国による避難指示等の対象となっている地域(以下「避難指示等対象地域」という。)の被災被保険者等の一部負担金の免除措置及び保険料(税)の減免措置についてのみ、減免に要した費用を全額補填する特別の財政支援を継続する措置を講ずることとしているところ。


 東電第一原発事故避難指示等対象地域に関しては、平成25年2月28日までとなっているが、この部分は同じである。次項からが変更点だが非常にわかりにくい。

2 避難指示等対象地域以外の被災地域において、平成 24 年 10 月1日から同年 12 月 31 日までの間も引き続き、一部負担金の免除並びに国民健康保険及び後期高齢者医療の保険料(税)の減免を行った場合には、国民健康保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令(昭和 38 年厚生省令第 10 号。以下「国保調整交付金算定省令」という。)第6条第1号及び第4号並びに後期高齢者医療の調整交付金の交付額の算定に関する省令(平成19 年厚生労働省令第 141 号。以下「後期高齢者医療調整交付金算定省令」という。)第6条第1号及び第3号の規定による特別調整交付金の交付対象となること。その際、これら各号の規定に基づき、平成 24 年1月1日から同年 12 月 31 日までの減免額を基準として交付対象を判断することとなること。
 また、これら各号に該当する市町村が、引き続き、平成 25 年1月1日から同年3月 31日までの間の一部負担金の免除及び平成 25 年1月1日から同年4月1日までの間に普通徴収の納期限(特別徴収の場合にあっては特別徴収対象年金給付の支払日)が到来する保険料(税)の減免を行った場合には、その減免に要した費用の 10 分の8を、平成 25年度の国保調整交付金算定省令第6条第 12 号及び後期高齢者医療調整交付金算定省令第6条第9号の規定による調整交付金の交付対象とする予定であること。


3 2の財政支援の対象となる一部負担金の免除措置は、国保調整交付金算定省令第6条第4号及び後期高齢者医療調整交付金算定省令第6条第3号に係る交付基準に従い行うこととなるが、「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律等における医療保険関係の特例措置について」(平成 23 年5月2日付け保発第 0502 第3号) と同様の基準とする予定であること。
 2の財政支援の対象となる保険料(税)の減免措置は、国保調整交付金算定省令第6条第1号及び後期高齢者医療調整交付金算定省令第6条第1号に係る交付基準に従い、同一の事由によって市町村民税の減免を行っていることが要件となること。ただし、その 他の要件については、平成 24 年度に限り、住宅の損害に係る被保険者の所得要件は適用しないなど「東日本大震災により被災した被保険者に係る国民健康保険料(税)の減免に対する財政支援の基準について」(平成 24 年6月 26 日保国発 0626 第1号)及び「平成 24 年度後期高齢者医療災害臨時特例補助金の交付申請及び後期高齢者医療の特別調整交付金の交付について」(平成 24 年6月 25 日保高発 0625 第1号)と同様の基準とする予定であること。
 関係通知及び具体的な基準については、追って通知する予定であること。


4 避難指示等対象地域以外の被災地域の被災被保険者等に対して、保険者の判断で平成24 年 10 月1日以降も一部負担金の免除及び保険料(税)の減免を行う場合には、あらかじめ、市町村と後期高齢者医療広域連合との間で連携し、その対象者や要件について、十分に調整を行うこと。


 これまでは、国の財政負担で行っていた免除措置が、10月1日以降は、保険者である市町村や後期高齢者医療広域連合に委ねられる。その際、財源として特別調整交付金を当てていたが、国の負担割合を8割までとする。さらに市町村民税の減免を行っているなどの要件を付け加えている。


 この問題に対し、東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センターは、被災者の医療・介護の減免継続に向けた対応を緊急に要望いたします(2012年7月30日)という要望書を宮城県知事に提出している。

