震災がれき広域処理に対する島田市の真摯な取組み

 静岡県島田市が、岩手県山田町、大槌町の震災がれき受け入れを決めた。

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 島田市の桜井勝郎市長は15日、東日本大震災で発生した岩手県山田、大槌両町のがれき(災害廃棄物)の受け入れを正式表明した。東北地方と東京都以外の自治体で初めての受け入れとなり、広域処理の実現への足掛かりになるとされる。


(中略)


 市が2月16、17両日、同プラザで山田町のがれき10トンと家庭ごみ56トンを混ぜて試験焼却したところ、がれきや灰、排ガスの放射性セシウム濃度、空気中の放射線量などは、家庭ごみだけを処理した場合とほとんど変わらない値で、国や県の基準値を下回った。
 市議会は15日午前、市にがれき受け入れを求める議員発議の決議案と意見書を賛成多数で可決した。

http://www.at-s.com/news/detail/100107380.html


 島田市のホームページ、http://www.city.shimada.shizuoka.jp/kankyou/sisetu/gareki_top.jspに詳細なデータがある。静岡県のホームページ、静岡県/災害廃棄物の試験焼却における放射能測定結果(島田市試験焼却分)にも簡略化されたデータがある。「焼却灰の放射性Cs濃度が8,000Bq/kg以下」という環境省の基準が批判を浴びているが、島田市の測定では無害化処理灰の放射性Cs濃度は64Bq/kgである。しかも、この値は試験焼却前のデータとほぼ変わらない。岩手県沿岸部北部〜中部の放射性物質汚染はきわめて低値であることが以前から分かっていた。今回の島田市が行った試験焼却のデータ収集によってこのことが再確認された。


 各種世論調査をみると、震災がれき広域処理に対しては肯定的な結果が出ている。例えば、http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120305-OYT1T00668.htmを見ると、次のような記述がある。

 岩手、宮城両県のがれきの処理を、自分が住む都道府県で引き受けるべきだと思うかについて、岩手、宮城、福島3県以外で聞くと、「政府が人体に影響がないとする範囲内の放射線量であれば引き受けるべきだ」が75%を占め、「人体に影響がないとする範囲内の放射線量でも引き受けるべきでない」は16%だった。

 トラブルを恐れ及び腰の自治体と、何とか被災地を援助したいという住民意識の乖離がある。不安を煽動する一部の「市民団体」に島田市も苦しめられた。しかし、島田市は、地元住民への丁寧な説明、積極的な情報公開を経て、震災がれき受け入れに対する不安が払拭された。
 島田市の試みは、他の自治体にも影響を与えている。福岡県北九州市佐賀県武雄市で震災がれき受入れに関する決議がなされ、鳥取県米子市でも市長が受入れに対する表明がなされた。震災がれきの速やかな処理は、被災地の生活再建に向けた第一歩である。自らにとって全くメリットがない取組みを成功裏に導いた島田市長とその訴えに真摯に対応していただいた島田市民の方々に、心から感謝を述べる。

東日本大震災発生1周年

 東日本大震災が起こって、本日でちょうど1年となる。不思議なことにさほど感傷的な気分とはなっていない。おそらく、1年前に起こった出来事というよりは、この間継続して関わってきた現在進行形といえる事象だからだと思う。
 震災発生直後の混乱を乗り越え、医療機能・介護機能の一部を失いながら病院機能を安定化させることに苦闘した時期を経て、なんとか現在は安定している。大破状態となり使用不可能となった外来棟の取り壊しも、やっと2月初めには終わった。








 まっさらな更地に病棟・外来機能を持つ建物を建設するための準備を進めている。順調に行けば、来年末には竣工する。現在の病棟に管理部門と介護機能を集約させる予定で構想を練っている。現存の建物改修は新棟完成後からとなる。最終的な完成型は2014年3月頃であり、ちょうど2年後である。
 震災は均一に被害をもたらした訳ではない。医療機関をみても、被害ゼロというところから再建を断念したところまで幅が広い。当院もまかり間違えば再建困難といえるほどの損傷を受けたが、全国からの支援、地域からの期待を受け、ここまで到達できた。先は長いが、現在の路線を丹念に進めていけば良いという実感がある。
 TVや新聞では、東日本大震災1周年とのことで特集を組んで大々的に報道している。きっと明日からは過去のこととして報道量は大幅に減ると予測する。感情に訴える映像が減り、復興への取組みが散発的に報じられるだけではないかと危惧する。ニュースバリューに欠ける個々の地道な取組みが震災後の復興を支えていることを忘れて欲しくはないと思う。

