震災関連死調査にみる福島県と岩手・宮城県との違い

 復興庁 | 震災関連死に関する検討会(第2回)[平成24年7月12日]が開催された。

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 さまざまな資料が提出されている。資料1 「東日本大震災における震災関連死に関する原因等(基礎的数値)」をみると、次のような傾向があることがわかる。

  • 死亡時年齢の最頻値は80歳代である。
  • 死亡時日付区分では、1週間以内は72名13.6%に過ぎず、1週間超1ヶ月以内134名25.3%、1ヶ月超3ヶ月以内170名32.1%の両者で過半数を占める。3ヶ月超で認定されるものも少なくない。


 さらに、死亡原因区分(複数回答)をみると、福島県と岩手・宮城両県との間に大きな相違があることが確認できる。なお、原資料では複数回答を単純に合計した数値を乗せているが、複数回答であることを考慮して一部改変している。

原因 岩手県及び宮城県 福島県 合計
1-1 病院の機能停止による初期治療の遅れ  13(6.3%)  13(4.0%)  26(4.9%)
1-2 病院の機能停止(転院を合む)による既往症の増悪  42(20.2%)  85(26.5%)  127(24.0%)
1-3 交通事情等による初期治療の遅れ  4(1.9%)  3(0..9%)  7(1.3%)
2 避難所等への移動中の肉体・精神的疲労  15(7.2%)  181(56.4%)  196(37.1%)
3 選難所等生活の肉体・精神的疲労  89(42.8%)  160(49.8%)  249(47.1%)
4-1 地震津波ストレスによる肉体・精神的疲労  51(24.5%)  15(4.7%)  66(12.5%)
4-2 原発事故のストレスによる肉体・精神的疲労  0  21(6.5%)  21(4.0%)
5-1 救助・救護活動等の激務  1(0.5%)  0  1(0.2%)
5-2 多量の慶灰の吸引  0  0  0
6-1 その他  36(17.3%)  71(22.1%)  107(20.2%)
6-2 不明  16(7.7%)  22(6.9%)  38(7.2%)
合計  208  321  529


 「病院の機能停止(転院を合む)による既往症の増悪」、「選難所等生活の肉体・精神的疲労」は両者に共通している。一方、「地震津波ストレスによる肉体・精神的疲労」は岩手・宮城両県には多いが、福島県には少ない。もっとも異なるのは、「避難所等への移動中の肉体・精神的疲労」が福島県過半数を占めていることである。
 福島県のデータは、南相馬市双葉町のものだけである。復興庁 | 震災関連死に関する検討会(第1回)[平成24年5月11日]【資料3】東日本大震災における震災関連死の死者数を見ると、南相馬市282名、双葉町38名となっている。【福島県南相馬市提出資料】南相馬市における震災関連死の原因と対応策をみると、次のような記載がある。

2.主な原因
1)南相馬市は、医療施設や介護施設等が比較的多く、地域の中核的な役割を果たしていた。これらの入院患者等を全員避難させることになった。
2)原発避難や生活環境の変化によるストレス等で、体調の悪化が見られた。
3)要介護5、寝たきり状態、高齢者といった本来安静を保つ必要のある人を長時間かけ、長距離移動させたために、結果的に死期を早める原因となったケースが多くあった。

3.対応策
1)南相馬市は、原発事故による避難を理由とした災害関連死が相当を占めている。震災時に避難を余儀なくされる際の対応策として、あらかじめ、市民、入院患者などの要援護者の緊急時の移動手段、移動方法、他地域での医療機関等の受け入れ体制の事前準備、計画を策定する必要があるのではないか。
2)震災から1年4ヶ月が経過する中、多くの住民が自宅に戻れず、避難を余儀なくされている。長期化する避難生活の中、生活環境の変化や精神的ストレスが解消されない状態が続いているが、孤立死孤独死、自殺等を未然に防ぐ「心のケア」の取組が、引き続き必要である。


 東京電力原発事故の直接的影響による死者はないということになっている。しかし、要介護者や高齢者への配慮がほとんどできない状態で遠方に避難させたことを原因とするものが、南相馬市では災害関連死認定者の過半数を占める。震災関連死に関する検討会のデータを見る限り、原発事故の間接的被害者は、最低でも福島県の震災関連死の半数以上の300〜400人に及ぶと推測する。さらに、死に至らないまでも、災害関連疾患で要介護状態が悪化したものも少なくないはずである。
 長引く避難生活のなかで体調を崩すものが今後も増加することが危惧される。震災関連死および震災関連疾患の被害者に対し、大規模災害を起こした当事者である東京電力が補償を考えているのかどうか、私は寡聞にして知らない。