薬の包装シートの誤飲事故

 10数年前より、錠剤シートは1錠ずつ切り離せないような構造になっている。高齢者の誤飲事故が相次いだために、製薬メーカーが包装形式を改善した。しかし、包装の工夫だけでは、同種の事故は根絶されていないことが明らかになった。
 注意!高齢者に目立つ薬の包装シートの誤飲事故−飲み込んだPTP包装が喉や食道などを傷つけるおそれも−(発表情報)_国民生活センターが報告された。

 薬を包装ごと飲みこんでしまい、喉や食道などを傷つけたという事故が危害情報システムに86件寄せられている。


 薬の包装は、プラスチックにアルミなどを貼り付けたPTP包装シートと呼ばれるものが主流である。1996年以前のPTP包装は、縦横にそれぞれミシン目が入って、1錠ずつ切り離せる構造だったが、錠剤と一緒にPTP包装を誤飲してしまう事故が頻発したため、1錠ずつに切り離せないようにミシン目を一方向のみとし、誤飲の注意表示を増やすなどの対策がとられた。しかし、その後も依然として誤飲事故は後を絶たない。


 1錠単位に切り離した薬をPTP包装のまま飲み込んでしまうと、自力で取り出すことは難しく、X線写真にも写りにくいため、内視鏡で取り出すことになり、身体への負担も大きい。そこで、被害の未然防止・拡大防止のため、あらためて消費者への注意を喚起する。


 注意!高齢者に目立つ薬の包装シートの誤飲事故−飲み込んだPTP包装が喉や食道などを傷つけるおそれも−という資料が添付されている。相談者の属性は次のようになっている。

 性別で見ると、86 件中、61 件(70.9%)が女性、25 件(29.1%)が男性であり、女性が 7 割を占める。
 年代別にみると、70 代 29 件(33.7%)、80 代 23 件(26.7%)、60 代 17 件(19.8%)などとなり、 70 代、80 代、60 代で 8 割を占め、高齢者に事故が多いことがわかる。


 残念なことに、紹介事例も含め、事故当事者の生活機能が全く記載されていない。あんな固くとがったものをまるごと服用しようと試みる者がいるなど、常識の範疇を外れている。中には内視鏡で発見されるまでわからないという者もいる。誤飲を起こした者のかなりは認知症患者ではないかと判断せざるをえない。
 事故予防対策として、「誤飲してしまった場合に体内で溶ける素材や、X線を透過しない材質の開発の他に、PTP 包装の角を丸くして体内に刺さらない形状にするなど、製品側の事故防止策も望まれる。」とあるが、それ以上に認知症の有無を確認することが重要である。認知症者では、基本的ADLが自立している段階でも、服薬管理や金銭管理、火の始末などの手段的ADLに監視が必要となることが多い。高速道路を逆走したり、徘徊して行方不明になったりするのも、このタイプの認知症高齢者である。
 事故予防対策をとるためには、事故を起こした当事者自体の状況を明らかにする必要がある。集中的に対応をとるべき対象が明らかになれば、一包調剤や服薬カレンダーなどの工夫もとることができる。しかし、国民生活センターは、製品提供側に注意を促すことに終始している。真剣に事故対策に取り組んでいるのか、いつもながら疑問を覚える。