 また、この通常時の枠組みを活用した免除措置をとる場合は、まず保険者が決断しなければなりません。その際に、調整交付金の対象にならない市町村には躊躇が生まれやすく、国が手当しない残り2割の費用をどう捻出するかについてはどの市町村も頭の痛い問題です。被災の大きな市町ほど費用が増大するので、財源確保の支援がなされなければ免除を9月末で打ち切る市町村が広がる危険性があり、市町村間で対応に差異が生じることも危惧されます。
 後期高齢者医療については、保険者の広域連合が市町村と違って独自の税財源をもっていないため、事務連絡でも「減免を行う場合には、あらかじめ市町村と後期高齢者医療広域連合との間で連携し、その対象者や要件について、十分に調整を行うこと」を求めています。免除を継続するためには市町村からの拠出や県の支援などの何らかの財源対策が必要であり、県が調整や支援に乗り出すことが求められています。


 国は、財政支援の必要性を認めながらも、被災した自治体自身に応分の負担を求めている。自治体にとって、財源確保と住民ニーズとの板ばさみにあうという事態になっている。非情な通知としか言いようがない。
 被災地住民は、それでなくても経済的に困難を抱えている。この上に、医療費窓口負担や介護サービス利用料負担が加わった場合、受診抑制や介護サービス利用抑制の動きが強まる。うつ病PTSDアルコール依存症、自殺などの精神疾患、ストレスが原因として起こる脳心血管事故、閉じこもりが原因となる運動不活発病などの震災関連疾患が増加し、健康状態が悪化するおそれがある。きわめて重大な問題である。
 東日本大震災復興が不十分な現状を考えると、市町村国保後期高齢者医療、介護保険の窓口負担の免除は、震災後最低3年間、平成26年3月末頃までは続けるべきだと私は考えている。

震災関連死調査にみる福島県と岩手・宮城県との違い

 復興庁 | 震災関連死に関する検討会(第2回)[平成24年7月12日]が開催された。

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 さまざまな資料が提出されている。資料1 「東日本大震災における震災関連死に関する原因等(基礎的数値)」をみると、次のような傾向があることがわかる。

  • 死亡時年齢の最頻値は80歳代である。
  • 死亡時日付区分では、1週間以内は72名13.6%に過ぎず、1週間超1ヶ月以内134名25.3%、1ヶ月超3ヶ月以内170名32.1%の両者で過半数を占める。3ヶ月超で認定されるものも少なくない。


 さらに、死亡原因区分(複数回答)をみると、福島県と岩手・宮城両県との間に大きな相違があることが確認できる。なお、原資料では複数回答を単純に合計した数値を乗せているが、複数回答であることを考慮して一部改変している。

原因 岩手県及び宮城県 福島県 合計
1-1 病院の機能停止による初期治療の遅れ  13(6.3%)  13(4.0%)  26(4.9%)
1-2 病院の機能停止(転院を合む)による既往症の増悪  42(20.2%)  85(26.5%)  127(24.0%)
1-3 交通事情等による初期治療の遅れ  4(1.9%)  3(0..9%)  7(1.3%)
2 避難所等への移動中の肉体・精神的疲労  15(7.2%)  181(56.4%)  196(37.1%)
3 選難所等生活の肉体・精神的疲労  89(42.8%)  160(49.8%)  249(47.1%)
4-1 地震津波ストレスによる肉体・精神的疲労  51(24.5%)  15(4.7%)  66(12.5%)
4-2 原発事故のストレスによる肉体・精神的疲労  0  21(6.5%)  21(4.0%)
5-1 救助・救護活動等の激務  1(0.5%)  0  1(0.2%)
5-2 多量の慶灰の吸引  0  0  0
6-1 その他  36(17.3%)  71(22.1%)  107(20.2%)
6-2 不明  16(7.7%)  22(6.9%)  38(7.2%)
合計  208  321  529


 「病院の機能停止(転院を合む)による既往症の増悪」、「選難所等生活の肉体・精神的疲労」は両者に共通している。一方、「地震津波ストレスによる肉体・精神的疲労」は岩手・宮城両県には多いが、福島県には少ない。もっとも異なるのは、「避難所等への移動中の肉体・精神的疲労」が福島県過半数を占めていることである。
 福島県のデータは、南相馬市双葉町のものだけである。復興庁 | 震災関連死に関する検討会(第1回)[平成24年5月11日]【資料3】東日本大震災における震災関連死の死者数を見ると、南相馬市282名、双葉町38名となっている。【福島県南相馬市提出資料】南相馬市における震災関連死の原因と対応策をみると、次のような記載がある。

