サイコパスの脳

 前エントリーに引き続き、中野信子著「サイコパス」の話をする。

サイコパス (文春新書)

サイコパス (文春新書)


 中野信子氏は、共感性の欠如仮説の立場より、サイコパスの脳の特徴を次のようにまとめている。

 脳の前頭前皮質のうち、眼窩前頭皮質と内側前頭前皮質の両方の機能が低下していると、反社会的行動の危険性が高まります。
 そしてサイコパスは、扁桃体眼窩前頭皮質および内側前頭前皮質とのコネクティビティが弱いとされています。
 大まかに、扁桃体の異常は「感情の欠如」に関わり、前頭前皮質の異常またはコネクティビティの弱さは学習や自省、情動を抑えるといった「認知」に関わると考えられます。


 実は、中野信子氏の著書の前にサイコパスについて読んだ本がある。米国の神経科学者ジェームス・ファロン著「サイコパスインサイド」である。

サイコパス・インサイド―ある神経科学者の脳の謎への旅

サイコパス・インサイド―ある神経科学者の脳の謎への旅


 本書の概要は以下のとおりである。
 ファロン氏はPETやfMRIを駆使して、サイコパスの画像所見にある特徴的なパターンを認めることに気づいていた。しかし、ある日、自分を含めて撮った正常対照群の画像を解析中に、サイコパス特性のあるものが見つかり調べてみたところ、そのスキャン画像の持ち主が自分であったという衝撃的な事実に気がついてしまった。サイコパスの研究を進めるなかで、成功した神経科学者となった自分の人生を振り返り、三脚理論を提唱するに至った。


 三脚理論については、中野信子著「サイコパス」に次のように紹介されている。

  1. 眼窩前頭前皮質と側頭葉前部、扁桃体の異常なほどの機能低下
  2. いくつかの遺伝子のハイリスクな変異体(MAOAなど)
  3. 年少期早期の精神的、身体的、あるいは性的虐待

 この3つが揃わなければ、反社会的行動をするサイコパスにはならないと指摘しています。さらに、ファロン自身および彼の一族は1.と2.には該当する(!)ものの、3.だけがなかったということを告白しています。


Amygdala

 扁桃体は上図で赤く示されている部分である。
 扁桃体大脳辺縁系の一部であり、快・不快、恐怖といった基本的な情動を決める。感情を伴う「熱い共感」に関わる部分であり、「他者に必要とされる・愛される」といった、より高次で社会的な行動に対しても、報酬系の一部として活性化される。しかし、サイコパスでは、扁桃体の機能が低下しており、恐怖や不安といった基本的な情動の働きが弱い。このため、情動よりは理性や知性が働きやすく、合理的な計算づくの対応を選ぶ。


Ptsd-brain


 内側前頭前皮質は上図で紫色で示された部分であり、眼窩前頭皮質はその下方の部分である。扁桃体 (amygdala)はオレンジ色で示されている。
 眼窩前頭皮質は、相手に対する共感を持つことで、衝動的な行動にブレーキをかける。一方、内側前頭前皮質は良心によるブレーキをかける。人間は成長するにつれ、このような社会性を司る前頭前皮質と、恐怖や罰を痛みとして受け取る扁桃体のコネクションができてくる。サイコパスは、恐怖や罰から社会的文脈を学習して、罪や罰の意識を覚えることができない。いわば、良心というブレーキがない脳を持っている。サイコパスは、自分の特徴にどこかの時点で気づく。サイコパスも良心の呵責や罪悪感を口にすることがあるが、「自分が悪いと感じているように見せる」ことが有効な処世術だと理解しているだけである。
 なお、勝ち組サイコパスと負け組サイコパスとでは、背外側前頭前皮質の厚さ、体積が違うことがわかっている。背外側前頭前皮質は、計画性や合理性、論理性を司る領域であり、「いまこれをやったら、あれが台無しになる。だからやめておこう」という冷静な判断を行う。このため、短絡的な反社会的行動を起こしにくい。


