人工視覚実用化に向けた研究進む

 ブレイン・マシン・インターフェース(Brain Machine Interface 以下、BMI)研究が新たな局面を迎えた。

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 大阪大大学院医学系研究科(大阪府吹田市)の不二門尚(ふじかどたかし)教授(感覚機能形成学)、神田寛行助教らの研究グループは、網膜の異常で失明した「網膜色素変性症」の患者の網膜を、微弱電流で刺激し、視力を回復させることに成功した。


 6人中5人で効果が確認され、目の代わりとなる小型カメラでとらえた光の動きを追うことができた人もいた。国内で「人工視覚」の成功例は初めて。不二門教授は「数年以内につえなしで歩けるようにしたい」としている。

http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=33983


 BMI研究の第一人者川人光男氏の著書「脳の情報を読み解く BMIが開く未来」に、人工視覚研究の現状が記されている。

脳の情報を読み解く BMIが開く未来 (朝日選書)

脳の情報を読み解く BMIが開く未来 (朝日選書)


 BMIは、脳の情報を読み出し、機械に出力する「出力型BMI」と、脳に入力される感覚情報を機械から入るようにする「入力型BMI」に分類される。後者の成功例が人工内耳であり、実用化されて30年が経ち、世界で何十万人という人の福音になっている。
 一方、人工視覚は研究段階で実用化にいたっていない。最大の理由は電極の固定の困難さにある。人工内耳では電極の固定が良好であり、長期間にわたってある電極から刺激したときに興奮する神経の組み合わせが変化しない。このため、人工内耳による神経活動を脳が解釈できる。装着直後は雑音にしか聞こえないが、使い続けると意味ある音として聞こえてくる。しかし、人工視覚の場合、欧米で主流の網膜の内側に電極を置く方法では機械的な不安定さがある。
 この問題を解決したのが、不二門教授たちの研究グループが開発した脈絡膜上-経網膜刺激型人工網膜*1である。具体的な構造は、人工視覚の研究開発 | 株式会社ニデックに詳しい。

ニデックの人工視覚システム


国家プロジェクトの研究開発を継続して、当社が複数の大学と協力して取り組んでいる人工視覚システムは、 脈絡膜上-経網膜刺激型(STS:Suprachoroidal Transretinal Stimulation)とよばれ、網膜に刺激を与える方式の中で、 日本独自に開発しているものです。
このSTS方式では、眼球強膜に切り込みを入れてポケットを作り、その中に「刺激電極アレイ」を設置します。 そして、電極が網膜に直接接触しない状態で刺激をおこないます。
STS方式は、他の方式よりも、手術時に網膜を傷つけることが抑えられるのではないかと考えられています。


 適切な入力を与え続けると、ニューロンネットワークが変化し、脳がそのインプットの意味を解釈できるようになるという理論は、脳の可塑性、潜在能力を実証している。リハビリテーション関係者として、BMIの基本である人工内耳や人工視覚の理論的背景について、あらためて勉強しなければいけないと思っている。
 政府は医療関連産業を成長産業として支援していこうとしている。しかし、内視鏡など一部の技術を除いて、医療機器のかなりの部分が欧米で開発されたものであり、完全に輸入超過となっている。人工視覚に関しては、日本の技術が世界のスタンダードとなる可能性がある。その他にも、いくつかのBMI関連技術では、日本が世界のトップランナーに立っており、産業界の熱い視線が注がれている分野になっている。