石巻日赤院長講演「東日本大震災の教訓:被災地の拠点病院として」

 本日行われた宮城県リハビリテーション医会第1回研究会で、石巻赤十字病院飯沼一宇院長の講演「東日本大震災の教訓:被災地の拠点病院として」を聴いた。災害医療のポイントを次の3点にまとめていた。
 1)危機管理の事前準備と整備
 2)通信と物流の整備
 3)統率と協力


 石巻赤十字病院は、災害拠点病院として様々な準備をしてきていた。2006年に現在地に移転した際、石巻市で初めて免震構造を採用した。北上川に近いこともあり、洪水対策として3mの盛土をした。待合室ホールを災害時の受け入れスペースとして位置づけ、酸素や吸引の配管を整え、床暖房とした。非常用電源、水道の対策もとっていた。以上のハード面に加え、災害時マニュアルの整備、大規模災害を想定した定期的訓練、地域関係機関との協議など着々と準備をした。そして、2011年2月に、石井正医師が宮城県災害コーディネーターとして任命された1ヵ月後に、東日本大震災が起こった。地域の医療機関が壊滅状態となるなかで、唯一残った医療機関として獅子奮迅の働きをした。数年以内に必ず起こると言われていた宮城県沖地震の準備として進めてきた危機管理対策が役立った。唯一不十分だったのは、職員の食糧備蓄だった。患者用の食事は缶詰にしたものが3日分あったとのことだが、全職員が自宅に帰れずに働かなければいけない事態は想定していなかったとのことだった。
 通信手段もいくつか整備していたが、実際には役立たなかった。自分たちのところの通信機器が使用できても、連携相手に問題がある場合には、つながらない。結局のところ、人海戦術で足で情報を集めるしかなかった。物流も途絶えた。何よりもガソリン不足が問題となった。今後の大震災の教訓として、大災害に強い通信網の整備が必要とまとめられた。なお、震災前にはセキスイハウスと災害時協定を結び、大人数の人間が入ることができるテント準備を要請し、実際に実施された。震災後さらにイオン石巻と協定を結び、食料その他の物流確保に努めている。
 全国各地からの支援には助けられた。しかし、統率がとれなければ、現場の力にはならない。災害コーディネーター石井正医師が責任者となり、応援部隊は避難所等の外部支援に回った。エリアとその責任者を明確にした。継続して支援に来れる団体の場合には、一つの仕事をラインとして任せた。散発的な支援は人手が必要な部署にスポットとして回した。刻々と変わる状況をふまえ、指揮系統を明確にし、対応した。統率と協力が成果をあげた。


 以下、質疑応答より。


 公衆電話などのアナログ式固定電話は、電話線を通じて電気が供給されるので災害時には強いが、どう思うか。
⇒ 実際、自分も使用してみたが、相手が出なかった。通話相手も含めた通信網の整備が必要と思う。


 災害弱者への対策はどうだったのか。自分たちの地域は、訪問看護ステーションなどの居宅サービス事業者が自分の危険を省みず、一軒一軒安否を確認していた。物資も不十分だった。医療側は病院にたてこもって患者対応に精一杯だったので、後になって在宅要介護者の状況が分かった。
⇒ 外部からの応援部隊が避難所めぐりをする中で、問題となる者を探し出した。重度要介護者を遊学館に、やや軽い者を桃生トレセンに集めた。


 講演のなかで、次の2つの書籍を紹介された。

石巻赤十字病院の100日間

石巻赤十字病院の100日間

 後者は2012年2月に発売されたばかりである。今回の講演の復習の意味を含め、購入して読んでみることにしたい。

Medical complications associated with earthquakes

 Lancet 最新号に載ったreview、http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(11)60887-8/abstractを読んだ。

 Summary
 Major earthquakes are some of the most devastating natural disasters. The epidemiology of earthquake-related injuries and mortality is unique for these disasters. Because earthquakes frequently affect populous urban areas with poor structural standards, they often result in high death rates and mass casualties with many traumatic injuries. These injuries are highly mechanical and often multisystem, requiring intensive curative medical and surgical care at a time when the local and regional medical response capacities have been at least partly disrupted. Many patients surviving blunt and penetrating trauma and crush injuries have subsequent complications that lead to additional morbidity and mortality. Here, we review and summarise earthquake-induced injuries and medical complications affecting major organ systems.