 サイコパス研究の結果、共感と良心に関係する脳の領域が明確になってきているといえる。失語症研究のなかで、言語野が特定されたのと同様の経過である。
 大多数の人間は情動と良心を結びつけることのできる脳を標準装備として生まれてくる。そして、社会のルールを身につける過程を経て、共感し人のために行動することに喜びを感じる脳を作りあげていく。原始的な脳である大脳辺縁系と人間らしさの特徴となっている前頭前皮質が、出生後の脳の成熟の過程を経て強固に結びつく。人間の特徴である向社会性に関する生物学的基盤の説明として、納得できる興味深い仮説ではないかと思う。

あなたの隣のサイコパス

 難しい脳科学をわかりやすく解説することで定評がある中野信子氏の著書「サイコパス」について紹介する。なお、本エントリーの表題「あなたの隣のサイコパス」は、本書の「はじめに」から引用したものである。

サイコパス (文春新書)

サイコパス (文春新書)


 私が重要だと思うところを箇条書きにまとめると次のようになる。なお、脳科学について触れた部分については、次のエントリーにまとめた。

  • サイコパスは、猟奇的な犯罪や連続殺人を犯しやすい反社会的人格を説明するものとして定義された概念である。精神医学では、「反社会性パーソナリティ障害」という診断基準が最も近い。近年の脳科学の発展のとともに、そのサイコパスの実態が明らかになってきている。
  • サイコパスは尊大で、自己愛と欺瞞に満ちた対人関係を築き、共感的な感情が欠落し、衝動的で反社会的な面を持つ。また、無責任な生活スタイルを選択する傾向がある。
  • ただし、すべてのサイコパスが犯罪者予備軍ではない。「サイコパス=犯罪者」というレッテル貼りは非常に危険である。
  • サイコパスはグレーゾンを含め、おおよそ100人に1人の割合で存在する。
  • サイコパスは、共感性が低いが、相手の目つきや表情からその人が置かれている状況を読み取る才能が際立っている。サイコパスは人の弱みにつけこみ、コントロールする技術に長けている。
  • 悪意をもったサイコパスに利用されないように、サイコパスを見抜く力が求められる。
  • サイコパスには、「勝ち組サイコパス(成功したサイコパス、捕まりにくいタイプ)」と「負け組サイコパス(悪事が発覚し捕まりやすいタイプ)」がある。「負け組サイコパス」は共同体から排除され子孫を残すことは困難である。
  • 一方、歴史上の人物には、排除されずにのし上がった「勝ち組サイコパス」と思われる者も散見される。織田信長毛沢東、ロシアのピュートル大帝などが疑わしい。ジョン・F・ケネディビル・クリントンなど何人もの米大統領サイコパス特性を示している。アップルのスティーブ・ジョブスは、世界で最も洗練された「勝ち組サイコパス」ではないかと考えられる。
  • サイコパスは、遺伝的要因と後天的要因との相互作用で発現するが、前者の影響の方が大きいと想定される。一方、幼少期の虐待、母性の剥奪、劣悪な養育環境といった負の刺激がが引き金となって反社会性が高まる可能性があることも指摘されている。
  • サイコパス、すなわち「良心を持たない人たち」の存在は、人間がなぜ良心を持っているのか、良心は何のためにあるのかを改めて気づかせてくれる、格好の比較対象になる。
  • サイコパスの倫理観や道徳観念を変えようとする努力は無駄である。暴力や破壊行為に直接結びつくリスク要因に照準を定めた介入が適当である。
  • 自分がサイコパスかもしれないと思った場合、サイコパス向きである仕事を見つけ、それに邁進することが最も現実的な手段、選択肢である。