2.主な原因
1)南相馬市は、医療施設や介護施設等が比較的多く、地域の中核的な役割を果たしていた。これらの入院患者等を全員避難させることになった。
2)原発避難や生活環境の変化によるストレス等で、体調の悪化が見られた。
3)要介護5、寝たきり状態、高齢者といった本来安静を保つ必要のある人を長時間かけ、長距離移動させたために、結果的に死期を早める原因となったケースが多くあった。

3.対応策
1)南相馬市は、原発事故による避難を理由とした災害関連死が相当を占めている。震災時に避難を余儀なくされる際の対応策として、あらかじめ、市民、入院患者などの要援護者の緊急時の移動手段、移動方法、他地域での医療機関等の受け入れ体制の事前準備、計画を策定する必要があるのではないか。
2)震災から1年4ヶ月が経過する中、多くの住民が自宅に戻れず、避難を余儀なくされている。長期化する避難生活の中、生活環境の変化や精神的ストレスが解消されない状態が続いているが、孤立死孤独死、自殺等を未然に防ぐ「心のケア」の取組が、引き続き必要である。


 東京電力原発事故の直接的影響による死者はないということになっている。しかし、要介護者や高齢者への配慮がほとんどできない状態で遠方に避難させたことを原因とするものが、南相馬市では災害関連死認定者の過半数を占める。震災関連死に関する検討会のデータを見る限り、原発事故の間接的被害者は、最低でも福島県の震災関連死の半数以上の300〜400人に及ぶと推測する。さらに、死に至らないまでも、災害関連疾患で要介護状態が悪化したものも少なくないはずである。
 長引く避難生活のなかで体調を崩すものが今後も増加することが危惧される。震災関連死および震災関連疾患の被害者に対し、大規模災害を起こした当事者である東京電力が補償を考えているのかどうか、私は寡聞にして知らない。

被災3県における主な死因の推移

 東日本大震災で多大な被害がでた岩手・宮城・福島の死因統計の推移を調べてみた。

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 使用したのは、先日公表されたばかりの平成23年人口動態統計月報年計(概数)の概況|厚生労働省と、人口動態調査 結果の概要|厚生労働省の中にある人口動態統計(確定数)の概況、平成22年、平成21年、平成20年のデータである。悪性新生物、心疾患(高血圧性を除く)、脳血管疾患、肺炎、老衰、不慮の事故、自殺の主要7死因の推移を追った。

