ゴジラ音楽と緊急地震速報
ネーミングに負けて、思わず購入してしまった本である。
ゴジラ音楽と緊急地震速報~あの警報チャイムに込められた福祉工学のメッセージ~
- 作者: 筒井信介,伊福部達
- 出版社/メーカー: ヤマハミュージックメディア
- 発売日: 2011/12/22
- メディア: 単行本
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「チャラン・チャラン、緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください。」というアナウンスの時に流れる、あの「チャラン・チャラン」というチャイム音の誕生秘話である。
このチャイム音の製作者は、福祉工学の専門家である東京大学の伊福部達教授である。伊福部達教授は、「ゴジラ」の映画音楽を担当した叔父の伊福部昭氏が作曲した交響曲の和音の一部を題材に、緊急地震速報チャイムを作成した。たったこれだけの話をもとに、次のような多彩な話題が展開されている。
- ゴジラ音楽と映像音楽4原則
- 地震の起きる状況を映画として捉え、チャイム音に映画音楽のようなメッセージ性を持たせた。
- 座頭市と気配
- 「気配」の正体は「音」すなわち「環境雑音」。全く反響音のない無響室では、視覚障害者は「気配」に気づかない。
- 叫び声のメカニズム
- 女性の「キャーッ」という叫び声は4kHz。この高さの叫び声が最も強く恐怖を感じ、遠くまで届く。
- 音の福祉工学と聴覚の世界
- 音のマスキング、指で聴く装置、音声タイプライタ、人工内耳などに伊福部達教授が関わってきた音に関する福祉工学の話。
- 樺太アイヌの歌を記録した蝋管再生プロジェクト
- チャイム音にもとめられるもの
- (1)注意を喚起させる音であること
- (2)すぐに行動したくなるような音であること
- (3)既存のいかなる警報音やチャイム音とも異なること
- (4)極度に不快でも快適でもなく、あまり明るくも暗くもないこと
- (5)できるだけ多くの聴覚障害者に聴こえること
- 福祉工学の可能性
音楽業界の出版物を手がけているヤマハミュージックメディアが手がけた意欲作である。音声科学、心理学、音楽などの話題を核に、福祉工学に関する興味深い話が展開されている。聴覚障害、視覚障害など感覚系障害に対する福祉工学の可能性について肩のこらない話題をもとにまとめられている。
映画、音楽、医学どこの書棚においても違和感なく受け入れられるネーミングである。ただし、題名の割には、装丁がシンプルである。ゴジラの写真を使うなどのもう一工夫があったら、もっと売れるのにとやや残念に思う。