 サイコパスである可能性があるのかどうかを推測する指標として、「PCL−R(The psychopathy Checklist-Revised)」がある。

  • 対人面に関する項目
    • 口達者/表面的な魅力
    • 誇大的な自己価値観
    • 病的な虚言
    • 偽り騙す傾向/操作的(人を操る)
  • 情動面に関する項目
    • 良心の呵責・罪悪感の欠如
    • 浅薄な感情
    • 冷淡で共感性に欠ける
    • 自分の行動に対して責任が取れない
  • 生活様式に関する項目
    • 刺激を求める/退屈しやすい
    • 寄生的な生活様式
    • 現実的・長期的な目標の欠如
    • 衝動的
    • 無責任
    • 放逸な行動
  • 反社会的な面に関する項目
    • 行動のコントロールができない
    • 幼少期の問題行動
    • 少年非行
    • 仮釈放の取消
    • 多種多様な犯罪歴
    • 数多くの婚姻関係


 本書の最後に、ケヴィン・ダットンの調査によるサイコパス度が高い(サイコパスが多い)職業ベスト10と、サイコパス度が低い(サイコパスが少ない)職業ベスト10を紹介されているので、引用する。なお、原著は主要参考文献に上がっていた以下の書籍と推測する。ケヴィン・ダットンはイギリスの心理学者であり、上記結果をそのまま日本に当てはめることは慎重にしなければならないが、なんとなくうなづける結果となっている。

サイコパス 秘められた能力

サイコパス 秘められた能力

サイコパスの多い職業トップ10

  1. 企業の最高経営責任者
  2. 弁護士
  3. マスコミ、報道関係(テレビ/ラジオ)
  4. セールス
  5. 外科医
  6. ジャーナリスト
  7. 警官
  8. 聖職者
  9. シェフ
  10. 公務員

サイコパスの少ない職業トップ10

  1. 介護士
  2. 看護師
  3. 療法士
  4. 技術者、職人
  5. 美容師、スタイリスト
  6. 慈善活動家、ボランティア
  7. 教師
  8. アーティスト
  9. 内科医
  10. 会計士


 歴史をひもとくと、権力者の交代に伴い残虐行為、大量粛清が繰り返されていることがわかる。権力を握る過程のなかで、サイコパス特性のある者が優位となる可能性があることが理由として考えられる。一方、個人主義の欧米と比べ、集団主義の日本ではサイコパスの発生率が低いのではないかということも指摘されている。平清盛は悪名高い人物だが、序列を乱された公家からの評判が悪いだけで、源義朝の子供たちを助けたことからわかるように、対立者を根絶やしにするようなことはしていない。平安時代には長期間死刑が行われなかったことも、世界史上特筆すべきことと言われている。ただし、戦国時代のように残虐な刑罰が行われていた時代もあり、日本人にサイコパスが本当に少ないかどうかについては留保が必要である。


 現代の世界情勢をみてみると、残虐行為を平然と行う為政者が少なからずいる。反対勢力の大量処刑を行っているとアムネスティーから批判されているシリアのアサド大統領や、政権幹部を含め反対勢力と見なされた者を残虐な方法で処刑していると伝えられる金正恩は、サイコパスではないかと私は思う。現米大統領のトランプ氏もサイコパス傾向がかなり強い人物ではないかという危惧をいだく。本書にも以下のような記載があるが、よく当てはまる。

 口がうまく、主張や態度をコロコロと変え、自己中心的で支配欲が強く、おのれの過失の責任は100%他人にあるような物言いをし、誇大妄想に取り憑かれているように見える。この人はいったい何をやりたいんだろう、何が楽しくて生きているのだろう、というふうに疑問を感じさせる著名な政治家や実業家が、誰にも幾人かは思い浮かぶのではないでしょうか。


 サイコパス特性を持つものが反社会的行為を行わないようにするために、遺伝子検査をして排除するのではなく、幼少時の環境を調整することによって反社会性の発現を抑えたり、適正のある職業に就くように促したりした方が良いという著者の主張は適切であると思う。ただし、医療職に関しては、やや違う意見を持つ。例えば、サイコパスは、一般人では不安や痛みを感じてしまいとても手を出せないようなことでも平気でやりとげることのできる才能を持つという意味で外科医の適性があるとなっている。ただし、日本の場合は手術だけをしている外科医は少なく、術後管理や患者・家族の心理的サポートもしなければならない。人間関係を築くことが不得手で、この人大丈夫かなと思う外科系医師は確かに存在するが、サイコパスは外科医に向いていると勧めるのは適当ではない。なお、リハビリテーション医は、上記リストには含まれていないが、介護士、看護師、療法士などと同じ範疇に入る。共感を感じることのできない人間には不向きな職種である。