死因  2008年  2009年  2010年  2011年 2011年死亡者数 対2010年増減(増減率)
全国            
悪性新生物  272.3  273.5  279.7  283.1  357,185人  3.4(+1.2%)
心疾患  144.4  143.7  149.8  154.4  194,761人  4.6(+3.1%)
脳血管疾患  100.9  97.2  97.7  98.1  123,784人  0.4(+0.4%)
肺炎  91.6  89.0  94.1  98.8  124,652人  4.7(+1.1%)
老衰  28.6  30.7  35.9  41.4  52,207人  5.5(+15.3%)
不慮の事故  30.3  30.0  32.2  47.2  59,596人  15.0(+46.6%)
自殺  24.0  24.4  23.4  22.9  28,874人  -0.5(-2.1%)
岩手            
悪性新生物  301.3  319.8  326.2  326.4  4,273人  0.4(+0.1%)
心疾患  188.4  197.5  202.5  219.3  2,870人  16.8(+8.3%)
脳血管疾患  159.3  162.2  160.5  180.3  2,360人  19.8(+12.3%)
肺炎  114.4  113.7  117.9  127.3  1,666人  9.4(+8.0%)
老衰  34.0  37.5  45.3  56.0  733人  10.7(+23.6%)
不慮の事故  38.2  40.4  42.5  470.6  6,160人  428.1(+1,007.3%)
自殺  33.7  34.4  32.2  28.3  370人  -3.9(-12.2%)
宮城            
悪性新生物  266.9  268.5  272.8  270.0  6,251人  -2.8(-1.0%)
心疾患  138.2  141.7  141.4  160.0  3,704人  18.6(+13.1%)
脳血管疾患  115.3  110.4  121.2  127.8  2,958人  6.6(+5.4%)
肺炎  82.1  82.2  83.1  99.8  2,310人  16.7(+20.1%)
老衰  33.4  37.2  45.9  59.0  1,366人  13.1(+28.5%)
不慮の事故  29.0  31.3  32.1  484.0  11,204人  451.9(+1,407.8%)
自殺  27.9  24.8  22.8  20.7  480人  -2.1(-9.2%)
福島            
悪性新生物  291.5  297.7  305.7  312.5  6,190人  6.8(+2.2%)
心疾患  183.6  190.1  197.8  226.0  4,478人  28.2(+14.3%)
脳血管疾患  139.5  131.1  137.0  140.3  2,779人  3.3(+2.4%)
肺炎  100.7  99.1  108.0  125.1  2,478人  17.1(+15.8%)
老衰  43.1  39.6  47.9  63.1  1,251人  15.2(+31.7%)
不慮の事故  36.2  37.3  41.3  129.7  2,570人  88.4(+214.0%)
自殺  26.2  29.1  23.4  25.3  502人  1.9(+8.1%)

表 主な死因の人口10万対死亡率・死亡数の推移
 2010年度比+10%以上となった数値を赤字で、-10%以上となったものを青字で示した。


 全国データをみると、東日本大震災の影響で不慮の事故が対前年比46.6%増となったことがもっとも目立つ。ついで、老衰が15.3%増となっているのが目をひく。
 被災3県のデータをみると、不慮の事故が顕著に増加している。心疾患、脳卒中、肺炎、老衰も伸びている。一方、悪性新生物はほぼ横ばいである。自殺は、岩手と宮城は減少しているのに対し、福島が増加傾向と明暗が分かれている。
 心疾患、脳卒中、肺炎、老衰に関しては、震災関連死で超過死亡が生じた可能性がある。大災害時には過度のストレスが原因となり、心血管事故が増えることが明らかになっている。高齢者が多い医療過疎地域で起こったため、肺炎や衰弱状態となっても十分な治療を受けられなかったおそれがある。一方、自殺に関しては、地震津波被害より、東京電力原発事故に伴う放射性物質汚染の影響が強いのではないかと推測する。
 今回明らかになったのは、死亡者の状況だけである。後遺症を残したまま生活している人は含まれていない。東日本大震災に伴う健康被害はかつてない規模に広がっている。長く続く復興への取り組みのなかで、被災地の健康問題にもっと関心を抱いて欲しいと願っている。

大規模災害リハビリテーション対応マニュアル

 大規模災害リハビリテーション対応マニュアルが出版された。

大規模災害リハビリテーション対応マニュアル

大規模災害リハビリテーション対応マニュアル


 目次は、次のとおり。

I.大規模災害の定義と本マニュアルの適応
II.東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体(10団体)としての支援活動
III.大災害におけるリハビリテーション支援活動の目的と意義
IV.災害リハビリテーション対応のフェーズ
V.組織体制
VI.平時の対応(事前準備)
VII.災害リハビリテーション対応の基本原則
VIII.災害発生時の初期対応
IX.災害復旧時の対応
X.災害復興時(終了時)の対応
XI.心理面への対応
XII.国際協力
XIII.情報管理・収集・発信・支援
XIV.評価(アセスメント)
XV.関係団体・行政等との連携
XVI.災害支援に関わる倫理的問題
XVII.資料


 内容については、大規模災害リハビリテーション対応マニュアル/医歯薬出版株式会社もご参照いただきたい。
 私も、「VIII.災害発生時の初期対応」の中の一項目を担当させていただいた。東日本大震災を受け、災害医療とリハビリテーション支援のあり方についてまとめた本邦初のテキストである。多くのリハビリテーション関係者に読んでいただきたいと願っている。

