マグミットをウブレチドと間違え誤調剤した要因

 埼玉ウブレチド誤調剤事件の真相が少しずつ分かってきた。
 エラーページ |日本薬剤師会内にある[PDF形式:3ページ、73KB]に、日本薬剤師会の見解が載っている。

 さて、埼玉県警察本部は8月 19 日、埼玉県の薬局が誤調剤により患者1名を死亡させるなどしたとして、薬局開設者を業務上過失傷害容疑で、管理薬剤師を業務上過失致死容疑でさいたま地方検察庁書類送検したと発表しました。
 本件の詳細については明らかになっていませんが、これまでに本会が把握したところでは、平成 22 年3月 25 日に当該薬局でマグミット錠を自動錠剤分包機を用いて一包化する際、毒薬であるウブレチド錠が一包化されてしまい、これを服用した患者が平成 22 年4月7日に亡くなったとのことです。本件に関しては、調剤薬の鑑査を十分に行っていなかったことや、誤調剤に気が付いた後、当該患者に連絡を取り薬剤の回収を行わなかったことなど、患者の安全を確保する上で薬剤師として必要な対応がなされなかったことが問題点として指摘されています。

 調剤過誤の事実が判明した直接のきっかけは、当該患者が亡くなる直前、体調不良を訴えて医療機関を受診した際に、投薬された医薬品が間違っていることに気付いたことによりますが、当該薬局では 4 月 1 日に調剤過誤に気付きながらも、管理薬剤師は患者への服薬中止の指示や、調剤薬の回収をするなどの安全対策を講じず、放置していたことが判明しています。また、当該薬局の開設者は埼玉県薬剤師会の前会長で、本年 1 月までは本会の理事も務めていた、 指導的な立場にある薬剤師であります。


 本事件について、最も詳しく報道しているのは、やはり地元紙の埼玉新聞である。

  同課によると、昨年2月下旬ごろ、別の薬剤師がパソコンで自動錠剤包装機に「胃酸中和剤」の番号を登録した時、既に登録されている「コリンエステラーゼ阻害薬」と同じ番号を打ち込み二重登録。「胃酸中和剤」を選択しても、実際には先に登録されていた「コリンエステラーゼ阻害薬」が調剤されていたという。誤調剤は2月下旬ごろから、ミスが発覚した4月1日まで行われ、米沢さんを含む約20人に計約2700錠が処方されたとみられる。


  吉田薬剤師は「失敗を叱責(しっせき)されるのが嫌で、回収の指示や報告をしなかった」、小嶋薬剤師は「客を待たせたくなかったので(部下に)薬の中身を確認させなかった」と話しているという。


(中略)


 自動錠剤包装機は、数百個に分けられた「引き出し」に、薬を種類ごとに収納。そこから、1回に服用する薬を、処方せんに基づいて数百種類の中から必要な種類と分量だけ選び出し、1包みごと袋に小分けしていく装置だ。「引き出し」には番号を割り当て、管理用のパソコンで薬剤名を登録。今回の死亡事故は「胃酸中和剤」と「コリンエステラーゼ阻害薬」の「引き出し」に、同じ番号をつけてしまったために起きた。


(中略)


 県薬務課は事故の報告を受けて昨年4月23日、県薬剤師会や県内の保健所を通じて、県内2488薬局に機械の適正管理と「監査」の徹底を注意喚起。同課は「自動錠剤包装機による誤調剤事故は、年に数件報告されていたが、昨春に対策を強化してからはない。今後も指導を継続していく」としている。

http://www.saitama-np.co.jp/news08/20/02.html


 誤調剤は、ヒヤリハットを含め医療事故の中で最も頻度が高いもののひとつである。誤薬に関しては、患者確認ミス、類似薬処方、容量間違いなどがあることは医療関係者の間ではよく知られており、対策も練られている。一方、自動錠剤包装機によるニアミス・事故については、私は今回初めて知った。埼玉県薬務課の報告をみる限り、日本全体で3桁を超える数があるのではないかと推測され、決して稀な事例ではない。
 自動錠剤包装機による誤調剤事故は明らかなシステムエラーであり、改善の可能性がある。少なくとも、同じ番号が登録されるソフトなどあってはならない。劇薬扱いの薬を調剤する時に警告が出るシステムも必要である。ヒューマンエラーを防ぐための自動錠剤包装機のコンピューターシステム改善は焦眉の課題とメーカーを心得るべきである。薬剤師団体も、自分たちが気をつければ済む問題と考えず、業者に改善を強く訴えていく必要がある。
 もうひとつの大きな問題は、医療安全を何よりも優先する組織風土が、この調剤薬局になかったことである。経営重視、効率優先で、ミスを個人責任にする体質が今回の事故を誘発した。規模こそ異なるが、福島第一原発事故を起こした東京電力と同じ匂いを本事件に感じる。
 軽微なミスを含め、医療安全に関わる情報を広く集め、対策を立てることはリスク管理の基本である。個人責任を問うことよりより重要である。調剤薬局は、医師の処方ミスがあっても遠慮している連絡しない傾向がある。「どうしてこんなつまらないことで連絡してくるんだ。」と理不尽に怒り散らすことなく、「連絡してくれてありがとう。」と優しく接するように心がけたい。