排尿自立指導料に係る研修

 2016年3月4日、平成28年度診療報酬改定についてが更新され、告示・省令、通知が示された。膨大な資料のなかで重要と思われるものは、平成28年度診療報酬改定説明会(平成28年3月4日開催)資料等について内にある、平成28年度診療報酬改定説明(医科) III-1 通知その02III-1 通知その05、そして、III-1 通知その06である。
 また、疑義解釈資料の送付について(その1)平成28年3月31日も出ている。
 今回は、排尿自立指導料について検討する。


 施設要件は次のとおりである。

第11の3の3 排尿自立指導料
1 排尿自立指導料の施設基準
(1) 保険医療機関内に、以下から構成される排尿ケアに係るチーム(以下「排尿ケアチーム」 という。)が設置されていること。
 ア 下部尿路機能障害を有する患者の診療について経験を有する医師(他の保険医療機関を主たる勤務先とする泌尿器科の医師が対診等により当該チームに参画してもよい。)
 イ 下部尿路機能障害を有する患者の看護に従事した経験を3年以上有し、所定の研修を修了した専任の常勤看護師
 ウ 下部尿路機能障害を有する患者のリハビリテーション等の経験を有する専任の常勤理学療法士
(2) (1)のアに掲げる医師は、3年以上の勤務経験を有する泌尿器科の医師又は排尿ケアに係る適切な研修を修了した者であること。なお、ここでいう適切な研修とは、次の事項に該当する研修のことをいう。
 ア 国及び医療関係団体等が主催する研修であること。
 イ 下部尿路機能障害の病態、診断、治療、予防及びケアの内容が含まれるものであること。
 ウ 通算して6時間以上のものであること。
(3)  (1)のイに掲げる所定の研修とは、次の事項に該当する研修のことをいう。
 ア 国及び医療関係団体等が主催する研修であること。
 イ 下部尿路機能障害の病態生理、その治療と予防、評価方法、排尿ケア及び事例分析の内容が含まれるものであること。
 ウ 排尿日誌による評価、エコーを用いた残尿測定、排泄用具の使用、骨盤底筋訓練及び自己導尿に関する指導を含む内容であり、下部尿路機能障害患者の排尿自立支援について十分な知識及び経験のある医師及び看護師が行う演習が含まれるものであること。
 エ 通算して16時間以上のものであること。
(4) 排尿ケアチームは、対象となる患者抽出のためのスクリーニング及び下部尿路機能評価の ための情報収集(排尿日誌、残尿測定)等の排尿ケアに関するマニュアルを作成し、当該保険医療機関内に配布するとともに、院内研修を実施すること。
(5) 包括的排尿ケアの計画及び実施に当たっては、下部尿路機能の評価、治療及び排尿ケアに関するガイドライン等を遵守すること。
2 届出に関する事項 当該指導料の施設基準に係る届出は、別添2の様式13の4を用いること。


 疑義解釈資料の送付について(その1)平成28年3月31日の問97には、次のような記載がある。

(問97) 区分番号「B005-9」排尿自立指導料の医師及び看護師の要件である研修の内容が施設基準通知に示されているが、具体的にはどのような研修があるのか。

(答) 現時点では、以下のいずれかの研修である。 医師については、日本慢性期医療協会「排尿機能回復のための治療とケア講座」、看護師については、
1  日本看護協会認定看護師教育課程「皮膚・排泄ケア」の研修
2  日本創傷・オストミー・失禁管理学会、日本老年泌尿器科学会、日本排尿機能学会「下部尿路症状の排尿ケア講習会」
3  日本慢性期医療協会「排尿機能回復のための治療とケア講座」
 なお、特定非営利活動法人日本コンチネンス協会が行っている「コンチネンス中級セミナー」及び認定特定非営利法人愛知排泄ケア研究会が行っている「排泄機能指導士養成講座」は、排尿自立指導料にある 所定の研修の内容としては不十分であり、所定の研修とは認められないが、「コンチネンス中級セミナー」と併せて、「コンチネンス中級セ ミナー追加研修」を修了した場合又は「排泄機能指導士養成講座」と併せて「下部尿路機能障害の排尿自立支援指導講習」を修了した場合 には、必要な研修内容を満たすものとなるため、排尿自立指導料にある所定の研修とみなすことができる。