宮城県の震災関連死数公表

 宮城県の震災関連死数が公表され、総死亡者数が1万人を超えたことが明らかになった。

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 宮城県は21日、東日本大震災後の体調悪化による死亡や、震災を苦にした自殺など「震災関連死」の人数を初めて公表した。15日時点の関連死は22市町で計619人。市町別の内訳は石巻市が最多の179人。次いで仙台市143人▽気仙沼市79人▽東松島市54人。


 関連死を含めた県内の死者数は1万149人と、1万人を超えた。年齢層では65歳以上の高齢者が5570人で54.9%を占めた。


 震災関連死は、災害弔慰金の支給審査会で「震災との関連で死亡した」と認定された場合で、遺体の確認などで死亡を確認した「直接死」は除く。

http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20120322k0000m040070000c.html


 元になったのは、http://www.pref.miyagi.jp/kikitaisaku/higasinihondaisinsai/higaizyoukyou.htmの3月21日公表資料、変更点17時である。市町村ごとの表を見ると、直接死や行方不明が多い自治体で関連死も多いという関係がわかる。調査中というところを除いても、重傷者は499名に及ぶ。人的被害はきわめて大きい。なお、関連死の内訳は宮城県の資料では明らかにされていない。


 東日本大震災後に心不全が有意に増加、ACS、脳卒中も:日経メディカルに興味深いデータが報告されていたので、あわせて紹介する。東北大学循環器内科学の下川宏明教授らが、宮城県全域の救急車搬送の解析で、心不全ACS(急性心筋梗塞狭心症)、脳卒中脳出血脳梗塞)、心肺停止、肺炎の症例を調べたものである。(注:原文では「心配停止」となっているが、明らかな誤植であり、「心肺停止」と書き直した。)

 解析ではまず、各年ごとに2月11日〜3月10日と3月11日〜4月7日の2期間で各疾患の発生数を比較した。その結果、2011年だけが、3月11日〜4月7日の期間の方が2月11日〜3月10日の期間より、心不全ACS脳卒中、心肺停止、肺炎のすべてが有意に多かった。例えば心不全は、2011年の2月11日〜3月10日では123件だったが、同年3月11日〜4月7日には220件と有意に増加していた(P<0.001)。また、2008〜2010年の各年の3月11日〜4月7日の発生数は、それぞれ101件、100件、126件であり、2011年の方が有意に高かった(P<0.001)。


 次に、2011年の2月11日以降、4週間ごとの週間平均発生数を追ったところ、心不全は30.8件、55.0件、35.0件、31.0件、29.3件と推移していた。同様にACSは8.25件、19.0件、9.25件、5.0件、10.0件、脳卒中は70.8件、96.5件、82.0件、73.5件、62.5件、心肺停止は49.0件、61.8件、46.0件、42.3件、40.3件、肺炎は46.5件、89.3件、60.5件、45.5件、47.5件とそれそれ推移していた。

 着目点の1つである沿岸部と内陸部の比較では、沿岸部の内陸部に対するオッズ比を調べたところ、肺炎で1.54(95%信頼区間:1.06-2.26)となり、沿岸部での肺炎の患者が有意に多いことも分かった(P=0.023)。


 このほか、デバイス植え込み患者および冠攣縮性狭心症患者を対象とした検討では、不整脈(特に心室性)の増加が見られ、心臓再同期療法(CRT)治療の効果の減弱や冠攣縮の増悪の可能性なども明らかになった。


 下川教授がとりあげたような心血管系イベントや肺炎などの感染症が、震災関連死の原因だったのではないかと推測する。被害の甚大さを考慮すると、災害弔慰金という制度自体を知らなかったために認定からもれた方々もいるのではないかと予想する。
 うつ病PTSDなどの精神疾患を契機として生じる自殺、アルコール関連疾患の増加も危惧される。不自由な生活をおくっている被災者の健康被害を軽減するために、生活基盤の再建や医療介護の充実などの対策を強化することが求められている。