 地震に関する1990年から2010年までの文献中、50人以上の多数例を扱った123論文を検討している。英語だけでなく、中国語論文が含まれている。Table 1をみると、過去10年間に1000人以上の死者を出した13地震中、四川省地震(死者87,587名、2008年5月12日)と青海省地震(死者2,698名、2010年4月13日)が含まれていることが影響しているようである。
 地震に関係する合併症として以下のものがあげられている。

  • Renal system(腎臓系)
    • crush syndrome(挫滅症候群)
  • Musculoskeletal injuryes(筋骨格系損傷)
    • lacerations(裂傷)、fractures(骨折) and soft-tissue contusions or sprains(軟部組織打撲、捻挫)
    • amputation(切断)
  • Cardiovascular system(心血管系)
    • acute myocardial infarctions(急性心筋梗塞
    • sudden cardiac death(突然心臓死)
    • cardiac arrhythmias(不整脈
    • cerebrovascular accidents(脳血管障害)
    • adversely affect blood pressure in patients with hypertension(高血圧患者の血圧への悪影響)
  • Chest injuries(胸部損傷)
    • rib fracture(肋骨骨折)、flail chest(動揺胸郭)、sternal fractures(胸骨骨折)、scapular or clavicular fractures(肩甲骨、鎖骨骨折)、pulmonary parenchymal injuries(肺実質損傷)、 pleural injuries(胸膜損傷)、 haemothorax、haemopneumothorax、pneumothorax(血胸、血気胸気胸)。
  • Infectious disease(感染症
    • respiratory and water-borne illnesses(呼吸器疾患、水系疾患):cholera(コレラ
    • tetanus(破傷風
    • sepsis(敗血症)
  • Mental health(メンタルヘルス
    • acute stress disorder(急性ストレス障害
    • depression(うつ)
    • suicide(自殺)
    • post-traumatic stress disorder (PTSD)
  • Neurological problems(神経系の問題)
    • spinal trauma(脊髄外傷)
    • traumatic head injury(外傷性頭部外傷)
  • Haematology(血液学)
    • blood transfusion(輸血)
  • Special considerations(特に留意すべき事項)
    • children(小児)
    • elderly individuals(高齢者)


 地震時に救命医療の対象となる疾患のかなりの部分が、リハビリテーションを必要とする。外傷性疾患ばかりに注目が集まるが、ストレスを契機として発症する心血管系イベントやメンタルヘルスにも言及されている。阪神淡路大震災の経験をふまえた日本発の論文も多い。小児や高齢者などの災害弱者に対する論文も紹介されている。
 本Reviewは、災害時リハビリテーションの全体像を考えるうえできわめて重要であると感じた。

東日本大震災「災害関連死」認定急増

 東日本大震災に伴う「災害関連死」の認定が急増していることが明らかになった。

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 東日本大震災で、震災や避難が引き金となり病気などで死亡した「災害関連死」と認められ、災害弔慰金の支給対象となったのは、岩手、宮城、福島の3県で計1300件を超えていることが各県への取材などでわかった。約900件が関連死と認定された1995年の阪神大震災を大きく上回った。

http://www.asahi.com/national/update/0227/TKY201202270461.html


 朝日新聞本誌を見ると、被災3県の「災害関連死」数は以下のとおりである。


 東日本大震災の被災規模からすると、この数値は氷山の一角である。阪神淡路大震災の例を参照に、直接死の1/6程度の災害関連死があるとすると、おそらく3000件以上の災害関連死が認定されると予測する。災害見舞金対象となる高度障害者も相当数いると推測する。当院にも、震災後に体調を崩した患者が多数入院してくる。回復期リハビリテーション病棟対象患者だけみても1〜2割存在する。東日本大震災が及ぼした健康被害はきわめて深刻である。