 医師及び看護師に関する研修として、日本慢性期医療協会 - [研修会・シンポジウム]内に、「排尿機能回復のための治療とケア講座」(2016年5月16日(月)〜5月18日(水))開催案内がある。当面、医師に係る研修はここしかない。5月16日(月)1日だけの参加となっている。締切は4月8日(金)と迫っており、明日、明後日中には判断を下す必要がある。
 看護師に関しては、第4回下部尿路症状の排尿ケア講習会もあるが、いずれかの学会会員である必要があり、利用しにくい。
 理学療法士だけは、「下部尿路機能障害を有する患者のリハビリテーション等の経験を有する」という条件だけで済んでいる。
 リハビリテーション対象者には、下部尿路機能障害対象者が少なくない。回復期リハビリテーション病棟転院時に尿道カテーテル留置されている者に対し、チームアプローチをすると、排尿自立指導料が週1回算定できる。リハビリテーション医療の重要な領域と認識し、算定を目指すべきと考える。(以下、追加)ただし、残念ながら、回復期リハビリテーション病棟でも、地域包括ケア病棟でも算定できないことがわかった。なお、一般病棟入院基本料は算定可能であることを確認済みであり、当院では、一般病床の患者のみを対象とすることにした。


<追記> 2016年5月18日
1. タイトル、本文の中で、排尿自立支援料と記載していたが、排尿自立指導料の間違いだったため、修正した。
2. 回復期リハビリテーション病棟では排尿自立指導料が算定できないことがわかったため、削除した。回復期リハビリテーション病棟入院料の注4を見ると、次のように記載されている。包括される「診療に係る費用」の除外要件に排尿自立指導料は含まれていない。同様に、地域包括ケア病棟入院料の注6にも同様の規定がある。診療事務に指摘されるまで、全く気づかなかった。

 注4: 診療に係る費用(注2、注3及び注5に規定する加算、当該患者に対して行った第2章第2部在宅医療、第7部リハビリテーションの費用(別に厚生労働大臣が定める費用を除く。)、第2節に規定する臨床研修病院入院診療加算、医師事務作業補助体制加算(一般病棟に限る。)、地域加算、離島加算、医療安全対策加算、感染防止対策加算、患者サポート体制充実加算、データ提出加算、退院支援加算(1のイに限る。)、認知症ケア加算、薬剤総合評価調整加算、区分番号J038に掲げる人工腎臓並びに除外薬剤・注射薬の費用を除く。)は、回復期リハビリテーション病棟入院料に含まれるものとする。

PT・OT・ST国家試験合格者発表2016

 理学療法士作業療法士言語聴覚士国家試験の合格者が発表された。国家試験合格発表|厚生労働省に合格率・合格者数が載っている。


 今年の受験者数、合格者数、合格率は以下のとおりである。

受験者数 合格者数 合格率
理学療法士  12,515  9,272  74.1%
作業療法士  6,102  5,344  87.6%
言語聴覚士  2,553  1,725  67.6%


 過去5年間の受験者数、合格者数、合格率を示す。
# 2015年

受験者数 合格者数 合格率
理学療法士  12,035  9,952  82.7%
作業療法士  5,324  4,125  77.5%
言語聴覚士  2,506  1,776  70.9%


# 2014年

受験者数 合格者数 合格率
理学療法士  11,129  9,315  83.7%
作業療法士  5,474  4,740  86.6%
言語聴覚士  2,401  1,779  74.1%


# 2013年

受験者数 合格者数 合格率
理学療法士  11,391  10,104  88.7%
作業療法士  5,279  4,079  77.3%
言語聴覚士  2,381  1,621  68.1%


