食事提供ミスよりは摂食時の観察不足が事故原因としては重大

 食事提供ミスが患者の窒息死亡事故の原因とされ、看護師と栄養士が書類送検された。

平塚市民病院の食事提供ミス:業務上過失致死容疑、看護師と栄養士書類送検 /神奈川


 平塚市民病院の食事の提供ミスで入院患者が死亡した事故で、平塚署は15日、女性看護師(26)と女性栄養士(24)を業務上過失致死容疑で横浜地検書類送検した。送検容疑は09年2月15日午前8時半ごろ、入院中の茅ケ崎市の無職女性(当時79歳)に、細かく刻んだ食事でなく普通の食事を提供、食べ物をのどに詰まらせて窒息死させたとしている。


 県警によると、食事変更に関し病院の内規はパソコン上と口頭での連絡を定めているが、看護師は口頭連絡を怠り、栄養士はパソコン上の連絡を確認しなかった。2人は「注意を怠っていた」と供述しているという。【吉住遊】

http://mainichi.jp/area/kanagawa/news/20100116ddlk14040253000c.html


 http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/press/pre20080716.htmに、本件の経過が詳しく記述されている。摂食嚥下障害の状況に着目してまとめると、次のようなことが分かる。


 患者は、79歳の女性である。右足大腿骨頸部骨折で入院した時に「常食」が自動的にオーダーされた。病棟看護師が高齢者向けの軟食に変更したが、実際に配膳されたのは常食だった。患者は、家族に見守られながら常食を摂取した。夕食後、前病院からの情報に基づき、看護師は翌朝食の食事オーダーを「軟食」から「エネルギーコントロール食」(主食:全がゆ/副食:刻み)に変更入力した。
(看護師等が午後3時以降(翌日の食事は午後4時以降)に食事内容を変更した場合は、必ず栄養科に電話連絡するルールになっているものの、この手続きを省略)
 翌日の朝食時に事故が起こる。

午前
8:20 看護師が病室に「エネルギーコントロール食」の朝食を配膳し、ベッドを90度傾けて上体を起こす。スプーンを使ってむせることなく食事を進めており、そしゃく状況、飲み込み等に問題がないことを確認して退室

8:30 主食の米飯及び副食のサワラの白焼きは完食。副食のキャベツとニンジンのソティが残っており、看護師の「野菜も食べて」との声かけに「うん」と返事


8:40 看護師が、ベッド上でうなだれて嘔吐している患者を発見。
     応急処置を施すとともに医師に連絡。
     吸引や心肺蘇生措置を繰り返したものの回復せず、死亡確認(9:42)

(オーダー内容が印字される食事箋には正しく記載されていたものの、食事を準備する際に管理栄養士が確認を怠り、全粥、刻みではない形態(米飯、副食は刻みでない)で出した。)


 ( )内に記載されたような注意ミスが窒息死亡事故の原因とされたが、どうにも釈然としない。
 まず、本事故が食事を誤嚥したため起こったのか、嘔吐に伴い吐物を吸引して生じたのかが分からない。また、少なくとも、監視下で自力摂食をする能力があったことより、嚥下障害があったとしても重度ではなかったと推測する。
 本事故の最大の問題は、摂食時に監視が必要であったにも関わらず、誰もいないところで1人で食事をさせたことである。高齢者は窒息事故を起こしやすい。嚥下障害を疑う場合、ディルームなどでスタッフ監視の下に食事をさせる必要がある。
 本事故は、明らかなシステムエラーである。窒息事故に対するリスク管理が不足していたことが問題である。窒息事故の責めを看護師と栄養士に負わせるのは明らかな誤りである。