ゴジラ音楽と緊急地震速報

 ネーミングに負けて、思わず購入してしまった本である。

ゴジラ音楽と緊急地震速報~あの警報チャイムに込められた福祉工学のメッセージ~

ゴジラ音楽と緊急地震速報~あの警報チャイムに込められた福祉工学のメッセージ~


 「チャラン・チャラン、緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください。」というアナウンスの時に流れる、あの「チャラン・チャラン」というチャイム音の誕生秘話である。
 このチャイム音の製作者は、福祉工学の専門家である東京大学伊福部達教授である。伊福部達教授は、「ゴジラ」の映画音楽を担当した叔父の伊福部昭氏が作曲した交響曲の和音の一部を題材に、緊急地震速報チャイムを作成した。たったこれだけの話をもとに、次のような多彩な話題が展開されている。

  • ゴジラ音楽と映像音楽4原則
    • 地震の起きる状況を映画として捉え、チャイム音に映画音楽のようなメッセージ性を持たせた。
  • 座頭市と気配
    • 「気配」の正体は「音」すなわち「環境雑音」。全く反響音のない無響室では、視覚障害者は「気配」に気づかない。
  • 叫び声のメカニズム
    • 女性の「キャーッ」という叫び声は4kHz。この高さの叫び声が最も強く恐怖を感じ、遠くまで届く。
  • 音の福祉工学と聴覚の世界
    • 音のマスキング、指で聴く装置、音声タイプライタ、人工内耳などに伊福部達教授が関わってきた音に関する福祉工学の話。
  • 樺太アイヌの歌を記録した蝋管再生プロジェクト
    • エジソンの発明した蝋管式蓄音機の蝋管再生にまつわる話。カビを除去する方法を知るために美術修復家宅を訪れた時、蝋管をなめてカビの種類を当てた少女の逸話など。
    • このプロジェクトのTV番組制作スタッフが緊急地震速報に関わっていたために、伊福部達教授にチャイム音の製作依頼が来たという運命の糸について。
  • チャイム音にもとめられるもの
    • (1)注意を喚起させる音であること
    • (2)すぐに行動したくなるような音であること
    • (3)既存のいかなる警報音やチャイム音とも異なること
    • (4)極度に不快でも快適でもなく、あまり明るくも暗くもないこと
    • (5)できるだけ多くの聴覚障害者に聴こえること
  • 福祉工学の可能性


 音楽業界の出版物を手がけているヤマハミュージックメディアが手がけた意欲作である。音声科学、心理学、音楽などの話題を核に、福祉工学に関する興味深い話が展開されている。聴覚障害視覚障害など感覚系障害に対する福祉工学の可能性について肩のこらない話題をもとにまとめられている。
 映画、音楽、医学どこの書棚においても違和感なく受け入れられるネーミングである。ただし、題名の割には、装丁がシンプルである。ゴジラの写真を使うなどのもう一工夫があったら、もっと売れるのにとやや残念に思う。

被災者医療費自己負担分免除措置延長に関する通知を確認

 被災地の医療費自己負担免除は2月末で終了?(2012年2月6日)に関する続報。
 東日本大震災に関する情報:お知らせ - 全日本病院協会内に、2012.02.01 ●東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震による被災者に係る一部負担金等の取扱いについて(その12)(平成24 年3月以降の診療等分の取扱い)(厚生労働省保険局医療課:H24.1.31)という資料があった。

 今般、「東日本大震災により被災した被保険者等の一部負担金の免除措置に対する財政支援の延長等について」(平成24年1月31日付厚生労働省保険局保険課・国民健康保険課・高齢者医療課・総務課医療費適正化対策推進室事務連絡)が発出され、一部負担金の免除措置に対する財政支援の期間について、東京電力福島第一原子力発電所事故による警戒区域等(※)の全ての住民(全被保険者等)については、平成25年2月28日まで延長すること、東日本大震災による被災区域(警戒区域等以外)の住民のうち、国民健康保険後期高齢者医療制度及び全国健康保険協会の被保険者等については、平成24年9月30日まで延長することが示されたことに伴い、平成24年9月30日までの取扱いについては、下記のとおりとするので関係団体に周知を図るようよろしくお願いしたい。
 なお、平成24年10月1日以降の取扱いについては、追って連絡する。


(中略)


(※)警戒区域計画的避難区域、旧緊急時避難準備区域、特定避難勧奨地点(ホットスポット


 既報のとおりだった。被用者保険以外は、窓口負担金免除が継続されるとのこと。医療費負担を心配している患者に上記内容を説明することにする。