# 2012年

受験者数 合格者数 合格率
理学療法士  11,956  9,850  82.4%
作業療法士  5,821  4,637  79.7%
言語聴覚士  2,263  1,410  62.3%


# 2011年

受験者数 合格者数 合格率
理学療法士  10,473  7,786  74.3%
作業療法士  5,824  4,138  71.1%
言語聴覚士  2,374  1,645  69.3%


 第1回言語聴覚士試験があった1999年から今年までの合格率は以下のとおりである。

理学療法士 作業療法士 言語聴覚士
2016年  74.1%  87.6%  67.6%
2015年  82.7%  77.5%  70.9%
2014年  83.7%  86.6%  74.1%
2013年  88.7%  77.3%  68.1%
2012年  82.4%  79.7%  62.3%
2011年  74.3%  71.1%  69.3%
2010年  92.6%  82.2%  64.8%
2009年  90.9%  81.0%  57.3%
2008年  86.6%  73.6%  69.5%
2007年  93.2%  85.8%  54.5%
2006年  97.5%  91.6%  62.4%
2005年  94.9%  88.4%  55.8%
2004年  97.9%  95.5%  68.4%
2003年  98.5%  91.6%  42.0%
2002年  95.7%  90.6%  53.8%
2001年  96.9%  94.8%  49.1%
2000年  95.4%  97.5%  42.4%
1999年  93.5%  90.6%  87.9%


 2011〜2016年の受験者数を見ると、PTは10,473→11,956名と増加傾向だったが、2013年に初めて11,391名と減少し、2014年には11,129名とさらに減った。しかし、2015年は12,035名、2016年は12,515名と増加している。合格率は1999年以来最低の74.1%となっている。2010年まではほぼ毎年90%超えだったことを考えると、急速な落ち込みである。受験者のなかで、新卒者は10,562名であり、合格者・率は8,662名82.0%となっている。計算すると、既卒者は1,953名15.6%を占め、合格者・率は610名31.2%となっている。既卒者の合格率の低さが、全体の合格率を引き下げている。
 一方、OTの受験者は5,824→5,821→5,279と減少傾向だったが、2014年より5,474→5,324→6,102名と再び増加した。受験者のなかで、新卒者は5,004名であり、合格者・率は4,711名94.1%となっている。計算すると、既卒者は1,098名18.0%を占め、合格者・率は633名57.7%となっている。PTよりは良いが、既卒者の合格率は新卒者と比しかなり低い。
 STの受験者数は2,374→2,263→2,381→2,401→2,506→2,553名とやや増加傾向になっている。
 養成校急増の一方、ここ数年、PT・OTは受験者数減少というねじれ現象が生じていた。全国規模で養成校の定員割れが生じていたのではないかと推測する。さらに、国試浪人数増加とともに受験者数増加が生じ、既卒者の合格率低下も生じている。リハビリテーション関連職種の養成課程に重大な問題が起こっていることを危惧せざるをえない。

電気生理学的検査は大幅にアップ

 2016年3月4日、平成28年度診療報酬改定についてが更新され、告示・省令、通知が示された。膨大な資料のなかで重要と思われるものは、平成28年度診療報酬改定説明会(平成28年3月4日開催)資料等について内にある、平成28年度診療報酬改定説明(医科) III-1 通知その02III-1 通知その05、そして、III-1 通知その06である。
 今回は、脳波、筋電図の点数アップについて検討する。



 てんかん拠点病院など診療体制が整った施設での脳波関係の点数が軒並みアップしている。
 また、筋電図検査も1肢につき(針電極にあっては1筋につき)200点から300点へと大幅にアップしている。リハビリテーション医学にとって重要な診断技術である電気生理学的検査の評価が高まっている。
 神経学的検査チャートを用いた神経学的検査の点数もアップしている。

シャトルウォーキングテストの新設

 2016年3月4日、平成28年度診療報酬改定についてが更新され、告示・省令、通知が示された。 III-1 通知その02に、シャトルウォーキングテストという項目が新設されているのを発見した。診療報酬点数は200点となっている。


