運転不適格者の除外には、欠格条項の厳格化より更新制度の改正が適切

 てんかん発作と交通事故(2011年4月22日)のコメント欄で記載した内容を、加筆してエントリーとしてあげます。


 運転不適格者を除外するためのシステムとしては次のようなものがあります。
(1)教習所:安全に運転できるかどうかは、実際の運転を見れば良くわかります。ただし、厳密なチェックはしにくいのが現実です。あの教習所では免許がとりにくいという評判がたったら、経営的に成り立ちません。また、暴走運転の危険がありそうな人でも、教習所では猫をかぶっているはずです。
(2)資格試験:教習所を卒業していれば、実地試験は免除されます。ペーパー試験だけでは、チェックには限界があります。
(3)更新制度:飲酒運転など交通違反を繰り返す者、重大な事故を起こした者の中には、運転不適格者が含まれています。ただし、実際には、免許取り消しになった者でも、一定の期日後には再交付が受けられます。
(4)高齢ドライバーに対する認知機能検査:高齢ドライバーの事故急増を受け、一昨年から実施されたものです。(参照:高齢者ドライバーに対する認知機能検査、6月1日から開始(2009年5月27日))高齢ドライバーからは非難囂々のようですが、時代の要請と考えるべきものと、私は評価しています。
(5)欠格条項:2002年の道路交通法改正で、相対的欠格事由に該当するかどうかを判断するための申告書記入が義務づけられました。申告書の内容次第では、運転適正相談を受けることになり、医師の診断書提出が義務づけられています。


 上記のうち、(1)から(3)までが従来の制度としてあったものです。(4)は、高齢社会の進行にあわせ規制強化として行われました。一方、(5)は、従来の欠格事項の緩和となっていますが、運用自体は厳格化されたと私は判断しています。特に、脳血管障害などの後天的障害の場合には、一見して身体障害が分かるために、以前に比べ相談に来られる方が増えています。
 今回、欠格条項に相当するてんかん患者が、免許所得要件を守らずにクレーン車を運転し、事故を起こしています。このため、てんかん患者に対する規制強化が主張する方がネット上で増えている印象を受けます。しかし、私としては、本当に問題にすべきなのは、(3)の部分ではないかと思います。

 柴田容疑者は08年4月、車で通勤途中に鹿沼市御成橋町の国道交差点で、歩道を歩いていた当時小学5年の男児(9)をはね、右足骨折の大けがをさせ、執行猶予付きの有罪判決を受けた。当時勤務していた会社の男性社長によると、柴田容疑者は入社時に持病を伝えておらず事故後、退職を申し出に訪れた際、母親が持病があることを告げたという。


 また、柴田容疑者はこの事故以前にも勤務中に2回、休日に3回物損事故を起こしていた。いずれも「夜遊びしすぎで居眠りした」「スピードを出しすぎて曲がりきれなかった」などと説明していたという。

http://mainichi.jp/area/tochigi/news/20110423ddlk09040205000c.html


 「居眠り」を事故の原因として運転手が主張するような場合、睡眠時無呼吸症候群てんかんがないという診断書がない限り、運転を許可すべきではないと私は考えます。睡眠時無呼吸症候群における居眠り運転事故調査といった論文も既に出ています。また、飲酒運転を繰り返す者も、アルコール依存症がないことを確認すべきです。病気が原因であるならば、治療をしっかりとすれば、再び運転が可能になります。仕事を失うことをおそれ、病気を隠すことの方がより問題です。
 軽微だが重大事故につながるおそれがある場合には、原因を明らかにし、予防対策をとることが求められます。初回の事故は防げないにしろ、2回目以降の重大事故を予防するために必要な対応をとることは、リスク管理の基本です。