 通知では、次のように記載されている。

D211-4 シャトルウォーキングテスト
(1) シャトルウォーキングテストは、在宅酸素療法を施行している患者又は区分番号「C103」在宅酸素療法指導管理料の算定要件を満たす患者若しくは本試験により算定要件を満たすことが可能となる患者であって在宅酸素療法の導入を検討しているものに対し、医師又は医師の指導管理の下に看護職員若しくは臨床検査技師がパルスオキシメーター等を用いて動脈血酸素飽和度を測定しながら一定の距離を往復で歩行させ、歩行可能距離又は歩行持続時間、動脈血酸素飽和度及び呼吸・循環機能検査等の結果を記録し、医師が患者の運動耐容能等の評価及び治療方針の決定を行った場合に、年に4回を限度として算定する。なお、区分番号「D211-3」時間内歩行試験を併せて実施した場合には、時間内歩行試験又はシャトルウォーキングテストを合わせて年に4回を限度として算定する。
(2) 医師の指導管理の下に看護職員又は臨床検査技師シャトルウォーキングテストを行う場合は、医師が同一建物内において当該看護職員又は臨床検査技師と常時連絡が取れる状態かつ緊急事態に即時的に対応できる体制であること。
(3) 以下の事項を診療録に記載すること。
 ア 当該検査結果の評価
 イ 歩行可能距離又は歩行持続時間、施行前後の動脈血酸素飽和度、呼吸・循環機能検査等の結果
(4) 当該検査を算定する場合にあっては、以下の事項を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。
 ア 過去の実施日
 イ 在宅酸素療法の実施の有無又は流量の変更を含む患者の治療方針


 D211-3 時間内歩行試験とは、「パルスオキシメーター等を用いて動脈血酸素飽和度を測定しながら6分間の歩行を行わせ、到達した距離、動脈血酸素飽和度及び呼吸・循環機能検査等の結果を記録」するものである。こちらも200点である。
 在宅酸素療法の導入を検討しているものも対象となっている。慢性呼吸不全に対し呼吸器リハビリテーションを行っている患者にほぼ重なる。臨床検査技師と協力しながら、時間内歩行試験ないしシャトルウォーキングテストを定期的に評価し、診療録及び診療報酬明細書に記録するように心がけることが求められている。

ロボットスーツが歩行運動処置として保険収載される

 2016年3月4日、平成28年度診療報酬改定についてが更新され、告示・省令、通知が示された。膨大な資料のなかで重要と思われるものは、平成28年度診療報酬改定説明会(平成28年3月4日開催)資料等について内にある、平成28年度診療報酬改定説明(医科) III-1 通知その02III-1 通知その05、そして、III-1 通知その06である。
 今回は、ロボットスーツについて検討する。


 通知では、次のようになっている。

J118-4 歩行運動処置(ロボットスーツによるもの)
(1) 脊髄性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症シャルコー・マリー・トゥース病、遠位型ミオパチー、封入体筋炎、先天性ミオパチー、筋ジストロフィーの患者に対して、ロボットスーツを装着し、関連学会が監修する適正使用ガイドを遵守して、転倒しないような十分な配慮のもと歩行運動を実施した場合に算定する。
(2) 算定に当たっては、事前に適切な計画を策定した上で実施し、計画された5週間以内に実施される9回の処置が終了した際には、担当の複数職種が参加するカンファレンスにより、9回の処置による歩行機能の改善効果を検討すること。
(3) (2)に定めるカンファレンスにより、通常の歩行運動に比して客観的に明確な上乗せの改善効果が認められると判断される場合に限り、本処置を継続して算定できることとし、カンファレンスにおける当該検討結果については、その要点(5週間以内に実施される9回の処置の前後の結果を含む。)を診療録に記載した上で、診療報酬明細書に症状詳記を添付すること。


 現時点では、まだ対象疾患が限られている。治療効果が明らかになってきた段階で対象疾患が拡大され、次第に一般的な治療法となっていくものと推測する。